守り通した秘密
「何」
「……仮に、大介が超自然現象の原因だったとして――」
姉の掌が、大介の手を握った。声が震えていた。今までずっと普通の態度だった姉の変化に、大介は驚く。
「――あの時、たくさんの人に怪我をさせてしまったのが大介だったとしても。私はずっと、大介の味方よ」
そこで大介は、今更気付いた。そうだ――姉の中では、そういうことになってしまうのだ。どうせ嘘だからと、あまり深く考えていなかった。姉にとっては、唯一の家族である大介が、何かの能力でたくさんの被害を出したかもしれないという事態なのだ。それを姉が、気にやまないわけはなかった。今にも泣き出しそうなその目は、姉には珍しいものだ。大介が、先週初めて塾をずる休みしてしまった時の表情ともまた違う。あの時姉は、大介を情けなく思って、悲しんで、怒っていた。けれども今は、悲しいけれども気丈に立とうとする、家族としての姿が目の前にあった。
大介はそこで、対亜人兵器について吐き出したくてたまらなくなってしまった。自分は誰も傷付けていない。傷付けたのは超能力なんてわけのわからないものじゃなくて、亜人という謎の生物からの攻撃に過ぎないのだと。姉だって、勝手に寄生されただけで、悪くはないのだと。――自分は誰かを傷付けるのではなく、守るための力を持っているのだと。
大介がちゃんと説明すれば、姉はきっと解ってくれる。今の姉の中にある苦しみを取り除くことが出来る。姉なら誰かに言いふらしたりすることもない――。
「お……」
お姉ちゃん、と大介は口を開きかけた。しかし、明け渡してしまおうと思った秘密をすんでで踏みとどまる。
この秘密は、対亜人管理局の面々が皆守っている秘密だ。国民を動揺させないために、国民が己の隣人を信じるために作り上げた、重要な秘密だ。先程自分を見送ってくれた運転手も、大介が秘密を言うだなんて思っていない。疑うことなく、ただ、姉と挨拶をしたいという大介の気持ちを汲んで送り出してくれた。
――言ってはいけない。大介は、固く唇をつぐんだ。心がじくじくと痛んでいたが、彼は込み上げてきた秘密を腹の奥に押し込んだ。
「……俺、頑張るから」
結局大介が口にしたのは、そんな簡単な言葉だった。けれども姉は、大介を抱きしめてくれた。
「……頑張って」
姉の声が頭の上で聞こえた。亜人を発症させる薬を飲んだ時と、同じ温もりだった。
*
「言っちまえばよかったのに」
――姉と共に歩いた道を、今度は一人で歩く。途中で迎えにきた蛙は、大介の顔を見るなり開口一番そう言った。
「言いたかったんだろ、亜人のこと」
「なんで解ったの」
「だって、普通言いたくね? 少なくとも、自分が超自然現象の原因だと思われてるよりはマシだろ」
大介は歩道を歩きながら、「別に」と答える。
「そんなのはどうでもいい。ただ、お姉ちゃんがそれで落ち込んでるのが気になったから」
「でも、どっちにしろ言いたかったんじゃねえか」
「それはそうだけど」
「なんで言わなかったんだよ。……何回でも言うけどさ、対亜人管理局って、お前がそんな風に義理立てしてやるほど従う価値はねえと思うんだよ。別にお前の判断だから俺にはなんとも言えねえけど、そんな落ち込むくらいなら言ったってよかったと思うぜ」
「蛙さんは本当に、対亜人管理局が嫌いだ」
「いや、嫌いとかじゃねえんだって。ただ、強引っつうかさ。俺の価値観とは合わねえってだけ」
そのわりにはやたらと言うじゃないかと思いながら、大介は反論する。
「別に俺は、対亜人管理局に義理立てしたわけじゃない」
「そうなのか?」
「うん。……俺は、対亜人兵器の皆が面倒見てくれるのに報いようと思っただけ。対亜人管理局って組織に対してじゃない。鯨さんと桜さんとか……特に鯨さんは俺のお姉ちゃんを助けてくれたから。そんな皆が守ってることを、壊しちゃいけないって思っただけだ」
「一緒じゃん」




