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少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
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無能大介

 大介と蛙は口をそろえて納得した。でもなあ、と鯨が大介の背をぽんと叩く。


「まだ二日しか経ってないんだ。こんな早いうちから、出来なかったことなんか気にしなくていいんだぜ?」


 遠回しにたしなめられて、大介は「ごめんなさい」と言いながら蛙を横目で見た。やっぱり怒られたじゃないか、と無表情で訴えると、蛙は「悪い悪い」とへらりと笑う。


「まあ、今後のことが解ったからいいじゃねえか。とにかく失敗しようが成功しようがお前の扱いは変わらねえんだから、気楽にやりゃいい――」


 蛙の言葉が終わる前に、鯨が「もっと力抜いていいんだよ」と言った。


「もしかしたら、力みすぎてるのかもしれないからな。ゆっくりでいいから、やるだけやってみようぜ」


 今俺が喋ってるだろ! と蛙が憤る。聞こえてないんだから仕方ないだろうと思いながら、大介はのろのろと立ち上がった。確かに、皆に時間を割いてもらっている以上、そろそろふて腐れるのはやめた方がいいだろう。始めた時ほどではないが、休憩を挟むことで少しばかりやる気も戻ってきた。


「頑張るぞ」


 大介は棒読みで呟いて、立ち上がった。桜が「その意気だよ!」とガッツポーズを決めてくれたのが可愛らしかったので、もっとやる気が出た。



 やる気は本当にあったのだが、結果には結びつかなかった。大変遺憾である。


 ――もうそう言うしかなかった大介に対し、鯨も桜もごく普通の態度で気にしなくていいと言った。正午から午後六時まで続けて特訓し、夕食を食べてからも更に時間を割かせてしまったにもかかわらず、彼らはとても優しかった。蠍だけは「死ね、無能、時間を返せ」などと暴言を吐き散らしていたが、鯨に脛を蹴っ飛ばされて今度はターゲットを鯨に変えていた。結局桜と鯨に守られるようにして蠍から距離を置きながら、彼は昨日と同じくすごすごと部屋に戻ることになった。


 それでも、正直なところ「いつかは出来るだろう」と思っていた。出来ない出来ない無理、とふて腐れたのはわずか数刻前の話だが、心の隅では「さすがに来月には出来るはずだ」と思っていたのだ。だって、他の対亜人兵器は、一番長い蠍で一か月なのだから。


 ――しかし、暦が六月から七月に変わっても、大介の亜人は発症の兆しをまったく見せなかった。薬を飲んだ時に現れた乳歯ですら、顔を出さない。大介がすべてを知り、特訓を始めてから既に一か月経ってしまった。外では夏の太陽がさんさんと照っている。姉を見送って以来、対亜人管理局から一歩も出ずに、亜人細胞発症の練習に打ち込んでいた大介だが、いよいよ本当に自信がなくなってきた。


「俺、本当に対亜人兵器なのかな……」


 食堂のテーブルについた大介は、思わずそうぼやいた。不安であまり食欲もなくなってきた大介――蛙は「夏バテだろ」と言っていたが――のテーブルには、そうめんの入った大皿が一枚と麦茶、めんつゆがあるだけだ。このままの生活が続けば、大介の食生活を知った大介専門の担当医から叱責が飛ぶかもしれない。しかし、どうしても食欲が沸かないのだ。


 大介の正面の席に腰を下ろした鈴が、「大丈夫だよ」と明るい声を出す。


「きっともうすぐ出来るようになるって!」


 この一か月で、鈴は完全に大介の相談役と化していた。見た目だけなら年齢が近い鈴は、大介にとって話しやすい存在だったのだ。


 また、現在亜人細胞を発症できていない大介は、他の対亜人兵器のメンバーにいい加減罪悪感を抱き始めている。毎日のように呼びつけ、特に娯楽のないあの場所に居座らせ続けるのは、本当に申し訳なかった。彼らも大介のその気持ちは解っていて、何度も気にするなと言ってくれるのだが、相手が優しければ優しいほど大介の心は痛くなる。いっそ蠍のように、「テメエいい加減にしろ! 使えねえウスラボケが!」などと言いながら殴ってくれた方が針の筵から逃れられるというものだ。


 だから今の大介は、どうしても対亜人兵器の仲間よりも、鈴と話すことの方が多くなってしまっていた。


「でも、さっぱり兆しがない。俺、もう駄目かもしれない……」


 本気で項垂れる大介に、鈴は「気持ちで負けちゃ駄目だよ!」と懸命に励ましてくれる。


「そういうの、負の連鎖っていうんだよ? 気持ちを切り替えないと!」


「切り替えたら、亜人細胞発症するかな」


「う……断言はできないけど……」


「断言して」


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