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少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
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 納得した大介が頷けば、彼はますますおかしそうに喉を鳴らした。何が面白いのかと首を傾げると、鬼は「いや」と頭を振る。


「肝が据わってンなと思って」


「キモ?」


「“亜人細胞が体にいる”なんて言われて連れて来られた奴を見たのは、お前をいれてちょうど五人目だが……今までの奴らは皆、この世の不幸を一身に背負いましたって言わんばかりの顔でこの廊下を歩いてたからな。お前みたいな冷静な奴は初めてだ」


「冷静ですか」


「冷静だろ。……いや、そもそもあんまり自分に関心がねえのか」


 全てに興味なさそうだもんな、お前――なんて言って、鬼が肩を竦めた。馬鹿にしたつもりはなさそうだが、あまり気分がいいとは言えなかったので、大介は「そんなことないです」と言い返す。


「興味あることいっぱいあります。お姉ちゃんの肩の具合とか、犬とか、今日の晩御飯とか」


「そこに“自分の亜人細胞について”が入ってねえのが問題なんだろ」


「入ってないわけじゃないです。俺はこれからどうなるのかなあって思ってます」


「だから、妙に他人事なんだって。……ま、これからのこと考えりゃ、その方がいいのかもしれねえけどな」


 鬼は大介の髪をぐしゃぐしゃにかきまぜた。鯨とは違う遠慮のないやり方に、大介が身を引くと、鬼はまた愉快そうに喉を鳴らした。そして、前方に視線をやる。突き当たりにある小さな白い扉を、顎で示した。


「あの部屋だ。さっさと行こうぜ」


 大介は「解りました」と答えた。




 扉を開けると、そこは小さな部屋があった。前方には大きな机があり、壁にはいくつものモニターが嵌め込まれている。ひとつの部屋を様々な角度から撮影しているらしい映像が、映し出されていた。それ以外に大介に解るのは、机上にあるのが小さなスタンドマイクだろう、ということだけである。他にも様々な機械が置いてあるのだが、大介はそれらが何なのか知らなかった。


 既に部屋で待っていた小鳥が、こちらに一歩進み出る。


「これで全員揃ったな」


 小鳥の傍らには、大介の姉と鯨、そしてもう一人見たことのない青年に、二人の女性がいた。皆、鯨や鬼と同い年くらいだろうか。三人とも、大介と同じ黒い館内着を身にまとっている。

 

 一人、目つきの悪い男と目があった。大介が何か言う前に、相手の方が口を開いた。


「遅ェんだよ、ガキ。誰を待たせてると思ってンだ」


 ――出会い頭に強烈な発言を浴びせられた大介は、目を丸くして青年を見返した。大変な仏頂面で、ポケットに手を突っ込んだ男のその様は、いかにも柄が悪い。前髪に一筋入った紅は、まるで血のようだった。きつく寄った眉根は、元々のものらしい。薄い唇は、不機嫌そうに歪められている。凶悪な人相だ。この顔見たら110番のフレーズが、大介の頭をよぎった。


 一方、そんな青年を呆れたように見遣るのが、対象的な容姿の女性二人組だ。片方は、明るい茶色の髪にふんわりとしたパーマをかけた、濃い色使いのメイクで顔を整えた派手な女――もう一人は、黒髪を二つくくりに結った、化粧の薄い女。どちらも方向性は異なるが、美人である。少し前から思っていたことだが、この管理局とやらは、女性の容姿が軒並み優れている気がする。


 怖い顔の男を見るより、美人な女を見ている方がはるかに良い。そう判断した大介は、あっさり男から顔を逸らす。大介と目が合った派手な女性が、グロスで輝く唇を笑わせた。


「ごめんね、(さそり)っていつもこうなの。コイツの言うことは気にしないで」


 派手な方の女性が言った。蠍、と呼ばれた男は、ギロリと女を睨んだが、「何よ」と睨みかえされ、小さく舌打ちをする。ふん、と鼻先を鳴らした女は、腕組みをして尊大な態度をとった。


「もういいか」


 小鳥が呆れたように口を挟んだ。黒髪の女性が、「すみません」と苦笑いする。小鳥は頭を左右に振ると、「まずは説明しておこう」と大介に目をやった。


「まず、大介君の体に、心電図や脳波などを測定する機械をつなぐ」


「また検査ですか」


「重要なことだからな。改めて異常がないことが解れば、その状態のまま薬を飲んでもらう。液体状の薬だ。交感神経系を刺激し感情を高揚させ、亜人細胞を活性化させる作用がある。その際、不安感が強くなったり、動悸が激しくなったりなどの症状を感じるかもしれないが、あくまで薬によるものだとして、冷静に臨んでほしい。


また、薬の副作用としては、多少の中毒性があることが挙げられるが、薬の入手経路は管理局以外存在しない。そして、支給はこの一度きりだ。二度手に入れることは不可能だろう。普通に過ごしていれば、一週間程で中毒性は消えるはずだ」


 なんだかろくな薬じゃないな、というのが大介の印象だった。姉もそう思ったらしく、顔をしかめている。


「薬は即効性だ。およそ五分後に、亜人細胞は活動を始める。君の中の亜人細胞が、徐々に君を亜人へと変えようとするだろう。その際、おそらく君は、強烈な痛みを感じるはずだ」


「痛み……」


「ここが地獄かってくらいの痛みだぜ」


 鬼がにやにやと笑いながら口を挟んだ。嫌なこと言わないでください、と大介は思わず訴える。しかし鬼は、ますます顔を笑わせるばかりで、否定をしない。

鯨や蠍と呼ばれた青年、女性達、そして姉すらも、気まずそうに押し黙っている。どうやら、本当に地獄のような痛みらしい。


 今更腰が引けて来るのを感じたが、察した鬼にガッと首根っこを掴まれた。この人は俺の首根っこをハンガーの持ち手か何かと勘違いしているのではないか、と大介は無表情で憤る。

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