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ただ、その件については、最終的にきちんと結論が出ていたはずだった。磁場がどうだとか、地球の自転が普段と異なる動きをしていたのが確認出来ただとか、結果として引力がどうだとかと、大介にはまったく理解出来ない説明だったが、教科書ではそうだと断言されていた。
教科書にきっぱりと書きつけられてしまえば、大介達も「そういうものなのかな」と思うより他はなく――もっとも、大学教授などはいまだに激しく反論し、時折思い出したように議論が紛糾するが――大抵の場合、その話題は収束する。
ただ、超自然現象そのものが消えたわけではなく、「島が消失した」やら「突如市街が何かに破壊された」などというニュースは、大介が生まれてからも続いていた。しかし、詳しい情報が大介達のところに届くことはなく――報道番組もまったく掘り下げなかったため、結局“何か恐ろしい現象”ということで定着している。
「超自然現象は、学校でもちゃんと習うから。昨日もニュースでやってた。今日の超自然現象の発生率は、0%だって」
大介は言った。
――超自然現象の正体があやふやなままで、それでも大介達国民が安心していられるのは、大介の言った“発生率”が理由として挙げられる。
報道機関は毎日、天気予報と共に“超自然現象予報”を発表するのだ。報道が始まったのは、おおよそ二年前――日本で一度、超自然現象が発生してからだった。超自然現象の発生を防ぐことは出来ないが、予測は出来るらしい。そして、予報は大抵は0%で、実際滅多に発生しないのだ。“何が起こっているかは解らないが、そもそもそれ程起きることではない”という事実は、大介達に安心を与えていた。
もっとも、それ以降に日本で発生した数件の超自然現象では、何度か予報を外していたので、完全にとらえきれているわけではないようだ。それでも、指標があれば人間はそれを信じようとするのだった。
加えてもうひとつ――予報が外れることがあるにもかかわらず、大介達が安心しているわけがある。それは、今まで超自然現象で死んだ人間は皆無だということだった。
世界的に見れば、すでに五十件は発生している超自然現象だが、その全てに死傷者がいないのである。理由は不明だが、単なる偶然ではないというのが専門家の見解だった。実際世の中でも、超自然現象で死ぬことはないという見方が一般的だった。
あー、と鯨は苦笑いすると、頬をかく。
「それなんだけどさ」
「ん」
「つまり、亜人が超自然現象の正体なんだよ」
大介は目をぱちくりとさせた。
「……どういうこと」
「街が破壊されたとか、そういうことの原因は全て、超自然現象なんて曖昧な言葉で片付けられてるだろ? ……その実態は、自然現象というよりも、亜人によるものなんだ。ただ、報道されていないだけで」
大介は口を半開きにするしかなかった。――超自然現象の正体が、あの化け物。なんだかにわかには信じがたい話だ。超自然現象という名なのだから、大介は、台風だとか地震だとか、そういう類のものだと思っていた。
確かに、超自然現象について何か知っていたわけではないから、化け物だと言われたら納得するより他はないが――。
「でも、超自然現象の発生率は0%だって……」
「それも、真偽云々より、国民を安心させる目的の方が強いからなあ」
つまり、虚偽の報道ということだろうか。何だか複雑な気持ちになる。騙し討ちにされたような感覚だった。国民を安心して生活させるには、情報統制も必要なことなのだろうけれど――。
無表情をわずかに膨れさせた大介に、鯨は申し訳なさそうに「ごめんな」と言った。大介は、「鯨さんは悪くない」と答えてから、尋ねる。
「……じゃあ、その亜人について報道されてないのも、俺達を安心させるためなの」
「ああ、そうだな」
「二年間も」
「いや、一年半だな。超自然現象が報道されてから半年くらいは、まだ日本で亜人も発生してなかったし……そもそも俺達にも、亜人の情報はまわってきてなかったから」
「でも、とにかく一年半くらいは隠してたの」
「隠したって言われると辛いんだが……まあ、そうだな」
「一年半も隠せるものなの」
「そりゃ、色々手はまわしてる。報道規制だけじゃない。本とか雑誌の検閲も、インターネットのカキコミもそうだ。アメリカに情報規制本部も立てられてるし、日本には支部がいくつかある」
そんな大きな話になってるのか、と大介は驚いた。それだけ対策すれば、もしかしたら一年半くらいは隠せるものなのかもしれない。けれども、実際あんな化け物を見たら、目撃証言くらいは噂話くらい立っても仕方がないと思うのだが――しかし、実際に聞いたことがないのだから、噂なんてその程度なのかもしれない。




