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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第四章 天禍為福】

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第六十五話 可愛くて仕方ねぇ


「菅原には何が見えてる?」


「何が?何がとは?私には背負う看板なんてありませんが」


「あるだろ。寺が。あの寺がある。あの寺を背負って生きている。もしそれがないなら?それがないお前は何を見る?」


「随分と哲学的な問いですね」


「お前が先に言ったんだろ」


「そうですね。でも、自分のことになるとさっぱりわからない。まぁ、私は私としか言いようがないですね。私は私なんですよ。紫門さんも。御影家があろうがなかろうが、紫門さんは紫門さんだということです」


「それがわからねぇんだよ。俺は俺って。そもそも俺ってなんだよ」


「人間?」


「ますますわかんねぇよ。ますます……つーか、腹減った。腹が減ったんだよ、俺は」


「ごはん、食べますか」


「何か頼むか……」


スマホを取り出すと、菅原が俺のスマホを掴む。


「一緒に作りましょう。浮腫を取るなら自炊が一番ですよ」


菅原の部屋、二人でキッチンに並ぶ。


「猫の手ですよ。猫の手。ちょっと!危ない!指を失いますよ!」


「わかってる。わかってんだよ!わかってるのに、なんかこう、上手くいかねぇんだよ」


「最初から上手くできる人はいませんよ。とにかく指を切らない。それだけです。ほら!猫の手!」


「もっと優しく教えろよ!」


「キュウリを切るだけですよ。どう優しく教えればいいんですか」


「優しくさぁ、優しくあれよぉ」


菅原がだし巻き卵を作るのを後ろから眺める。


「やってみます?」


「え?あぁ、多分無理だけど」


四角いフライパンの柄を握る。


「そう、上手上手。上手ですよ。くるくると巻いて。そうそう」


「俺、だし巻き卵の才能あるんじゃね?」


「……そうですね」


「呆れてんじゃねぇよ」


飯が出来上がり、テーブルに並べる。


「めちゃくちゃ美味そう」


「いただきます」


菅原が手を合わせる。俺も慌てて手を合わせる。


美味い。何よりも美味い。菅原と作った飯。また一つ、二人でしたことが増えた。


でも、ふと思う。俺が御影家から追い出されたら、菅原も仕事を失う。こいつはどうするつもりなんだろう。


というか、そんなのは耐えられない。こいつがいないことが耐えられない。こいつが俺の見えないところで別の人生を歩むのが耐えられない。


じゃあ、みんなに謝って御影家に残る?嗣御(しおん)に頭を下げて雇ってもらう?


いや、どうして俺が謝る?百歩譲って、女たちに謝るのはわかる。


“傷つけてごめん”って。でも、その他の人間に謝る必要ってあるのか。菅原のためなら、それができる。でも、菅原抜きで俺だけのこととして考えたら、謝りたくない。嗣御に頭を下げたくない。俺にだってプライドがある。でも、菅原が仕事を失うなら、菅原がいなくなるくらいなら、俺はプライドを捨て、頭を下げられるかもしれない。


「菅原、あのさ。お前、この仕事続けたいのか?」


菅原が顔を上げる。


「お前が続けたいなら、俺はみんなに頭を下げようと思う」


菅原が箸を置いた。


「私のためですか?それは」


「そうだ。だって、お前から仕事を奪うわけにはいかないだろ。お前は何も悪くない。寺を買い戻すためには金が必要だろ」


「私のために、みんなに頭を下げると?」


「そうだ。嗣御にも頭を下げて雇ってもらう……」


「そ、そんなの、嗣御さんと同じですよ。自分が御影家に縋りたいだけでしょ!私のためと言えば、自分のプライドは守られる!そうでしょう!」


「は!?嗣御と一緒?お前、最低だな!俺はあいつに嵌められたんだぞ!そんなヤツと同じだって言うのか!?」


「そういうことを言ってるんじゃない!私のために頭を下げるって。私抜きで考えてください!」


「菅原抜きで?お前抜きで考えられねぇから言ってんだろ!」


「どうして?どうしてですか?」


どうして。耐えられないから。菅原がこの先、俺の隣にいないことが。俺の知らないところで別の人生を歩むことが。


「耐えられねぇんだよ」


「何が耐えられないんですか!」


「お前がいないことがだよ。お前がいねぇと、俺は何もできねぇ」


「だからみんなに、嗣御さんに頭を下げると?」


「そうだ。これからもお前が俺のマネージャーとしてやっていけるように」


「それが私のためだと?」


「……いや、俺のためかもしれない」


「頭を下げられるんですか?あなたのことを週刊誌に売るような人たちに、あなたから御影家を奪った弟に、あなたは頭を下げられるんですか?」


「……下げられない。下げたくない。でも、でもじゃあ、どうすればいいんだよ。俺はまだいい。お前は!菅原は!」


菅原が立ち上がる。引き出しから大きな封筒を取り、俺に差し出す。


中身を出す。一冊の本。


「まだ見本誌ですけど」


「……見本誌?」


パラパラとページを捲る。


SNSに載せていたホラー漫画だ。バズったやつ。


「自分で作ったのか?これ」


首を振る菅原。


「お父様が亡くなって、紫門さんがバタバタしている時に編集者の人から声をかけられて。書籍化してみませんかって。それで、ずっと描いていたんです」


「菅原、お前……すげぇよ。すげぇ。やっぱり才能があった。俺が思った通りだ。すげぇ、すげぇよ」


思わず漫画を抱きしめた。


「紫門さんのおかげですよ」


「いや、お前の力だ。お前だけの。待て、つまり、漫画家になるってことか?」


「その本が売れれば、ですかね」


「売れるだろ。マジで面白いし」


菅原が照れたように笑う。


「……じゃあ、もう、菅原には未来がある?御影家にいなくても、仕事がある……?」


「そうなりますね。売上次第ですが」


終わった。俺が一人、家でメソメソ泣いている間に、嗣御は御影家を乗っ取り、菅原は漫画家という新しい人生を始めた。


俺は、御影家も菅原も失う。失った。


「……めちゃくちゃ嬉しい……菅原がやりたいことを見つけられて……」


「ありがとうございます」


「……でも、でも俺は、俺は何もかも失った。何も、何もない」


「そうですか?あ、そうだ。御影家も私もなくなった今、何が見えますか?」


「……何も見えない。でも俺はもう、御影家をやめたい。あそこにいる理由はない。俺には力がない。見えないし、祓えない。俺はただの人間だ。でも、でもな菅原。御影家はいらないけど、お前は必要だ」


「……」


「なぁ、菅原。俺から離れんなよ。俺のマネージャーだろ」


「今はマネージャーですけど、もうすぐ、マネージャーではなくなります」


「じゃあ、俺をマネージャーにしろよ。俺をお前のマネージャーにしろ」


「……はい?」


「お前は漫画を描け。ひたすらに。俺はそれ以外のすべてをやる。すべてだ」


「……本気で言ってるんですか?」


「本気だ。本気だよ。今までだってそうだっただろ。俺たちはそうやって始まっただろ」


「そうですけど……」


「俺は決めた。俺は御影家を捨てる。そして、菅原のマネージャーになる」


「あの、勝手すぎませんか?」


「勝手だ。でも、でも……マジで耐えられねぇんだよ。菅原、お前がいない人生なんて。お願いだ。俺を隣に置いてくれ。金もいらない」


「それは無理です。お金を払わないとか、そういうのは。やるならきちんと契約しないと」


「そう言うと思った。それでいい。見習いから始める。お前の横にいられればそれでいい」


「私を新しい御影家みたいにするのはやめてください!」


「違う。そんなんじゃない。そんなんじゃ」


「じゃあ何なんですか?どうしてそこまで私に執着するんですか?あなたはもう陰陽師じゃない。私の力は必要ない。私がいなくてももう大丈夫なはずでは?」


確かにそうだ。俺は御影家を捨てると決めた。俺はもう陰陽師である必要がない。それなのになぜ、菅原を必要としているのか。なぜ離れたくない。絆があるから?築いてきた関係があるから?それもある。でもそれだけでもないような気もする。


菅原と作っただし巻き卵を一口食べる。少し冷めてるけど美味い。


「お前と食べる飯が一番美味いから?」


「はぁ!?」


菅原が怪訝な顔でこちらを見る。


箸を置き、腕を伸ばす。


菅原の頬にそっと触れる。


やっぱり少し冷たい。


「可愛くて仕方ねぇんだよ。可愛くて……」


そう呟いた自分に少し驚いた。



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