3
「それと、意思次第だ。先程も言ったが、自分の力で発症を抑えられる人間もいる。仮に心臓に核があったとしても、君が抑え切れば亜人にはならない。亜人にならなければ、鯨達が核を壊す必要もない」
それなら自分は、とにかく化け物を抑えることに集中すればいいのか。内心でそう結論を出した大介だが、次の小鳥の発言で風向きが変わった。
「……そのケースの話もしておこうか。大介君が亜人を抑えきった場合、そのあとどうなるかだ」
姉は眉を寄せた。
「帰れるんじゃないんですか?」
「いや。大介君には、対亜人兵器として生きてもらう。……鯨達と一緒にな」
言われた意味が理解出来なかった。大介は相手を見返す。
「どういう意味」
「大介君が発症を抑えた時点で、君の身柄は管理局に委ねられる。
君は一定期間、発症進行のコントロールを練習した後、対亜人兵器となり私のもとに配属されることになるだろう。つまり、鯨達と同じ仕事をしてもらうということだ」
「ち、ちょっと待って!」
姉の顔から血の気が引いた。勢いよく立ち上がる。
「この子にあんな危ないことさせるっていうの!? まだ中学生の子供よ!?」
「対亜人兵器管理局への配属が免除されるのは、七歳未満であるか、それとも六十五歳以上か、もしくは体に重大な疾患のある人間だけだ。大介君はいたって健康体だった。免除する理由がない」
昨日の検査は、それを確認するためでもあったようだ。まるで騙し討ちのような流れに、何を言ってるの、と姉が声を震わせた。
「憲法も知らないの!? 職業選択の自由よ! この国の――あなたたちの最高法規でしょ!?」
一方小鳥は眉ひとつ動かさず、淡々と語る。
「今この国は、君達が思うよりも遥かに追い詰められているということだ。
亜人細胞とその発症が日本であらわれ始めて一年半になるが、しかし対亜人兵器に成りえた人間は五人しかいない。彼らを失ったら、この国は終わりだ。至急、頭数を増やさなければならない」
「終わりって……何言ってるの? 一年半? 一年半前と比べて、何が変わったっていうのよ……! こんな化け物が出てるなんて、私達は今まで知らなかったわ!」
「その説明も昨日したはずだ。亜人については、情報規制がかけられている。
亜人は人間の体から生まれるものだ――隣人が隣人を信頼出来なければ秩序の崩壊に繋がるし、何より、我々の悪評も生まれてしまう。亜人兵器の大抵は、一度市街で亜人細胞を発症させかけているからな。
彼等は自身の力で発症を抑えた誇るべき人材だが、彼らが発症した当時だって、周囲への被害がゼロだったわけではない。亜人の存在や、彼らの過去が公表されれば、私達をよく思わない人間も出てくるだろう。そうなると、動きづらくなる。だから今のところ、超自然現象で片付けているんだ」
大介は眠たくて覚えていなかったが、どうやら昨日、自分と姉は小鳥に色々な説明を受けていたようだ。鯨さんの過去、と大介は優しげな鯨の表情を思い返す。彼にも過去があるのだろうか――知れば、まわりに謗られるような過去が。
しかし姉は、そんなことはどうでもいいというふうに眉を吊り上げると、固く拳を握って、声を張り上げる。
「そもそも私は、そんなの信じないって昨日も言ったでしょう! 一年半も前からそんなことが起きてて、隠し通せるなんて有り得ないわ!」




