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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第四章 天禍為福】

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第四十四話 命綱


朝、目を覚ます。


少し伸びをして目を開くと、菅原の寝顔が真ん前にある。


あー、そうだ。昨日こいつが酔っ払って吐いて。心配だからここで寝たんだった。


菅原は眠っているのに眉間に皺が寄っている。


手を伸ばし、その皺をなぞる。


「つーか、今何時だ?」


振り返り、壁にかかった時計を見る。


九時半。


ヤバい。いつもならとっくに出発している時間だ。


「菅原!!!」


菅原が片目だけを開けて俺を見る。


「どうして同じベッドで寝ているのでしょうか、我々は」


「いや、お前が酔っぱらって」


「カッ!?」


「どっから出てんだよ、その音は。違う。菅原、時計を見ろ。寝坊した」


「九時半……?」


ガバッと起き上がる菅原。


「十分後に玄関前集合で」


「十分で間に合うのか?」


「間に合わせます」


走り回る菅原を背に、部屋を出る。


顔を洗い、歯を磨いて服を着替える。


髪をセットして終わりだ。


「完璧だな。俺」


何か忘れているような気もするが、まぁいい。


完璧だし。


菅原の部屋の前で待っていると、ドタバタと駆け回る音が聞こえる。


「はは、あいつ焦ってんな」


ガチャッとドアが開いて、肩で息をする菅原が出てくる。


「お待たせしました……」


「スケッチブック持ったか?」


「はい……」


そう言ってカバンをポンポンと叩く。


俺があげたキーホルダーが揺れて、カチャカチャと音を立てた。


「じゃあ行くぞ。朝飯は昼飯と一緒でいいだろ? 高速使えば間に合うか?」


「はい……」


車に乗り込み、アクセルを踏む。


ハンドルを切りながら菅原に尋ねた。


「つーか、酒弱いんだな。弱いのに酒買うんだ?」


「え? あ、依頼者の方に頂いて。紫門さんも貰ってましたよ」


「そうだっけ? 全然覚えてねぇわ」


「あの、私、酔っ払って吐いた記憶があるのですが……」


「あぁ、吐いてた。相当弱いんだな。飲んですぐだぞ」


「くっ……」


頭を抱え、黙る菅原。


「まぁ、人間誰しもそういう時があるだろ。気にすんなよ。便所で吐いただけマシだろ」


「くっ……」


「じゃあ、あれも覚えてねぇのか? ソファとテオを欲しがってたやつも」


「!?!?!?」


飛び上がり、目ん玉をかっ開いて俺を見ている。


「テ、テ、テ、テオ? あの、テオ?」


「ゴッホの弟だっけ? そいつとソファが欲しいって」


「終わった……」


そう呟き、助手席からズルズルとずり落ちていく。


「何が終わったんだよ。いいだろ、別に。俺は何とも思ってねぇよ。思ってねぇわけじゃねぇけど」


「恥ずかしすぎる。忘れてください。記憶を消してください。お願いします」


「すぐ忘れるから安心しろ」


「今すぐ忘れてください」


「俺は菅原のテオにはなれねぇってさ」


「私がそう言ったんですか?」


「そうだ。俺もテオみたいな人間を求めてるって」


「それは、まぁ、そう思いますね」


「じゃあ、お前が俺のテオになれよ」


「どうして私が? というか、マネージャーなんでテオみたいなもんじゃないですか?」


「マネージャーが?」


「はい」


「菅原が俺の、テオ」


「それはちょっと語弊があります」


「なんでだよ」


目的地に到着する。


ギリギリ間に合い、いつも通り二人で依頼をこなす。


朝食兼昼食を食った後、少し時間があった。


眠かったから、車の中で二人で昼寝をすることにした。


「タイマーセットしました。十五分だけですよ?」


「わかってる」


あっという間に眠りについた。


電話が鳴る音で目が覚める。


菅原が何か話している。


「紫門さんのスマホ?」


そう聞こえて、ポケットに手を突っ込む。


スマホがない。


あー、菅原の部屋に置いてきたっぽい。


昨日、電源を切ったままだ。


バタバタしていて、すっかり忘れていた。


「……え? お父様が?」


親父?


なんだ?


背もたれを起こす。


「何かあったか?」


菅原が耳にスマホを当てたまま、ゆっくりとこちらを見る。


「お父様が倒れて、病院に……」


「……は?」


菅原の手からスマホを奪い取り、耳に当てる。


「もしもし? 親父が何だって?」


「紫門? 何回もかけたのよ。何で出ないの。お父さんが倒れたの。病院にいる。今すぐ来て。じゃないと……」


母さんだ。


じゃないと?


じゃないと何だよ。


「今すぐ行く」


そう言って電話を切る。


菅原がカーナビに住所を入れる。


エンジンをかけ、アクセルを踏み込む。


病院に着くまでの間、菅原は依頼者に次々と電話をかけ、事情を話し謝っていた。


倒れたって何だ?


そんな急いで来いって。


死ぬとか?


そんなわけねぇだろ。


まだ死ぬような歳じゃない。


もし死んだら?


ゾッとする。


悲しみよりも先に、恐怖が全身を走る。


力もない俺が、ポンコツの俺が、御影家を背負うのか?


「紫門さん、連絡終わりました。大丈夫ですか? 運転変わりましょうか?」


「いや、大丈夫だ」


俺はそれ以上何も話さなかった。


知られたくなかった。


こんな状況で、親父の心配よりも自分の心配をしていることを。


病院に着き、ICUまで走る。


「ご家族しか入れません」


入口でそう言われ、菅原が立ち止まる。


「な、なんで? こいつは俺のマネージャーで……」


「規則なので」


看護師がそう言って肩をすくめる。


「大丈夫です。ここで待っています。ずっと待っています。マネージャーなので」


そう言って、俺の腕に触れる菅原。


その手を握ろうとした。


でも、握れなかった。


ICUに入ると、管に繋がれた親父がいた。


「あ、紫門! お父さん、紫門が来たわよ。聞こえてる?」


声が出ない。


何だよ。


何なんだよ。


昨日まであんなに嫌なことを言ってたのに、どうなってんだよ。


そこからのことは、よく覚えていない。


警告音が鳴り響き、医者や看護師がドタバタと走ってきた。


仕切りのカーテンが人の動きでフワフワと、せわしなく動いていた。


親父は、俺と母さんの目の前で息を引き取った。


最期の言葉とか、そんなのもない。


ありがとうとか、そんな言葉をかけることも、手を握ることもなく、死んでしまった。


恐れていたことが目の前で起きてしまった。


いや、いつかは来るだろうとは思っていた。


でも、こんなに早いとは思わなかった。


そして、目の前で親父が死んでも、悲しみよりも御影家を背負う恐怖の方がずっと強くて、そんな自分が気持ち悪かった。


親父もこんな気持ちだったのかよ。


爺ちゃんが死んだとき、御影家を背負う覚悟はあったのか。


でも、でも親父には力があっただろ。


俺には?


俺にはない。


菅原がいないと。


菅原がいないと、もうどうにもならない。


あいつは俺の命綱だ。


ICUから出ると、菅原がいた。


「ダメだった。親父、死んじまった」


「……」


何とも言えない顔で俺を見る菅原。


何も言えないんだろう。


「わ、私がいます。何でもします。私にできることなら」


母さんが口を開く。


「ひかりちゃん、ありがとう。でも大丈夫よ。手続きは御影家の行政書士に頼むわ。とにかく今は紫門をお願いね。今日はもう遅いから、一旦家に帰りなさい。何かあったら連絡するから」


冷静だ。


いや、いつだって冷静だった。


この人は。


「わかりました。私が紫門さんを見守ります」


「お願いね」


駐車場まで歩き、助手席に乗り込む。


「大丈夫ですか? 何か食べられそうですか?」


菅原がエンジンをかけ、そう尋ねる。


「いや、いい」


「わかりました」


知られたくない。


知られたくなかった。


親父が死んだ悲しみよりも、恐怖があったこと。


そんな最低な自分を、俺はどうしても菅原に知られたくなかった。


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