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大介は、ボタンを押した瞬間、「引っ掛かりやがった、こんな券売機あるわけねえだろ」などと笑われることを予想しつつも、とりあえずハンバーガー(ロッテリア)を選んだ。
すると、大介の考えに反して、チケットはあっさり取り出し口に落ちる。「そんなんでいいのか」と言った鬼は、天ぷらの盛り合わせを選んで、チケットを二枚を手にカウンターに向かった。置かれていた小さなベルを鳴らす。軽やかな音色につられるようにして、少女が顔を出した。
「あっ、鬼さん! お久しぶりです!」
茶色い髪をツインテールに結わえた少女が、寄って来る。フリルのエプロンに、橙色のチェック模様のワンピースを着ていた。スカートの中に仕込まれたパニエは、ふっくらとしている。鬼は「よう」と答えた。
「飯頼むわ」
少女は元気いっぱいに、「解りました!」と答えて食券を受け取った。そして不意に、その丸い眼が大介を捉える。
「あれ? こちらの方は? 新しいお仲間ですか?」
「いや、まだ解ンねえ。でも、当事者ではあるからな」
「そうなんですね。では、腕によりをかけて作ります!」
「つっても、ロッテのハンバーガーだけど」
「えー」
彼女は潤んだ唇をつんと尖らせると、文句ありげに――それでも楽しそうに大介を見る。
「そういうファーストフードのバーガーは、特別に冷凍して送ってもらってるものを解凍してるだけなんで、店舗で食べるより品質も味も落ちるんですよ?」
「はあ」
「次は、オムライスとか頼んでくださいね。私得意なんで!」
グッとガッツポーズを決めた彼女は、呆気にとられる大介をよそに、鬼から食券を受け取る。そして、駆け足で厨房へと飛び込んでいった。途端、「厨房走るんじゃないわよ!」という鋭い声と、「ごめんなさい」という悲鳴が聞こえた。鬼はくつくつと笑いながら、テーブルへと歩いていく。そのあとを追う大介は、鬼に問い掛けた。
「鬼さん」
「ん?」
「仲間って、何のことですか」
「後でな」
驚くほどあっさり一蹴された大介は、もう少しとりあってくれてもいいだろうにと無表情で思う。しかし鬼に気にした様子はなく、彼は黙って席についた。大介も仕方なく、その正面に座る。
それから二人は、適当に言葉を交わしていた。大介は、質問に答えることが多かった。学校生活の様子や、好きなものや嫌いなもの。親戚の有無や家庭環境など、ほぼ初対面にしてはかなり突っ込まれたと大介は思う。
そのくせ鬼の方は、大介が問うたことに明確な答えを寄越してくれることが少なかった。へらへらと笑いながらすべてをかわすのだ。笑い上戸の気もあるらしく、大介が少しとぼけたことを言うと、すぐに心の底から笑われる。
なんだか悔しくて、ふて腐れながらバーガーをかじる大介をまた笑って、鬼は海老天に舌鼓を打っていた。変に疑わずにフォアグラでも頼んでやればよかった、と大介は思った。
*
食事を終えた大介は、また鬼に連れられて別室へ移動した。分厚い木製の扉を開くと、そこには姉ともう一人、見知らぬ女性がいた。艶のある黒髪を肩の下あたりまで伸ばした、見た目麗しい女性だった。長い睫毛は、化粧ではなく元かららしい。薄い眉はきりりとした形を作っている。肌は陶磁のように美しい。
鬼が「遅れて悪かったな」と言うと、彼女は「いや」と頭を左右に振る。
「こちらこそ、急に呼び立ててすまない。鯨には休息を取ってもらわねばならなかったから、手の空いている者が君しかいなかった」
すると鬼は、悪戯っぽく唇の端をつりあげる。
「冗談言うなよ、局長」
「何?」
「蠍がいるじゃねえか」
その名前を聞いた瞬間、女の顔が、まるで渋柿でも口に突っ込まれたかのように歪んだ。
「……お前こそ冗談を言うな。アイツに、中学生の相手なんか出来るはずがないだろう」
鬼は笑って、「まあそうだな」と言った。蠍って、なんだか毒々しいあだ名の人だな、と思いながらも、大介はぼうっと突っ立っている。




