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名もなき編集者の異世界改稿録 ~目覚めたら推しの身体だったので、死なせるわけにはいきません~  作者: 宇良 やすまさ


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第7話

 リディアナがイリュネアと友達になる。

 そのための第一段階としてエルザとコレットが声をかけようとしたわけだが、カルロとジョットの妨害に合い難航。

 そのうえで嫌がらせ犯によって悪評を流された……というのが現状。

 すなわち、イリュネアと接触するにも二つの壁があるということになる。


 これをかいくぐるには、もはやイリュネアの方から話しかけてくるのを期待するしかないのだが……嫌がらせ犯を釣るつもりならば、話は変わってくる。

 考えるべきは、イリュネアとどうやって接触し、嫌がらせ犯をどうやって動かすか。

 一番良い結末は、リディアナが嫌がらせ犯を捕らえること。できれば、皆の注目が集まる場所で、わかりやすく嫌がらせ犯が悪いのだと理解できる状況で。


 最大の障害となるのは、むしろカルロとジョットである。

 二人をどうにかしないことには、イリュネアに話しかけることすらできない。

 とはいえ、どんな形であろうと二人を引きはがそうとすれば、逆に怪しまれる可能性が高い。ハンカチの件でそれはよくよく理解している。

 そこで……。


「リナーシタさん。少しお時間、よろしいかしら?」

 授業を終えて、クラス教室に帰る際の廊下にて。

 リディアナは、エルザとコレットとともに、イリュネアに話しかけた。

 その様はまさしく悪役令嬢そのもの。普段ならば避けたいところだが、これは嫌がらせ犯への作戦……それを意識して、取り巻き役にエルザとコレットを当てたのだ。


「なんだ」

「……イリュネアに文句でもいいに来たのか」

 イリュネアは振り返るものの、応えたのはカルロとジョット。二人がいなくとも、イリュネアを取り囲むクラスメイト達が阻んでいただろう。

 だが、それでいい。


「お二人に用事はなくってよ。私が話しかけているのは、リナーシタさんなの」

 あえて腕を組み、あえて声をとがらせて、あえてにらみを利かせる。悪役令嬢であることをことさら強調した態度をとる。

 カルロとジョットはムッとし、クラスメイト達は少しばかり怯えて……その陰にいるイリュネアは、楽しんでいるように見えた。それほどあからさまではないものの、キラリと瞳を光らせるその顔つきは、魔王時代のそれ。

 目が合うと彼女はハッとし、深呼吸をしてから、何も疑いを持たない純朴な少女の顔つきをする。


「えっと……。お話、でしょうか?」

 思えば、学園時代のイリュネアと話すのはこれが初めてのことだった。

 〝誓約のクロニクル〟で、どういう口調でどういう仕草の少女かは知っていた。

 いかんせん、魔王時代の苛烈な性格が印象深いため、今の今までなんとも思っていなかったが……どえらい可愛さに、リディアナはどうにかなりそうだった。


 なにせ、イリュネアはかなり小柄。一五〇センチと、コレットと同じくらい。

 そのうえで。顔が。ものすさまじく。愛らしい。

 魔王時代は不敵な笑みや鋭い目つきも相まってカッコよさが際立っていたが、今目の前にいる学園時代のイリュネアは、もとの可愛さが天元突破していた。


「お茶会、しましょう?」

 思わず天を仰ぐところを何とか我慢し、簡潔に伝える。

 想定では、もう少し悪役令嬢っぽく押し付けるような言い回しを考えていたのだが……イリュネアの可愛らしさにあえなく撃沈してしまった。


「何を考えている。そんなこと――」

 真っ先に口を出したのは、やはりカルロ。

 それを、エルザがキツイ口調で抑える。

「失礼、王子サマ。今、なんて言ったの? まさか、レディの交流に殿方が割って入るような無粋な真似……しないわよね?」

「……!」

「彼女の顔に泥を塗りたくないのなら、おとなしくすることね」

 衆目を集める中で押し黙るほかになかったカルロに、エルザは満足したらしい。たまっていた鬱憤を吐き出すようにして、フンッ、と鼻を鳴らす。


「行かせられるわけがないだろう」

 なおも口をはさむのはジョット。

「この際はっきりといっておこう、ニューアーク嬢。噂にたがわぬその振る舞いは、目に余るものがある。彼女と関わるのはやめていただきたい」

 カルロといずれ恋敵になるこの騎士もまた、眉目秀麗だった。精悍な顔つきで、体格が良く、上背で……立っているだけで存在感がある。

 粗野な雰囲気が一つもないのは、その長い黒髪の影響だろう。美容にもこだわりがあるのか、天使の輪ができるほどにつややかで、だからこそ〝ネジレ角〟が良く映える。

 

「魔族の騎士は質が低い。見る目も、聞く耳も、考える頭すら持たないなんて」

 そうやってコレットがジョットを刺す。

「そこの王子モドキもだけど。魔王候補に挙がっただなんて……最強と謳われたエリュシオン王国も、案外凋落が近いかも」

 リディアナですら肝が冷えるような挑発だった。それだけ、コレットも二人に腹を立てていたということだろう。


 だが、おそらくそれだけではない。

 彼女の出身であるガルドブルク帝国は、過去の魔王一強時代に、唯一抗っていた国。個である〝最強〟に、軍としての〝最強〟で拮抗していた国である。

 そしてベーアバッハ家は……コレットは、軍人としての血と誇りを引き継いでいる。

 そういうわけもあって、カルロとジョットには絶対に頭を下げたくないのだ。


「――さ。お返事をいただけるかしら?」

 場を収めるためにも、リディアナが率先してイリュネアに問いかけた。

 どうやらイリュネアは、カルロとジョット以上の強者であるコレットが気になるらしい。終始そわそわとして、話しかけようとすらしていたが、状況を思い出して居住まいを正す。


「もちろん。喜んでお受けいたします。――カルロとジョットも、変な気は起こさないこと。いい?」

 彼らにとってのお姫様に可愛らしく問いかけられれば、断れるわけがない。

 カルロは反論を試みたが、イリュネアの目を見て顔を赤くして、ため息をついて頷いていた。


「では、時間は……放課後はどうかしら?」

「いいですね。どこかカフェにでも?」

「まだ食堂のスイーツを楽しめてないのよね……。いろいろと気にはなるのだけど、放課後は課題と予習で忙しいでしょう?」

「では、第一食堂で、一緒に課題もどうです?」

「いいわね、それ」

 イリュネアににこりと返してから、カルロとジョットを見やる。そうして同じようにして微笑んでやると、二人とも悔しそうな顔をしていた。

 

 これで仕込みは完了。

 廊下という人目のつく中、クラスメイト達はもちろん、野次馬も交じって何事かと見物している。この中に、嫌がらせ犯あるいはその仲間が確実にいる。

 時間と場所がはっきりとわかっている以上、何らかの行動を起こすに違いない。

 あとは、相応の迎撃態勢を取るだけだった。


   ◇    ◇    ◇


「カルロとジョットは想定通りに動いてるかしら?」

「あれだけ焚きつけたんだから、平気でしょ」

「何が起こるか……」


 カルロとジョットの二人に期待すること。

 それは、とにかくお茶会の時間までイリュネアに付きまとうことである。

 あれだけの状況を作った以上、二人ともお茶会に乱入できない。

 だがそれまでの時間、リディアナ達が何か仕掛けてくるものと警戒して、イリュネアのそばから離れようとしないだろう。


 つまり。お茶会の時間までに、嫌がらせ犯がイリュネアに何か働きかけようとしたならば、カルロかジョットのどちらかの目に留まることになる。

 イリュネアに何かあった場合、二人を問い詰めさえすれば嫌がらせ犯がどういった人物かはわかる。少なくとも、主犯につながる人物を捕まえることはできる。

 嫌がらせ犯も、ぼろを出すのは望まないはず。そうなると、取れる行動は限られ……。


「お茶会でどう仕掛けてくるか、見物ね」

 エルザがやる気満々で言う。

「私とエルザで、二人を遠巻きに見守る。だよね?」

 コレットの問いかけに、リディアナはうなずいた。

「懸念点があるとすれば、噂を流すだけにとどめた場合ね。ただそこは、早めに一緒に課題を進められるように誘導すればいいだけだから……二人の観察眼にかかってるわね」

 リディアナが挑発するようにいうと、エルザはニヤリとし、コレットは胸を張った。どうやら、こういったことに緊張するタマではないらしい。


「アタシにドンと任せなさい! これでも、人を見る目は確かなのよ」

「……喧嘩っ早いのに?」

「それは! ……あいつらが悪いんでしょ。アタシは別に普通だったわよ」

「ふん……?」

「なによ。コレットはちょっと黙ってて」


 エルザの家……つまり、ガルドブルク帝国〝侯爵〟アイレンブルク家は、ベーアバッハ家と同じく軍人家系。

 違うのはベーアバッハ家が前線で武功を立てた兵士の家系に対して、アイレンブルク家は戦略家として上り詰めた指揮官の家系。

 エルザもその例にもれず、かなりのエリート……意外にも頭がいいのだ。入学して一週間ほど経つが、数学だろうと化学だろうと魔科学だろうと、当てられたら模範解答を答える。

 喧嘩っ早いのが玉に瑕ではあるものの、いち早くリディアナへの評価を改めたことを考えると、大きなマイナス要素にはならないだろう。


「そもそもさあ……。魔王候補って、何?」

 リディアナは即座に応えようとして、ぐっとこらえた。

 〝誓約のクロニクル〟における知識が、現時点でどこまで常識として通用するのか……それを見定めるためにも、コレットの反応を待った。

「かつて暴虐の限りを尽くした魔王一強時代……。それを止めた七人の魔族の話から派生した。はず」

「それが魔王候補が七人の理由ってワケね……。で、どうなったら魔王になるの?」

「……さあ?」


 二人が互いに見やって小首をかしげ、それから一緒になって見つめてくる。

 まるで姉妹のような息ピッタリの仕草に笑いながら、リディアナは言った。


「私もそんなには知らないけど……。魔王候補は全員学校に通っているという話だし、学業をおろそかにしてはならないはず。成績にしたって、ある程度高いレベルを要求されるでしょうし……」

「ってことは……。魔王候補を引きずり下ろすには、退学処分を受けさせるのが手っ取り早い……?」

「おそらくね。で、私たちはそれに巻き込まれつつある。つまり……下手を打てば、私たちも退学」

「はあ? もう……勝手にしてよ」

 呆れたようにいうエルザに、リディアナもコレットも同意するほかなかった。


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