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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第四章 天禍為福】

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第四十五話 あいつが手を離したら


マンションに到着する。


玄関の鍵を開けようとすると、菅原が俺の後ろに並ぶ。


「何で?」


「はい?」


「部屋、帰らねぇのかよ」


「お母様に任されたので」


「……いや、大丈夫だ。何かあったら呼ぶ。大丈夫だから帰れ。寝ろ」


ジッと俺の顔を見る菅原。


「わかります。一人になりたい時もありますよね。あの、私、起きているので何かあったら呼んでください。明日からしばらくバイトも休みます。紫門さん、あの……いえ。では失礼します」


菅原が自分の部屋に入っていく。


本当はそばにいてほしい。


一人で抱えきれない。


抱えきれる量じゃない。


親父が突然死んだこと。


それをまだ信じられないこと。


御影家を背負うこと。


それが親父の死よりもずっと怖いこと。


でも、やっぱり菅原に知られたくなかった。


悲しみよりも恐怖があることを。


薄情な人間だと思われて嫌われるのが怖かった。


こんな時でも、菅原に嫌われたくないと思っている自分が気持ち悪かった。


部屋に入ってすぐにインターホンが鳴った。


「紫門さん。スマホ、私の部屋にありました。しっかり充電しておいてください。あとこれ、こないだ作って冷凍しておいたハンバーグ。レンジで温めて食べてください。無理な時は冷凍庫に入れてくださいね」


「あー、さんきゅ」


頭を下げて帰っていく菅原。


一緒にいてほしい。


喉まで出かけた言葉を飲み込む。


どうしても食べる気になれなくて、冷凍庫にハンバーグを突っ込む。


シャワーを浴びて、ベッドに寝転ぶ。


スマホに充電器を差し込む。


つーか、菅原の漫画。今日のやつ上げてねぇ。上げねぇと。データ貰ってねぇな。


ノロノロと起き上がり、菅原の部屋に向かい、インターホンを鳴らす。


「ど、どうしました?」


「漫画のデータ、貰うの忘れてた」


「ま、漫画? え? SNSに上げるやつですか!? そ、そんなの気にしないでください。しばらく休みましょう」


「は? 何でだよ。せっかくここまで来たのに。みんな楽しみに待ってる。ここで途切れたら、また一からやり直しだぞ」


「わかってます。わかってますけど、今は、今はそれどころじゃない」


「それどころじゃないのはわかってる。でも、それでも、俺はお前の夢を叶えたい。お前の夢を。せっかく光が見えたんだ。光が」


「いや、でも……」


「でもじゃない。でもじゃねぇんだよ!!!」


「落ち着いてください、紫門さん。わかりました。しばらく自分でやります。自分で更新します。今のあなたに、親を亡くしたあなたに負担をかけることはできません。ずっと横で見ていたので、自分でできます。だから今は休んでください。眠れる時に眠ってください。私は隣に、ここにいます。何かあったら、いつでも呼んでください」


「……できる。俺がやる」


「紫門さん、明日からやることがたくさんあるんです。御影家のこと。だから今は休んでください」


「く……わかった」


部屋に戻る。


そうだ。


明日から御影家を背負うのは俺だ。


千年続く。なのに俺で途切れた、千年。


終わりだ。


終わってる。


何でだよ。


何で俺には力がない。


何でこんなところに生まれちまったんだよ。


何で俺なんだよ。


ズルズルと床に座り込んだ。


スマホが鳴り、咄嗟に出る。


「もしもし……」


「あ、紫門? ねぇ、ずっと無視してたでしょ~? 何回もかけたんだよ。今暇? みんなで飲んでるんだけど来ない? イケメン不足すぎて笑」


「おい! イケメン不足はひどすぎんだろ!」


女の後ろで男の声と笑い声が聞こえる。


「ねぇ、聞いてる? もしもーし」


「もうかけてくんな」


「何? ごめん、聞こえない!」


「もうかけてくんなっつってんだよ!!!」


「え?」


通話を切り、スマホを投げる。


こんなのばっかりだ。


俺の周りには、こんなのしかいない。


いや、俺もそうなのか?


俺がそうだから、こんなヤツしか集まらないのか?


だとしたら、親父が俺を見損なうのも、ポンコツと呼ぶのも合ってたな。


思わず笑いが込み上げる。


そのまま床に寝転がる。


足が寒い。


床が冷たい。


そのまま眠りについた。


朝起きると、喉が痛い。


身体も痛い。


時計を見ると、まだ朝の五時だった。


ズルズルと床を這って、昨日放り投げたスマホを探す。


画面を開くと、昨日の女からメッセージが来ている。


「何を怒ってるの?」


「ひどくない?」


「傷ついた」


「ずっと放置されて寂しかった」


何件ものメッセージ。


フレンド一覧にいる女を一人一人ブロックする。


最後に残った女は、菅原だけだ。


「何をやってんだよ、俺。何か意味があんのかよ」


親父が生きてる時にやれよ。


親父が生きてる時に。


生きてる内に、ちゃんとすればよかった。


ポンコツな自分を自覚していないわけじゃなかった。


でも、ポンコツのフリをして生きているほうがずっと楽だった。


親父が背負っているものを見ないようにしていた。


いつか自分が背負うものなのに、見ないフリをしていた。


目を瞑る方がずっと楽だった。


だから、菅原をすごいと思った。


ボロボロの寺を買い戻すために昼夜問わず働いて、金を貯めるあいつが。


たった一人で生きているあいつを、すげぇと思った。


俺にはできない。


親父、菅原みたいに頑張れなくてごめん。


菅原みたいに力がなくてごめん。


そう思うのに、涙が出ない。


親父に謝る自分すらも、フリなんじゃないかと思う。


真ん中にある。


重くて冷たい石みたいなやつが。


俺がこれから背負う、御影家という千年続くバカみたいにデカいものが。


先祖たちが築き上げた丈夫すぎるレール。


そもそも親父も、爺ちゃんも、その前の奴らも力があったじゃねぇか。


最初から、そのレールを走るトロッコが与えられている。


俺には力がない。


素足でレールの上を走るしかない。


菅原が俺の手を引っ張って、レールの上を走る絵が浮かんで、思わず笑いが込み上げる。


でも思う。


あいつが手を離したら?


あいつがいなくなったら?


レールの上、素足で立ち尽くす俺が頭に浮かぶ。


どこまでもポンコツだな、俺は。


もうこのまま逃げようか。


何もかも、捨てて。


いや、無理だ。


無理だろ。


俺には何もない。


むしろ、レールにしがみついてんのは俺だろ。


「気持ち悪いんだよ」


そう叫ぶが、何も返ってこない。


菅原がこれを聞いたら引くのか。


引くだろ。


答えのない問いを、ひたすら繰り返した。


現実から目を背けるように。


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