年上の彼女とデート
「桜さん、今からどこ行きたいとかありますか」
「ううん。大介君がどこか行きたいなら、それに合わせようかと思ってたけど。……大介君は何か見たいものある?」
「服が見たいです。格好いい服に着替えたいから」
桜は眉尻を下げて、「本当に気にしなくていいのに」と言った。しかし、大介は頭を振る。
「別に、桜さんだけが理由じゃないです。桜さんとここで会って、そういえば俺全然服持ってないって気付いたから、これからの為にも買っておこうと思っただけで」
「なんで着替える時点で気付かねえんだよ。どうせお前、今までだってそのポロシャツとジーパンのセットばっかり着てたんだろ」
本気でうるさいなあ、と大介は横目で蛙をじろりと睨んだ。桜は、そういうことならいいけど、と笑う。
「それなら、駅前の色んなアパレルショップ見て回ろうか?」
大介は頷いた。桜が「じゃあ、車こっちね」と歩き出す。大介は上機嫌にその後をついていった。
*
桜の小さな車に乗せてもらって、大介は駅前まで出た。まず大介達は、服を買う金を下ろすために銀行に向かった。小鳥から渡された大介名義のカードをATMに突っ込んでみると、恐ろしいほどの金額が表示されたので、大介はウエッと変な声を出してしまった。確かに小鳥と契約書を交わした時点でその金額は目にしていたが、こうして実際にATMで振り込まれた金額を前にすると、インパクトが違う。一応税金などもかかるらしいので――鬼は「国から支給される金が国に持ってかれるってどういうことだ」と嘆いていたが――それを差し引いても、普通に暮らしていた時の大介のお小遣いの五百倍はある。ちなみに、大介の月の小遣いは三千円だった。
とんでもない額の残高から、大介はとりあえず五万円を引き出して、予定通り、立ち並ぶアパレルショップを見て回る。大介はファッションについてかなり疎いので、逐一店員に質問していた。店員に鬱陶しがられるだろうかと心配になったが、店員は桜と楽しそうに話しこみながら、ああだこうだと大介に似合う服を選んでくれた。
約四時間ほどかけて店をまわって、服を見たいと言った大介の方がぐったりしてきたころには、彼は大分あか抜けていた。しかし桜は、「なんかチャラいなあ」と若干不満そうにしていて、途中で妙な柄のシャツを着せてこようとしたりもした。丁重にお断りした大介は、格好だけは軟派な少年と化しつつも、首から上だけはいかにも素朴という妙ないでたちで桜の隣を歩いていた。
時刻が七時に差し掛かり、そろそろ腹が減ったということで、彼らは人気の洋食屋に入る。
「食堂の石焼オムライスも美味しいけど、ここのパスタも美味しいんだよねえ」
桜は嬉しそうに言いながら、パンを細い指先で千切る。大介は頷きながら、カルボナーラを口に運んだ。厚切りのベーコンが美味い。正直かなり空腹だったので、大介はどんどん食べ進めていく。蛙は「俺も食いたいなー」と言いながら、色んなテーブルの料理を覗きまわっていた。
大介は、それにしても今日は楽しかったなあと一日を思い返した。確かに若干疲れはしたものの、色んな店に行けたし、色んな服を手に入れた。それに、鈴への土産も買った。たかだか町に行くのに土産、と蛙は笑っていたが、大介はあげたかったのだから仕方ない。買ったのはヘアアクセサリーだ。使ってもらえるかは解らないが、それでも、桜と相談しながら買ったものである。
「よかった」
桜が急に言ったので、何が? と桜を見返す。すると桜は、「楽しかったって言ったから」と返事をした。声に出てたのか、と大介は少し恥ずかしくなる。桜は嬉しそうだった。
「ちょうどいい息抜きになったかな」
「はい。ありがとうございます」
「ううん、気にしないで。私もすごく楽しかったし」
そこで桜は、一度アイスティーに口をつけると、「大介君」と切り出した。
「今の状態のことだけど、本当に気にしないでね。中国では、一年かかった人もいるみたいだから。うちの人達はまだ、全然短い方なのよ。……それに、こんなこと言ったら小鳥さんには絶対怒られると思うけど……私、このまま大介君が出来なくてもいいかなとも思ってるの」
「え?」
「大介君は真剣に頑張ってるのに、ごめんね」




