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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第四章 天禍為福】

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第五十話 ひっくり返る


親父の遺骨と共に御影家に帰ってきた。


いつも通りの場所なのに何かが違う。親父はいるのに、いない。


俺も母さんもぐったりと椅子に腰掛ける。菅原のスマホが部屋に鳴り響く。


「もしもし……あ、店長。はい。はい?」


店長? 何だ?


「あの紫門さん、店長が差し入れをしてくれるそうで」


「差し入れ?」


「いつもの喫茶店の食べ物を。こういう時だからいつもの美味しいものを食べてほしいとか何だとか」


「あー、わかった」


「あ、店長。食べたいそうです。めちゃくちゃ」


いや、めちゃくちゃ食べたいとは言ってねぇよ。まぁ、いい。もう何か買いに行く体力も頼む元気もねぇ。


しばらくしてまた菅原のスマホが鳴る。


「あ! 店長だ。受け取ってきますね」


「みんなで行きましょう。お世話になっているんでしょう? お礼を言いたいわ」


母さんがそう言って立ち上がる。


「それもそうだな。サンタクロース見たら元気になるかもしれねぇし」


立ち上がり、三人で駐車場に向かった。


「あ! ひかりくん! 紫門くん! あ……! お、お母様!?」


店長が片手を上げて俺たちを迎える。しかし、母さんを見て固まる。


「紫門がいつもお世話になっております。はい、紫門の母でございます。お話はいつも聞いております」


「そ、そ、そんな。そんなそんな。そんなでございます」


何を言ってんだこのサンタクロースは。


「き、喫茶店のね、オーナーさんがね、特別にね、テイクアウトセットをね、つ、作ってくれて。珈琲もあるからね」


「マジで助かります。あざす」


「ありがとうございます。店長さん、お優しいんですね」


「い、いや。そんな。あ、この度はご愁傷様です。心よりお悔やみ申し上げます。お母様もしっかり食べて休んで、自分を労わることを忘れずに。紫門くん、何かあったらいつでも言ってね。僕はほら、暇だから」


「ありがとうございます」


「はい、マジ助かります」


深々と頭を下げる母さんの横で食事を受け取る。


「あ、ちょっと店長と話したいことがあるので先に戻っててください」


菅原がそう言って店長を車に押し込む。


「車の中で?」


俺がそう聞くとうんうんと頷く菅原。


「シフトのことか?」


また頷く菅原。


「わかった」


母さんと二人で家に戻る。


「冷めちまうからもう食べるか。菅原も多分すぐ来るだろうし」


「店長さん、本当にサンタクロースみたいだったわ。優しさの塊みたいだわ」


「そうだろ? あ、これ珈琲。砂糖とミルクは?」


「ブラックで頂くわ。ありがとう」


包みを開くといつものサンドイッチ。


「あ、端っこは菅原用で」


「そんな端っこなんて可哀想じゃない」


「違う違う。あいつ端っこが好きなんだよ。あいつがこれ食ってる時にさ、くれって言ったら端っこ寄越してきて。端っこかよ! って怒ったら『端っこが一番好きなのに』って言ってきてさ。マジでウケるよな。マジでウケた。そんな大事なもん、俺に渡すなよって……」


「大事なものなのにくれたのね。紫門に」


「腹がいっぱいだったとか?」


母さんは少しだけ笑ってサンドイッチを齧った。


「あぁ、美味しい。珈琲も美味しいわ。理想の喫茶店の味ね。いいわぁ。すごくいい」


「だろ? 俺たちが気に入る理由がわかるだろ?」


「楽しそうね、本当に。よかったわ。いい仲間ができて」


「そうだな。マジでそれはそう思うわ。てか菅原遅いな。ちょっと見てくるわ」


駐車場に向かう。車の中の二人は見たことがないくらい真剣で難しい顔をしている。シフトの調整ってそんなに難しいのか。


コンコンと車の窓をノックすると二人が飛び上がった。何をそんなにビビッてんだよ。こいつらは。


菅原が車のドアを開ける。


「あ、い、今戻ります。店長、ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」


「う、うん。気をつけて帰るよ。紫門くん、お風呂に浸かってよく眠りなさい」


「え? あぁ、はい。わかりました。気をつけて」


店長を見送り菅原と戻る。菅原は何も言わない。


「サンドイッチの端っこちゃんとあるぞ。好きだろ?」


「え? あ、はい。好きです。すごく」


「すごく? 面白ぇ。そんなに好きなんだ」


「はい。そんなに好きです」


危ねぇ。思わず抱き寄せそうになった自分に気づく。距離感がおかしくなっている。


「あ、ひかりちゃん。端っこあるわよ。サンドイッチ。端っこ。ほら」


母さんが端っこを嬉しそうに菅原に差し出す。


「あ、ありがとうございます」


端っこを受け取り黙々と食べる菅原。


「珈琲は? 少し冷めてるけど。砂糖とミルク、二つずつか?」


「はい。ありがとうございます」


俺が差し出した珈琲を一気に飲む菅原。


「喉乾いてたのか?」


「え? あ、はい。多分。端っこが好きなので」


母さんと顔を見合わせる。何か変だ、こいつ。


「菅原、お前おかしくねぇか? バイトのことで何かあったとか?」


「え? え……いや。いやそんな。そんなんじゃなくて。あの、えっとえっと……」


変だ。ものすごく変だ。何かを隠しているよな。


「何だよ。言えよ。俺そういうの苦手なんだよ。気になって夜眠れなくなる。マジで何だよ。ヤバい話か?」


「……」


「私、席を外した方がいいかしら? 二人で話した方が……」


「いえ! いや。いや、お、お、お母様もいた方が。いた方がいい。いた方がいい話です」


「そうなの?」


「はい。はい……」


「マジで何だよ。お前それを店長に相談してて遅かったとか?」


「……はい。そうです。私だけじゃ抱えきれなくて」


「何でいつも店長なんだよ。俺そんなに頼りねぇか?」


「いや、そうじゃなくて。そうじゃない。そうじゃないんです。その、紫門さんが傷つくかもしれない。そんな話で」


「俺が? 俺が傷つく?」


「はい。あなたが一番傷つく。でも、言わない方がずっと傷つくんじゃないかって」


「何を言ってるかさっぱりわからない。いいから言えよ」


「は、話します。今から話します。いいんですか? いいんでしょうか」


助けを求めるような顔で俺と母さんを見る菅原。


「いい、よな?」


そう言って母さんを見る。


「いい? のかしら……」


「いい。話せ。話せ菅原。俺たちの仲だ。言えよ。お前だけじゃ抱えられねぇんだろ。話せ」


目を瞑り深呼吸を始める菅原。何なんだこいつは本当に。


「あの。あの……愛人の方の息子。あの息子。あの息子は。あの息子には。あの、あの息子には」


あの息子? 俺と同じ歳くらいの。背が高くて顔が整ったあいつ。少しバカにしたような顔でこっちを見ていた。


「あの息子には、れ、れ、れ、霊力があります……」


最後の方は声が掠れていた。


母さんの喉から悲鳴のような短い音が聞こえた。


しばしの沈黙。


「何だって?」


「あの息子には霊力があります。視えるし、おそらく祓えます」


耳鳴りがした。キーンとかじゃない。耳の奥から世界が反転するような。耳の奥から身体がベロンとひっくり返るような。


「はは、ははは……親父、あいつやりやがったな」


「お母様、あなたのせいじゃありません。あなたのせいじゃありませんよ。違います。これは決して違うのです。私の存在がそれを証明しています。私は何の力もない親から生まれました。父親は行方知らず、母親もまったく力がない。だからあなたのせいでは決してありません」


菅原が慌てたようにそう言うが、母さんは放心状態で聞こえているかもわからない。


俺は耳の奥からひっくり返ったまま、ただ菅原を見つめていた。


「こんなにも個人的なことを、大事なことを店長に話してしまい申し訳ありません。ごめんなさい。ごめんなさい。でも、でも……」


「それって、あの息子も知ってるってことだよな? 俺に力が無くて菅原にあること。それがあいつには見えてるってことだよな」


「……はい」


だよな。だよな。だよなぁ。


ショックでひっくり返ったままの自分と、その現実を謎に受け入れている自分がいる。


菅原は真っ青な顔で母さんと俺を交互に見ている。こいつは多分知らない。俺が謎に受け入れていることを。


そして俺は気づかないフリをしている。


謎に受け入れている理由が菅原にあることを。

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