中学生男子に衝撃
「つか、俺いない方がよかったんじゃねえの?」
「そっ、そんなことないです」
「そこまでうろたえられると解りやすいわ。……じゃ、楽しんで来いよ。俺も笑点楽しんでるから」
言いながら鬼は、食堂のカウンターへと去って行った。大介は熱くなった顔を誤魔化すように、麦茶を一気に煽る。鈴は驚いたように大介を見た。
「大介君って、桜さんのこと好きだったの?」
大介は危うく麦茶を吹き出しかけた。
「そ、そ、そ、そんなんじゃない」
「だから、そこまでうろたえられると、なんか……」
「違う。俺、女の人とデートなんて初めてだから。だからちょっと、緊張してるだけ。そんな……好きとか、そんな」
懸命に取り繕いながら、大介は「どうして自分はこんなに必死に言い訳しているのだろうか」と思った。その傍らで、蛙はうんうんと頷いている。
「コイツはマジで童貞丸出しのガキだからな。俺が迫った時も握手がどうのとか言ってたし。多分、桜じゃなくてもこの反応だろ。誰でもいいんだ、コイツは」
まるで女好きのような言われ方に、大介は心から不服を申し立てたかった。しかし、じゃあ桜が恋愛的な意味で好きなのかと言われると正直解らないので何も言えない。
鈴はそんな大介をおかしそうに見ると、「なんか、やっぱり中学生なんだねえ」と言った。明らかに子供扱いされた気がしてじと目で鈴を見ると、鈴はごめんごめんと軽く笑った。
「まあ、とにかく楽しんでおいでよ。なんか面白いことあったら、聞かせてね!」
うまく丸め込まれたような気持ちになりつつも、大介は頷いたのだった。
*
管理局の前でそわそわと待っていた大介は、背後から掛けられた「お待たせ」という声に勢いよく振り向いた。
「ごめんね、ちょっと時間かかっちゃった」
そこにいたのは、申し訳なさそうに笑う桜だった。その姿に、大介はぽかんと口を開く。
可愛かった。既に成人した女性に言うのもなんだが、掛値なしで可愛かった。ふんわりとした白いワンピースは、細いベルトで腰元をたるませている。半袖から伸びた腕も、スカートの下に履いたデニム生地のスキニーに包まれた足も長く、彼女のスタイルの良さを際立たせていた。柔らかい桃色で色づけた唇が、穏やかに孤を描いている。
大介は、一般的な女性がどのようなものなのかよく解っていない。大介と交流のあった成人女性なんて姉くらいのもので、その姉はどちらかというと大介と違ってきつめの顔をしていた。桜のようなタイプの、いわゆる女性らしい女性というのは、彼にとって初めてだった。勿論人それぞれ好みはあるだろう。けれど大介は桜を見た時、心から「そんなに可愛くて大丈夫なのかな」と思ってしまった。
「大介君? どうしたの?」
桜が小首を傾げる。そんな仕草すらずるい。今からこの人と街に出るのかと思うと、大介は感激すら覚えた。
しかし、そんな桜と大介を見た蛙がうわっと声をあげた。
「お前、これと街歩くのかよ! 度胸あるな!」
言われた大介は、すぐに「そうだった」と思った。桜と歩けるというのは確かに嬉しい。けれども、桜の方はどうだろう。大介は別に美男でもなければ、しゃれているわけでもない。服装なんて、家から持参してきたポロシャツでジーンズパンツである。
「……桜さん。ごめんなさい」
「えっ、何が?」
桜は、まったくわけが解らないと言いたげな声をあげた。
「俺、ポロシャツとジーパンで……」
「それ以前に顔とかじゃん?」
蛙が要らぬ口を挟んだが、顔は別にそこまで悪くなかろうと大介は内心不満を抱いた。一方、桜はようやく得心がいったという風に苦笑する。
「そんなの気にしなくていいのに。大介君は格好いいよ?」
「うわ、息を吐くようにおだてたな。別に格好よくねえのに」
蛙が茶々をいれる。そもそも何故彼女は当たり前のような顔で桜とのデートについてきているのだろうか。お引き取り願いたい。しかし、もう桜が来てしまったので言えない。




