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大介は、ほっと胸を撫で下ろした。
「肩に違和感くらいは残るかもしれないが、その程度だ。十分普通の生活を送れると思うぜ」
「よかった」
ひとまず安心した大介は、肩の力を抜く。となると、残る疑問はあの化け物と、鯨の腕についてだ。
「……あの生き物は何なの。どうして俺のお姉ちゃんを襲ったの」
「ううん……それを説明しようとすると、どこから話せばいいのか……」
鯨は腕組みをして首を傾げる。異業の存在と闘いを繰り広げたあととは思えないほど、彼は落ち着いていた。鯨はしばらくうんうんと唸っていたが、やがて「解りやすさ重視で、出来る限り簡潔に言うぞ」と宣言した。
「あれはな」
「うん」
「化け物だ」
「知ってる」
運転席の女性が思い切り吹き出した。「あれっ」と声をあげる鯨に、大介はどこまでも無表情で「見れば解る」と告げる。
「俺は種族とかそういうのが知りたい」
うなだれる鯨に、我慢出来ないというふうに運転席の女性が笑う。鈴が転がるような、可愛らしい声だった。
「そりゃそうですよ。あの化け物は何ですか、って聞かれてるのに、“化け物だ”なんて答えになってないし」
「笑うなよ。あのな、俺だって俺なりに、中学生に解る言い方を考えて……」
「それで混乱しちゃったんですね」
くすくすと笑う彼女は、続けて「いいんじゃないですか?」と言った。
「解らなくても、詳しく説明してあげたら。どうせ後で、小鳥さんがもっと解りやすく言い直してくれますよ」
「言い直される前提かよ」
鯨は唇を尖らせたが、すぐに「まあいい」と嘆息する。
「とりあえず説明するわ。解らねえこともあると思うが、一応聞いてくれ」
「わかった」
「……あれは、俺達の間では亜人って呼ばれてる生き物だ」
「あじん?」
人参みたいな名前だな、と大介は思った。鯨は頷く。
「種族は、俺も解らない。つか、何科だとか、何目だとか……今はそういう分類もない状態だ。ただ、俺達は亜人って呼ぶように言われてるんだよ。大方、学者がつけた名前だろう」
つまり、大介の知らぬ間に、新種の生き物が現れていたということだろうか。しかし、あれ程巨大で凶悪な生き物ならば、発見されていればもっと大騒ぎになってもおかしくない。確かに大介は、テレビもあまり見ないし、インターネットもよく解らないので触っていないが――それでも、さすがにどこかで耳に挟みそうなものだが。
「いったい、いつの間にそんなのが出てきてたの」
「日本では、二年前から」
鯨の即答に、大介はますます訝る。そんな話は、一切聞いたことがなかったのだ。二年も前なら、一度は聞いていないとおかしいではないか。
「俺、そんなの知らない」
大介は訴えた。すると鯨は、「だろうな」とあっさり肯定する。
「でも、超自然現象については知ってるだろ?」
それは知っていた。超自然現象とは、大介が生まれた時から既に、世間に浸透していたた自然災害の一種である。大介も、学校の授業で一度詳しく習ったことがある。
発端は、南部にある諸島のうちのひとつの島が、突如前触れもなく消失したというニュースだったという。理由はまったく不明――陸地を破壊するほどの高波も、島を吹き飛ばすようなハリケーンも観測されていないということで、授業の直後は大介のクラスでも話題を掻っ攫っていた。UFOだとか、宇宙からの襲来だとか、色々言われていたのである。




