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多分、そうだと思う。
答えようとした大介は、不意に聞こえてきた足音に口をつぐんだ。部屋の扉を見遣って暫くすると、小鳥が部屋に足を踏み入れてきた。
「検査結果が出たぞ」
彼女は挨拶もそこそこに言うと、大介達の正面に勢いよく腰をおろした。黒い髪が、彼女の肩をするりと滑る。
「大介君の体の一部に、変化が見られた。まずは、頭部に出来た動物の耳だ。はっきり視認出来るほどではないが、人間とは異なる動物の体毛を採取出来た。現在は種族の特定を急いでいるところだが、ほぼ間違いなく哺乳類ではあるだろう。
また、他にもいくつかの変化が見られた。視力、聴力、嗅覚の向上、筋力の増大による体重の増加――また、これは長期的に経過を見ないと解らないが、消化能力などにも変化をきたしているかもしれない。
外見上目立った変化は起きていないが、内部はかなり変わっているようだ」
そこで小鳥は、真っ直ぐに大介を見据えた。ほとんど厳しい顔をしていたはずの彼女は、今、堪えきれないという風に微笑をたたえていた。
「――大介君」
「はい」
「君の亜人を抑えるまでの経過は、確かに少しイレギュラーだった。その原因はまだ、今のところ不明だ。しかし結果として、身体能力は上昇し、外見的にも僅かだが変化している。
――君は間違いなく、対亜人兵器になれる、我が国の未来を担う人材だ」
大介はそれを、唖然として聞いていた。未来を担う、だなんて、あまりにも極端だと思ったのだ。確かに、鯨や他の人間はそうなのだろう。突如現れた亜人に対抗しうる手段を持った人間であるに違いない。ただ、大介としては、少し視力があがっただけでそんな風に崇められると、なんだか違和感があるのだった。
「そんな大袈裟な」
大介は言ったが、小鳥は「大袈裟なものか」と答えた。声がわずかに上擦っている。
「ようやくだ。ようやく、六人に達した。君がどれだけ我々にとって、いや、国民にとって有益なことか――」
だんだんと興奮していった小鳥は、しかしすぐに我に返ると顔を赤らめた。失礼、と詫びた彼女は、目尻を朱に染めたまま、「とにかく」と話を進める。
「君は今日から、対亜人兵器として生活してもらう。よって、事前に話した通り、君の身柄はここ――対亜人兵器管理局に委ねられる」
「解りました」
最初から聞いていたことだったので、驚きはしなかった。大介は素直にこくりと頷く。そして、姉を見た。
「お姉ちゃん、なんか俺兵器になった。だから、ここで生活する」
姉は何も言わずに、ただ眉尻を下げた。しかし、大介は無表情で胸を張る。
「安心して、お姉ちゃん」
「……何が?」
「お姉ちゃんに寂しい思いはさせない。俺、毎週土曜日には家に帰るつもりだし。電話もメールもたくさんする。だからお姉ちゃん、待ってて。お土産も買ってくる」
――姉は暫し黙り込んでいたが、やがて笑みを作った。いつもと変わらない、しっかり者の姉としての笑顔だ。
「……解ったわ。楽しみにしてる」
「ん」
「でも、貴方は国の人を守るために頑張るんだからね? 勉強もしなきゃ駄目よ?」
「勉強はもういらない。俺、対亜人兵器だから」
「それならそれで、亜人の勉強がいるでしょう」
「そうだった」
どこに行っても勉強は付き纏うものだ。これが人生か。――そんなふうに大介が呟けば、姉は笑って「中学生が何知ったようなこと言ってるの」と呆れる。




