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少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
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対亜人兵器の歓迎会

 大介は「全然待ってません」と無表情で答えながら、内心でテンションをあげた。今のやり取りは、大介が可愛い女の子としてみたいやりとりランキングのベストワンである。

女の子というにはやや年齢が上だが、これだけ美人なら何も文句はない。色白だが、あくまで健康的な肌は美しく、まつげは綺麗に上を向いている。たたえた柔和な微笑みは、上品だ。


「体調は大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


「なら安心したわ。疲れてない?」


「平気です。ただ、おなかは空いてるけど」


 大介のその言葉に、桜は「よかった」と悪戯っぽく笑った。今までとは少し違う表情に、大介は首を傾げる。


「何がですか」


 ふふ、と桜は鈴のような優しい声で笑うと、「一緒にご飯食べようか」と誘った。なんだか妙に楽しそうな理由は解らないが、大介としては誘いを断る理由もない。むしろ、美女から食事に誘われるなんて、歓迎する以外の気持ちが湧かなかった。

 大介が繰り返し頷くと、桜はますます表情をやわらげる。「行こっか」と誘う彼女に首肯して、大介は歩き出した。



 桜は美人なだけでなく、心も優しいらしい。道中も大介の体を労ってくれて、今記憶改ざんの手当てを受けている姉のことも、心配ないと断言してくれた。今までこの施設では、千人以上が記憶改ざんの措置を受けたらしいが、その全てに後遺症もなく、順調な術後経過を辿っているらしいのだ。先程は姉と小鳥の手前はっきりと口にはしなかったが、記憶改ざんなんて不審だと疑念を持っていた大介は、桜の言葉に安堵した。


 また、鯨から大介が犬好きであることを聞いていたのか、犬の話題も振ってくれた。大介は嬉しくなって、延々とポメラニアンの可愛さについて語っていた。我に返ったのは、見慣れない扉の前に立ったからである。あれ、と大介は首を傾げた。


「ここ、食堂じゃないです」


「うん。私の部屋」


「えっ」


 大介は、ずっと変わらなかった無表情をわずかに驚愕させ、激しく動揺した。


 そんな大胆な、だとか、俺達まだそんなんじゃ、というような言葉が浮かんでは口に出来ずに消える。中学一年生の男子は、突然招かれた女性の部屋に、喜ぶよりもうろたえるしかなかった。


 しかし表情の変化がわずかだった為、桜は気付かずあっさりと扉の側のモニターに近付いた。瞳を付属のセンサーに寄せる。ピピ、と電子音がして、施錠が開いた。虹彩認識の鍵らしい。ハイテクノロジーだな、と感心する余裕はまだなかった。


 ノブを握った桜は、扉を開く。「入って」と微笑んだその美しい笑みに、大介はたどたどしく頷いて、足を踏み入れた。


「よう、遅かったじゃねえか」


 ――そこにいたのは、対亜人兵器とされる面々であった。モデルルームぜんとした綺麗な部屋に、見覚えのある顔がずらりと並んでいて、その全員が大きなダイニングテーブルについている。


 頬杖をついてこちらに呼び掛けた鬼、その隣に腰をおろし嬉しそうに大介を見遣る鯨。そこから空席を挟み、柄悪く煙草をふかす蠍。隣では桃が、耳につけたピアスをいじっている。


 無表情で突っ立っている大介に、桜が背後から優しく声をかけた。


「せっかくだからね、一緒にご飯でも食べようかってことになって」


「……一緒に」


「うん。ほら、大介君は私達の仲間になるから。親睦を深めようってことで……つまり歓迎会ってところかな。皆でね」


「……皆で」


 大介は、ラジオのように桜の言葉を繰り返していた。どうしたの? と不思議そうにしている桜に、大介はのろのろと首を振る。鬼が鯨に、「アイツ、桜に誘われたって浮足立ってたんじゃね?」と耳打ちして、けらけらと笑う。なんとなく何を言っているか解った大介だが、しかし文句を言うよりも虚しさの方が勝ってしまい、ただ黙り込むしかないのだった。

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