気分転換
大介は食堂の机に顔を押し付けた。鈴は「大介君ー!」と背中を揺さぶってくる。「せめて、せめてご飯は食べよう!?」と訴えてくるので、大介はのろのろとそうめんを箸で掴む。めんつゆにつけようとしたら、「そっち麦茶だよ!」と慌てて止められた。自分が思うよりも、大介はぼんやりとしていた。
「つうかさ」
鈴と同じく大介の相談役になっている蛙が――今は美少女の格好をしている――大介の頭上を漂いながら、不意に口を開く。
「いっそ、息抜きのひとつでもした方がいいんじゃねえの?」
「え?」
思わず聞き返してしまった大介に、鈴が「どうしたの?」と首をひねる。大介が慌てて頭を振るのと同時に、蛙が「だからさあ」と説明する。
「お前、この一か月管理局にこもりきりだっただろ? 俺はよく解んねえけど、亜人細胞ってメンタルが重要とか言ってたじゃねえか。そんなのさあ、一か月も外に出なかったから気も滅入るに決まってんだよ。一回息抜きに、外出ろよ。外」
そんで俺もつれてけよ! と蛙は嬉しそうに言った。そちらが目的か、と大介は溜息を吐きたくなった。その気になれば一人でどこにでも行ける蛙だが、一人だとつまらないのだろう。しかし、言われてみれば悪くない提案かもしれない。
「鈴ちゃん」
「何?」
「俺、思いついたんだけど……外に出てみるって、どう思う」
「外に出てみる?」
蛙が「思いついたのは俺だろ!」と怒っていたが無視をして、大介は頷いた。
「そう。俺ずっと管理局にいたから、気持ちをリフレッシュするためにも一回外に出てみたいと思って」
鈴はぱっと顔を輝かせた。「すごくいいと思う!」と勢いよく頷く。ポニーテールがぴょんぴょんと跳ねた。
「確かに、ずっと外の空気吸わないと、どうしても気持ちは落ち込んじゃうと思うし……名案だと思うよ!」
「ほんと。ろくに発症も出来ないくせに遊んでんじゃねえよとか思われないかな」
「思わないでしょ!」
鈴が全力で否定した。そうか、と大介は頷く。では、本格的に外出を検討してみるのもいいかもしれない。そもそもこの一か月、一度も外に出ようと思わなかったこと自体おかしい気がする。出不精というわけではないのだが、最近の大介は亜人細胞や亜人の勉強のことで頭がいっぱいだったのだ。
「あっ、鬼さん!」
不意に鈴が席を立ち、食堂の入り口に向かって手を振る。つられて視線をやると、そこには鬼の姿があった。鬼は、大介と鈴を視界に認めると、「よう」と笑う。
「また一緒にいんのか。最近のお前らは、飯の度に一緒にいねえか?」
「亜人細胞の発症のことで、相談に乗ってもらってます」
自分たちに言えばいいだろう、とは鬼は言わなかった。大介の罪悪感など、とうに見抜いているはずだ。「そうか」と笑う。
「ま、見た目だけでも年齢は近いしな。良かったじゃねえか、気の合う友達が出来て。で、何の話してんの? また犬?」
「犬の話することも多いですけど、今回は大介君が名案を閃いたんですよ」
鈴が平たい胸を張った。名案? と鬼が首を傾げる。
「何だよ、それ」
「あのですね、大介君をお出かけさせてあげるんです」
なんか本当に犬みたいな言い方されたな、と大介は思いつつも頷いた。
「お出かけ?」
「そうです。だって、大介君もう一か月くらい管理局にこもりきりなんじゃないですか? だから、気分転換に外に出たらどうかなって話をしてたところなんです。もしかしたらそれで気持ちがさっぱりして、あっさり亜人細胞を発症させられたり、なんてこともあるかもしれないじゃないですか」
「ああ、成程な」
「鬼さん、俺外に出てもいいですか」
鬼はあっさりと「それは別にいいけど」と答えた。
「ただお前、町まで出るなら政府の車に送ってもらうことになるぜ」
「え、そうなんですか」




