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「今までの症例では、亜人の血縁者――それも一親等の人間は、ほぼ確実に亜人だという結果が出ているからな。大介君も、恐らく罹患しているだろう」
「ち、ちょっと待って」
姉が動揺する。
「つまりそれって……大介も、私みたいに化け物になるってことですか!?」
「発症せずに死亡することもあるから、確実になるとは断言出来ない。だが、それらもただ発症しなかっただけで、亜人の細胞を持っていると言われている。だから、大介君はこのままいけば亜人になる可能性が非常に高い」
「なんとかならないの!?」
姉の手が大介の肩を不安そうに引き寄せた。されるがままの大介に、小鳥は「治療法はある」と答える。
「スキャニングと呼ばれるものだ。
まず、大介君にブルモーラミンと呼ばれる薬を飲んでもらう。これは、体に眠っている亜人細胞をあえて起こす効果のある薬だ。これを飲むことで、君は発症する」
「化け物になるんですか」
「それは、大介君次第だ」
「俺」
「ごく稀に、自分の意志で発症の進行をコントロール出来る人間がいるんだ。君達を助けた鯨もそうだ。彼は、自分で亜人細胞をコントロールして戦っている」
「……俺にもそれが出来るんですか」
衝撃を受けた大介が問うた言葉に、小鳥は語る。
「それは私にも解らない。この結果は、個人によってバラバラだ。若い男性が失敗した例もあれば、八十を越えた老人がコントロールに成功した例もある。
……ただ、強いて条件をあげるなら、所謂“精神力”が要となっている可能性はある。解りづらい物言いだが……つまるところ、意志の力ということだ」
意志の力。なんだかフィクションのようなことを言われた気がして、大介は首を傾げる。
「亜人細胞が発症して亜人になるその直前には、強烈な痛みがあるらしい。そしてその痛みで、意識をなくすんだ。私はなったことはないが、実際に発症した人に聞くと、まるでこの世のものとは思えなかったと言っていた」
隣で姉が、深く頷いた。彼女の感覚とも合致したようだ。大介が「大丈夫」と姉に聞くと、彼女は「もう平気よ」と笑った。しかしすぐに溜息をついて、「でも確かに、この世のものじゃなかったわね」と呟く。
「最初は左肩が外れたのかと思ったわ。何が起きたのか解らない――なんて思ってる間に、全身が痛くなった。本当に、激痛よ。刃物で何度も刺されたみたいで……私は多分、すぐに意識をなくした」
「自分で押さえ込んだ者達は、基本的に最後まで意識がある。その痛みに耐えきるというわけだ」
信じられない、と姉が唖然とする。
「あれに耐えるの?」
「そうだ。一方、早々に意識を無くした者は、ほぼ確実に亜人になっている。これはまだ見解の域を出ないが、亜人細胞は、発症と同時に痛みで罹患者の意識を乗っ取るのではないかと私は思っている。それに抗って自我を保ちつづけた者が、化け物になる前に自力で押し止められるんだろう」
「なら、俺は気絶するのを頑張って我慢すれば、亜人にならずに済みますか」
「並大抵の“頑張る”では済まないと思うがな。……それに、仮に発症してしまって亜人になったとしても、まだ打つ手はある。昨日と同じだ」
小鳥は長い足を組むと、膝の上に手を置いて姉を見る。
「貴女が発症した時、鯨が亜人になった貴女を攻撃したはずだ。あれは、平たく言えば亜人細胞を殺したんだ。亜人細胞の核は、人が化け物へと変わる瞬間、大きく膨れ上がったり過度な痛みを訴えたりなどの前兆を見せる。亜人になってもその核さえ貫けば、亜人細胞は死滅し、人間の姿に戻る」
姉は、白魚のような指で自分の左肩を撫でた。あれはそういうことだったのか、と大介は鯨の腕が亜人の肩を貫いた時のことを思い出した。
つまり、と姉が話をまとめる。
「大介に薬を飲ませて、わざと発症させる。それで亜人になったら、あなたたちが亜人細胞を殺す。それがその……ええと、スキャニングっていう治療法なのね?」
「いや……そう単純なことではない。ここからが特に重要だ。大介君もよく聞いてくれ」
「ん」
大介は顔をあげた。
「亜人細胞を消せば、大抵は昨日の貴女のように人間の姿に戻るが――稀に、亜人細胞が死ぬことで、そのまま罹患者も死亡するケースもあるんだ」
姉が息を飲んだ。
「鯨達の攻撃は、亜人細胞を殺すと同時に、その近辺の正常な細胞も死滅させてしまう。そして、その攻撃で死滅した細胞は、二度と再生しない。貴女の亜人細胞の核は、幸運にも肩にあった。それに、何より鯨の技術が優れていたから、肩の違和感程度で済んだが……仮に、大介君の亜人細胞の核が心臓にあったとしたら、事態は深刻だ。
正直に言うが、そうなったらもう鯨達は君を助けられない。亜人細胞を潰せば、心臓も潰れることになる」
「じゃあ、すべては運次第ってことですか」




