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「そうなの。じゃあ俺は、どのくらいしたらお姉ちゃんと会えるの」
「今のところは不明だ。大介君にも、対亜人兵器としてやってもらわなければならないことが山ほどある。忙しくなるだろうから、すぐにとはいかないな。……本当に、申し訳ないが」
大介は「えー」と声をあげた。対亜人兵器だなんて言われて、ここで国民のために働けと命じられた時は、「まあ別にやりたいことがあったわけではないからいいか」と思ったが、姉と会えないのは嫌だった。大介だってもう中学生なのだから、日夜姉と過ごさなければいてもたってもいられないような子供ではない。けれども、唯一血の通った肉親に「いつ会えるか解らない」なんて言われれば、対亜人兵器としての生き方に尻込みしてしまう。
しかし、それをたしなめたのは小鳥ではなく姉であった。
「大介、我が儘言わないの。仕方ないでしょ? 大介はこれから忙しいんだから。それに、私も家の修繕とか、職場への連絡とか、色々しなくちゃいけないし。
……実際日々が始まってみたら、最初のうちは会いにこようなんて余裕もないわよ、きっと」
言い聞かすように言われた大介は、ほんの少しだけ――それこそ身内にしか解らないくらいわずかに唇を歪める。けれども、姉も小鳥も困ったようにこちらを見ているので、結局諦めて「解った」と答えた。
「……我慢して頑張る」
「そう。えらいわね」
姉が大介に笑った。大介は「俺は偉い」と答えて気を取り直す。姉と長らく会えないのは不満だが、せいぜい一ヶ月ほどだろう。いつまでもうだうだと言って困らせるよりも、割り切って日々を過ごした方がいいと思った。
「では、大介君は食堂に夕飯をとりに行ってくれ」
言いながら彼女は、懐からカードを取り出した。プラスチックで出来たそれには、“対亜人管理局局長 深山小鳥”と打たれている。
「券売機を使うのに必要なカードだ。読み取り口にかざせば使用出来る。使い方が解らないなら、食堂のカウンターでベルを鳴らせば、担当の者が出て来て教えてくれるだろう。もしも紛失したら、あとで必ず報告してくれ」
つまり、昼に鬼が使っていたものと同じそれなのだろう。大介はカードを受け取りながら、「はい」と頷いた。
「食堂への道は解るか?」
「解りません」
何の躊躇いもなく言い放った大介に、小鳥はすぐに「では、誰かに案内させよう」と答えた。
「じゃあ、桃さんか桜さんにお願いします。美人なので」
「……考慮する」
言った彼女は、部屋にある電話の子機を取り上げた。そして、「桜に繋いでくれ」と口早に命じると、すぐに相手を呼び付けていた。「やった」と無表情で喜ぶ大介に、姉は「大介も普通に女の子に興味あったのね……」と感慨深げに呟いていた。
小鳥が大介に向き直る。
「桜が来てくれるそうだ。彼女が来るまで、ここから出ないように」
「解りました」
大介は答えて、うきうきとソファに座りなおした。そして、「お姉ちゃん、お姉ちゃんが亜人のこと忘れても、俺はお姉ちゃんを忘れない」と慰めなのか励ましなのかよく解らないことを言って手を振る。姉は小さく笑って、その手を振りかえした。そして、部屋を出る小鳥のあとについていった。
扉の閉まる音が、室内に重く響いた。
*
十分も経たない間に桜が現れた。彼女は、髪飾りで二つに結わえた黒髪を揺らして微笑む。
「お待たせ」




