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それから小鳥は、何事もなかったかのように話を進めた。大介達の家の修繕にかかる費用に出る補助金についてや、改築が終わるまでの住家の提供、及びその期間の姉の休暇の処理など――様々なことを説明した。
大介はぼんやりしていたので意味がよく解らなかったが、姉は何度も頷きながら話を聞いていた。しかし、彼女も時折は上の空になっているようだった。
――結局全ての話が終わったのは、それから約三十分後だった。
「……説明は以上だ。それぞれ、先程休んでいた自室に戻ってくれ。特に大介君はしっかり休むように」
小鳥は言い放つと、すぐに席を立った。羽織った上着の裾を翻し、足早に去っていく彼女には、まだ何か予定が詰まっているようだ。見るからに忙しそうだもんな、と大介は思う。
「……大介」
不意に、姉に名を呼ばれた。大介が無表情で振り向くと、姉は真っ直ぐこちらを見据えていた。綺麗な二重の乗った、大介に似て丸い形をした瞳だ。
「……大介は、どうしたいの?」
「ん?」
「やっぱり、普通の生活がしたいよね? ……こんなよく解らないところ、入りたくないわよね」
大介は少し考えた。そして、答える。
「微妙」
「び、微妙?」
「うん。……お姉ちゃんが嫌そうにしてるし、心配かけるから入りたくないっていうのはある。
でも、鯨さんがお姉ちゃんを助けてくれたみたいに、俺も誰か助けられるなら、いいことなんだろうなって思う。“それがやりたいのか”って言われるとよく解らないし……そもそも、俺運動得意じゃないから、あんまり役に立たないと思うけど」
大介の言葉に、姉は面食らっている様子だった。大介が首を傾げると、彼女は細い眉をわずかに歪めた。
「……大介、ちゃんと解ってるの?」
「え」
「こういう場所に入るのは、きっとそれだけ命を落とす危険が高いってことよ。いつもみたいに、何も考えなくていいわけじゃないの。ちゃんと理解して」
「そりゃ、俺も死にたくはない」
「だったら……」
「でも、どっちにしても、もし俺が亜人とかいうやつを抑えられたら、入るのは強制だから。死なないように頑張るしかない」
大介の言葉に、姉は押し黙った。大介はきょとんとして、自分の発言を振り返る。今自分は、何か変なことを口にしてしまっただろうか。彼は、彼が何か喋ると、相手が複雑そうに顔をしかめる姿を何度も見ていた。ただ、大介にはそれが何故なのかよく解らないのだけれど。
「お姉ちゃん、どうしたの」
大介が呼び掛けると、姉は頭を左右に振った。そして、机上の承諾書を手にとって立ち上がる。
「……とりあえず、帰りましょう。……どうなるにしても、検査してみないと解らないもの」
「それはそうだ」
大介はこくりと頷き、姉のあとを追った。少しだけ下がった左肩は、なんだか重たそうだった。
*
小鳥に言われた通り、大介は与えられた部屋でひたすらだらだらと過ごしていた。ふかふかのベッドに寝そべり、置いてあったクッキーを食べる。マガジンラックには、様々なジャンルの有名なレーベルが多数取り揃えられていたので、時間潰しの手段は十分だった。ただ、普段こんなに気ままに過ごすことなんてなかったから――だっていつもの大介は、勉強に忙しいのだ――なんとなく落ち着かない感覚はあった。
慣れない退屈を雑誌で紛らわせて迎えた十六時頃に、先程と同様、鬼が部屋を訪ねてきた。大介は鬼に連れられて、検査準備室なる場所に移動した。
検査準備室は、大介の部屋から大分遠かった。長い廊下を延々と歩く。あまりに到着しないので、「迷子ですか」と聞いた大介だが、鬼はおかしそうに笑って「違ェよ」と答えた。
「検査室は、こことは別館にあるんだ。もしもお前が完全な亜人になったら、その場合はそのまま細胞の消滅に臨む。平たく言えば戦闘だ。そうなった時の為に、検査室は本館から離れたところにあるんだよ」
「なるほど」




