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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第四章 天禍為福】

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第四十六話 離れんなよ


通夜。


次から次へと弔問客が現れる。


父の亡骸を見て泣き崩れる人間。


「世話になった。親父さんを見習えよ」と俺の肩を叩いていく人間。


「御影家はお前にかかっている。しっかりしろ」と、素足でレールに立つ俺の横で説教してくる人間。


たくさんの人間の中に、ケンちゃんもいた。


何も言わず、ただ俺の手を取り、両手でギュッと握り、頷く。


その頷きが何を意味しているのかわからなかった。


頑張れというエールじゃなければいい。


ただ、そう思った。


人混みの中に店長を見た時、少しホッとした。


喪服が似合わない。


店長は早足で俺のところに来た。


「こんな時に話しかけてごめんよ。紫門くん、大丈夫かい? 眠れているかい? ひかりくんのシフトもしっかり調整したから大丈夫だよ。何か僕にできることがあったら、いつでも言ってくれて構わないからね。いつだって駆けつけるよ。何も気負うことはない。君の人生は君のものだからね」


俺の耳元でそんな言葉を囁き、去っていった。


俺の人生は俺のもの。


わかるような、わからないような。


「この度はご愁傷様です」


知らない人間に声をかけられ、頭を下げる。


「お父様のご生前は大変お世話になりました。こんなに立派な息子さんがいらっしゃって、お父様も幸せですね」


「ありがとうございます」


何の感謝だよ。


何もわからない。


何もわからないまま、ひたすら頭を下げ続ける。


菅原は忙しそうだ。


俺に声をかけてきた人間が誰なのか、後ろでこっそり教えてくれる。


教えられてもさっぱりわからない。


わかりたくもない。


親父に世話になったと言う奴らが、今度は俺を頼りにしているような気がして、頭を下げた数だけ俺の背中に乗ってくるような、そんな感覚があった。


母に呼ばれた菅原が、俺から離れていく。


菅原が離れてしばらくすると、呼吸が乱れだす。


吐いているのか、吸っているのかもわからない。


次々に目の前に現れる人間に、機械のように頭を下げ続ける。


突然、目の前が真っ暗になる。


ざわめきと悲鳴が聞こえる。


何だ?


何のざわめきだ?


そのざわめきが俺のせいで起きていることに気づいたのは、何秒か経ってからだった。


目を開けると、綺麗に磨かれた床が見えた。


俺は床に崩れ落ちていた。


「紫門さん!!!」


菅原の声が聞こえる。


「紫門さん、大丈夫ですか!? 聞こえますか!? 立てますか!?」


菅原が俺の腕を自分の肩に回す。


何とか立ち上がると、式場のスタッフが何人も駆けてきて俺を支える。


そのまま控室までよろよろと歩く。


控室に着くと、無理やりジャケットを脱がされる。


いつも通りだ。


こいつはいつもこうだ。


「横になりましょう」


菅原にそう促されるが、首を横に振った。


今横になったら、二度と起き上がれない気がした。


「二人にしてほしい。しばらく、菅原と二人にしてくれ」


「すみません。十五分だけいいですか?」


菅原がスタッフにそう伝え、みんな外に出ていく。


なんとか椅子に座る俺に、菅原が水を差し出す。


「大丈夫ですか? すみません、体調が悪いことに気づかなくて。少し休みましょう。横になった方が楽になりますよ。何か食べますか? あ、あそこにお菓子がありますよ」


そう言ってお菓子を取りにいこうとする菅原の腕を掴む。


「離れんなよ」


「はい?」


「お前が離れたら息が吸えなくなった。さっき。お前が離れたから」


「息? 呼吸が乱れましたか? 過呼吸? 紙袋を用意しましょう。精神的なものだと思います。一時的なものだといいのですが……」


「違う。お前が、菅原が俺のそばから離れたから。近くにいろよ。離れんなよ。じゃねぇと息が吸えねぇんだよ」


「紫門さん、私は近くにいますよ。あなたのマネージャーなので。大丈夫です。親を亡くす悲しみを私も同じく知っています。今はその悲しみを否定しないでください。悲しんでいいんです。大丈夫です。泣いても」


「違う」


「違う?」


「泣けねぇんだよ」


「無理に泣かなくてもいいんです。悲しすぎて泣けないこともあります」


「違う!!!」


「違う? 何が違うんですか?」


「違ぇ。違ぇんだよ。菅原。菅原……俺、俺……」


助けを乞うように菅原を見上げた。


いつもの目だ。


いつもと同じ目で俺を見ている。


「俺、俺。俺さ……悲しくねぇんだよ」


思わず目を瞑る。


怖い。


嫌われたくない。


「悲しくない?」


菅原がそう尋ねる。


もう無理だ。


目をギュッと瞑ったまま口を開く。


「俺、悲しくねぇんだよ。親父が死んだのに、ずっと悲しくねぇんだよ。いや、悲しいのかもしれない。わからない。わからねぇんだよ」


「何があるんですか? 悲しみじゃないなら」


あぁ、こいつはいつもそうだ。


そうやって聞いてくる。


「……怖い」


「怖い?」


「怖い。めちゃくちゃ怖い。怖ぇんだよ。御影家を背負うことが。親父が死んだ悲しみより、御影家を背負う恐怖の方が強い自分が気持ち悪ぃんだよ。そんな自分が嫌になるんだよ。俺、何のために生まれてきたんだよ。この家に。力もねぇのに」


突然、目の前が暗くなって、菅原の匂いがした。


しばらく呆然としていた。


目の前に立っていた菅原が、座ったままの俺の頭をギュッと抱きしめていた。


状況が把握できない。


「怖くて当たり前ですよ。そんなの。私だって逃げ出したくなります。私だって逃げ出したい。本当は逃げ出したいんです。寺のこと。紫門さん、怖くて逃げたくて当たり前ですよ。そんなのは」


菅原の言葉が耳に入った時、ようやく涙が流れた。


菅原の背中に手を回し、思いっきり抱きしめた。


気づいた時には顔を埋め、子どもみたいに泣いていた。


菅原は何も言わず、背中をさするわけでもなく、俺の頭を抱きしめ続けていた。


しばらくすると、涙が落ち着いてくる。


でも、離れたくない。


ずっとこのままでいてほしい。


そう思う自分に気づいてしまった。


「落ち着きましたか?」


何も答えられない。


顔を上げると、菅原が俺を見ていた。


憐れんでるわけでも、バカにしているわけでもない。


いつも通りの菅原が、そこにはいた。


菅原のスーツは、俺の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。


ポケットからティッシュを取り出し、俺に渡す。


それで涙を拭いて、鼻をかんだ。


「離れんなよ。お前がいないと息ができなくなる」


「わかりました。なるべく離れないようにします」


「なるべくじゃない。絶対だ」


「わかりました」


「嫌いになったか? 引いたか? 俺の話を聞いて」


「いえ。さっきも言いましたけど、その恐怖は真っ当ですよ。当たり前です。千年続く家。そして、あれだけの人間たちを今度は紫門さんが背負うことになる。そんなの怖くて当たり前です。怖くないわけがない。でも、背負わなくてもいいんですよ。紫門さんの人生は紫門さんのものなので」


「そんなの無理に決まってんだろ!!! 俺が決められることじゃねぇ。何を言われるかわからない。みんな俺には力があると信じてる。俺に期待してんだよ」


「その期待に応えると?」


「そうするしかねぇんだよ。それしか選択肢がねぇんだよ。敷かれたレールの上を裸足で歩くしかねぇんだよ。菅原、お前とな」


「私も?」


「お前がいないと俺は何もできない。見えないし祓えない」


「私がいなくなったらどうするつもりですか? 寺を買い戻して向こうに戻ったら」


「くっ……わからない。どうしたらいいかわからない。何もわからない」


本当に何もわからない。


菅原の夢は叶えたい。


叶えてやりたい。


でも、叶ったら俺は終わる。


「ごめんなさい。追い詰めるようなことを言って。今はできることをしましょう。悲しくなくていい。怖くてもいい。とにかく今は目の前にある課題を淡々とこなしましょう。時間はあります」


「そうだな……」


菅原が差し出した水を一口飲む。


もう一回抱きしめてほしい。


そう言いたい。


言いたかった。


でも言えない。


何かを認めることになるから。


認めたいのに、認めたくない。


抱きしめてほしい。


そばにいてほしい。


離れるな。


自分が発したその言葉の意味を知るのが怖かった。


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