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大介も先程、写真に撮って見せてもらったが――からかわれて怒ってみせたものの、実際目の前にだされると、成る程確かに生えかけの乳歯だなあとしか思えなかった。
頭皮から突き出るように、獣の耳らしきものがわずかに生えているのだ。写真をしげしげと眺めた鬼が、「タイトル、“芽吹き”」などと呟いて、人の頭を勝手に芸術品のように扱っていたことを思い出す。
「……それで」
姉が、少し躊躇ったように切り出した。
「……その耳以外に、何か変わったことはあるの?」
「ああ」
大介は、そういえばそうだった、と頷く。
「あった」
「あったの?」
「うん。耳と鼻と目がよくなった」
「耳と鼻と目?」
「そう。あ、イケメンになったわけじゃない」
「それは解ってるわ」
さらりと失礼なことを言われた大介は軽くショックを受けたが、姉は気にもとめない。かわりに、「詳しく説明して」と急かす。
「具体的に、どうよくなったの?」
「ええと……まず、目は視力があがった」
「視力? でも、元々悪くなかったでしょ?」
「昨日の検査では、両目とも1.2だった。だけど、さっかはかったら、なんと3超えてた」
「3!?」
仰天した姉はすぐに我に返り、取り乱した自分を恥じるように咳ばらいをした。大介は気にせず語る。
「ものすごく遠くの小さい文字とか、今まではさすがに見えなかったけど、とてもはっきり見えるようになった。
最初は普通の視力だったけど、気付いたら、こう、輪郭線みたいなものがだいぶしっかり映るようになってた。お姉ちゃんも、いつもよりしっかり見える。ハイビジョン」
姉は暫く大介の目を見つめていた。そんなに見つめられると照れる、と大介は無表情で言うが、姉に「それで?」とあっさり流された。
「鼻っていうのは、嗅覚?」
「そう。最初は何も感じなかったけど、暫く検査してたら、だんだん色んなにおいがし始めた。消毒液とか、よく解らない薬のにおいとか。MRIに入った時には、他の人の残り香みたいなのもした。
それで、鯨さんに言ったら、すぐに別の検査に移った。色んなもの嗅がされて、テストみたいなの受けた。そしたら、嗅覚がよくなってるって解った」
「大丈夫なの? 気分悪くなったりしない?」
「大丈夫。気分はあんまり良くないけど、そんなに騒ぐほどじゃない」
大介が言うと、彼女はほっとした様子で「そう」と微笑を浮かべた。なんとなく力無い笑みに、大介は首を傾げる。どうかしたの、と尋ねると、姉はなんでもないと頭を振った。
「あと、良くなったのは耳よね。聴力が良くなったの?」
大介は頷いた。
「そう。これもちょっとうるさく感じるくらい、よくなった。でも、小鳥さんに耳栓を貸してもらったので、今は大丈夫。それでもまだかなり聞こえるけど」
「え? 今、耳栓してるの?」
まったく気付かなかった、というふうに姉は目を見張った。
「してる。でも、それでもいつも通り以上聞こえる。
そういうわけなので、俺は一応乳歯以外にも、なんかすごくなってるところはあったらしい。あんまり便利とは思わないし、頭も痛かったけど……まあ、無事に終わってよかった」
大介は淡々と呟いて、背もたれに深く体重を預けた。足をぶらぶらと揺らす大介に、姉は暫し黙り込んだ。しかし、沈黙を経た彼女は、やがてゆっくりと口を開く。
「……でも、じゃあそれって」
「ん」
「化け物……亜人を、大介が抑えきったってことなのかしら」




