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「よう」
「あれ」
大介は、そこにいる人物に目を丸くした。顔を出したのは、昨日交番にいた警察官だったのだ。髪が桃色で、どことなく口の悪い――確か、鯨が鬼と呼んでいた青年である。大介と同じ黒い服を纏った鬼は――どうやらこの服は、施設内で共通する、館内着のようなものであるらしい――大介を見て唇の端をつりあげた。
「また会ったな」
相変わらず眩しい髪色に、大介は目をぱちぱちとした。まったくもって派手な男だ。こんなに奇抜な髪色をしているのに、顔立ちがそれなりに整っているものだから、格好悪い館内着ですらそれなりに見える。
なんとなく面白くない気分を感じつつも、無表情でそれを隠した大介は「また会いました」と答えた。そして、どうして彼がここにいるのだろうかと内心訝る。一方鬼は、大介の疑問など気にした様子もなく、「さっさと行こうぜ」と言ってすぐに踵を返した。大介はいそいで彼の隣を歩いた。
「早く行かねえと、局長殿がうるせえぞ」
「局長殿」
「お前の電話に出た女だよ。もうすぐお目にかかるだろ。美人だから楽しみにしとけば? ……いや、そういえば昨日も会ったんだっけ」
言いながらも、鬼の横顔は楽しそうだ。その“局長”が嫌いだというわけではないらしい。
「昨日のことは覚えてないですけど。……俺は今から、その局長さんと話するんですか」
「そうだ。ま、飯食ってからだけどな」
「ごはん、待ってくれるんですか。急いでたみたいだったから、早く行った方がいいんじゃないですか」
「いやいや、話聞いたら飯も喉通らなくなるかもしンねえから。食える時に食っとけよ」
「えっ」
なんだか嫌な予感しかしない言葉を投げられた気がして、大介は足を止めた。すると、すぐさま鬼に首根っこを捕まれ、「止まるな」なんて言われる。仕方なく歩き出した大介の首根っこを掴んだまま、鬼は饒舌に語った。
「にしても、こんな形でお前と会うとは思ってなかったぜ」
「鬼さんは、なんでここにいるんですか。一般人には、情報規制をして事情を伏せてるって、聞きましたけど」
「ああ、俺は“一般人”じゃねえから」
「え」
「それもまた、そのうち解るさ」
急ごうぜ、と彼は言って歩調をはやめた。大介はとりあえず頷くと、鬼の後を追った。
*
大介が最初に連れていかれたのは、食堂だった。白い机が数個綺麗に整頓し、そばには柔らかそうなクッションが置かれたソファが備え付けられている。机上にある小さなベルは、おそらく係りの人間を呼ぶためのものだろう。
奥には、自動券売機らしき箱と、カウンターがあった。向こう側は厨房になっているようだが、ついたてで様子はうかがえない。ただ、こんがりと焼けた肉のような良いにおいがした。
「なんか、すごく高そう」
大介は正直に言った。食堂を見てついこぼれた感想ではあるが、しかしそれは食堂にたいしてだけのイメージではなかった。この建物は、どこもかしこも立派なのである。
やたらと華美というわけではないが、設備が充実している。個室の薄型テレビもそうだし、完備された空調や、綺麗に掃除された食堂もそうだ。ソファといいクッションといい、居心地を重視して作られている。
「このくらいしてくれねえと、割に合わねえんだよ。ここの仕事は」
鬼は一言答えると、券売機へ向かった。大介も、券売機のボタンにあるメニューを眺める。
そして、驚いた。種類が豊富すぎるのだ。ラーメン、カレーなどの定番は良いとしても、和洋に中華、フランス料理にイタリア料理、はてはメキシコ料理まで――くわえて、霜降り肉のステーキや金目鯛の煮付け、フォアグラの鉄板焼きなんてものもある。また、チープなものなら、フライドポテトやハンバーガーも確認できたが、それだって、大介の知る範囲の全てのファーストフード店のものを取り揃えているらしい。
あまりにおかしな券売機を前に、もしや自分は警察ぐるみで担がれているのではないかと思った大介は、鬼に目をやる。しかし鬼は、「面白ェだろ」と笑うだけだ。
「ま、色々思うことはあるだろうが、別にこの券売機は普通に使えるモンだ。食いたいモン選べ」
大介は疑いながらも、「値段が書いてない」と言った。しかし鬼は、「いいから選べよ」と答えながら、懐から小さなカードを取り出す。券売機の読み取り口に翳した彼は、「ほら」と大介を急かした。




