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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第四章 天禍為福】

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第三十五話 端っこが一番好きなのに


「初めて親父に怒鳴ったかもしれねぇ」


ヤバいことをやってしまったという気持ちと、ようやく俺になれたという気持ちがぶつかり合う。


「ヤバいですね。すごく、ヤバいです。でも、すごくカッコよかったです」


「……は?」


カッコよかった? カッコよかった……。


カッコいい。そんなのは、死ぬほど言われてきた。というか、それがスタンダードだ。カッコいいというのは当たり前で。俺にはそのカッコいいに上乗せできるものがない。いや、そんなのはどうでもいい。菅原が俺をカッコいいと言った。


今まで向けられていたカッコいいともまた違う、カッコいい。


「よくやりましたね!」


「よくやった?」


「はい、よくやりました。お父様相手に。いや、クソジジィ相手に!」


そう言って、手を差し出す菅原。


その手を握る。


菅原がギュッと握り返す。


「よくやった!」


そう言って笑う菅原。


鼻の奥がツーンとする。ヤバい、俺なんか、泣きそうになってる。


ヤバいことをした。親父を怒鳴った。


これから先、どうなるかわからない。


どうなるかわからない。


どんな扱いをされるかわからない。


でも、菅原がいればどうにかなるんじゃねぇか。


こいつが俺の横にいれば、どうにでもなるんじゃねぇか。


そう思った。思ってしまった。


菅原が離そうとした手をギュッと握る。


「ありがとな。お前もカッコよかった。親父に謝れって言ったの」


「こちらこそありがとうございます。お寺のこと、侮辱された時に怒ってくれて」


菅原の顔をジッと見る。


可愛いとか、可愛くないとか、そんなんじゃない。ただ、菅原だ。ただ、菅原だった。


「寺の件は、どうする?」


「わからない、どうしたらいいか」


そう言って、困ったような顔をする菅原。


見たい。こういう困った顔も。怒った顔も。笑った顔も。泣いた顔も。バカにしたように俺を見る顔も。それがなぜかはわからない。多分、菅原だから。


「サンタクロースに聞くか」


「店長にですか?」


「そうだ。店長なら何か教えてくれるかもしれない」


「たしかにそうですね」


「今から行くぞ」


「今から!?」


「そうだ。今から」


菅原の手を握ったまま、立ち上がる。


事務所を出て、車までの道も、菅原の手を握っていた。


離したくない。できたら、ずっと。


マネージャーだから。マネージャーだから? マネージャーだから……


車に乗り込む前、菅原が手を離す。


♢ ♢ ♢


コンビニに着くと、店長がコンビニの前をホウキで掃いている。


「あれ? ひかりくん、今日はお休みでは? あっ! 紫門くん! やぁ、こないだぶり!」


俺たちに気づいた店長が満面の笑みで話しかけてくる。


しかし、俺たちの表情を見た店長がどんどん青ざめていく。


「ま、ま、まさか、ひかりくん、僕を怒りに? 紫門くんに言ってしまったことを怒ってるとか? あ、あぁ、ごめん。ごめんよ。ウッウッ、不徳の致すところ。切腹、切腹しかないのかもしれない。あぁ、だから、だからダメって言ったんだぁ」


そう言って両手で顔を覆い、地面にヘナヘナと座り込む店長。


菅原と顔を見合わせる。


「はは……あははは!」


菅原がしゃがみ込んで笑いだす。


店長が顔を上げ、菅原を見たあと、俺を見る。


「は、初めて見た……ひかりくんが大爆笑しているとこ」


いや、大爆笑ではねぇだろ。爆笑くらいで。


つーか、俺も初めて見たわ。


涙を拭い笑う菅原。


つーか、また店長だ。菅原を爆笑させた。俺じゃなくて、店長が。


「笑ってるってことは、怒ってるわけじゃあ、ないよね?」


キュルンとした瞳で俺を見る店長。


それを見てまた笑う菅原。


まぁ、いいか。こんなに笑う菅原もレアだしな。


「怒ってないっす。ちょっと、緊急事態で。少し話せますか?」


「ちょっと待ってて」


そう言って一瞬で真面目な顔になり、店内に入る店長。レジの店員に何度も謝り、こちらに戻ってくる。


「オッケー! じゃあ、こないだの喫茶店に、レッツゴー!」


そう言って歩き出す店長。


まだ笑ってる菅原の腕を掴む。


「行くぞ」


フラフラと立ち上がる菅原。


♢ ♢ ♢


喫茶店に着き、三人で席に座る。


「好きなものを頼みなさい。今日は僕の奢りだよ~!」


そう言って腹を揺らし、サンタクロースみたいに笑う店長。


「サンドイッチとパフェ、アイスティーで」


そう言ってメニューを指差す菅原。


「お前、遠慮って知ってる?」


「遠慮してこれです」


「はっはっは! やっぱり面白いよねぇ。ひかりくん。面白いよぉ~」


「ありがとうございます。店長も面白いですよ」


変なヤツと変なヤツが集まってしまった。


サンドイッチを黙々と食べる菅原を見る。


腹が減ってたのか、こいつは。


「それで、緊急事態って何があったんだい?」


サンドイッチを食べながらそう尋ねる店長。


「菅原のあの寺? あそこに買い手が付きそうだとメールが来て。でも、菅原もまだ金が貯まってないし、俺も親父に反対されて、買えないっつーか」


「どうして君が買うんだい、紫門くん」


「えっ、いや、だって、え……金が、あるから?」


「金があるって言ったって、君には何のメリットもないだろう」


「え? いや、あ、菅原にはある。俺に金を返せばいいわけだから……」


菅原を見ると、一心不乱にサンドイッチを食っている。


マジで腹減ってたんだな、コイツ……。


「お金の貸し借りはね、簡単にするものじゃないよ。それに、額があまりにも大きいだろう? それは、お父さんも反対すると思うよ」


親父の肩を持つのか、店長。


「わかってます。わかってますけど。わかってますよ!!!」


思わずデカい声を出してしまった。


今日はなんかダメだ。抑えられない。


菅原がハッと顔を上げ、俺を見る。


「落ち着いてください、紫門さん。どうしました? お腹空きました?」


そう言って、サンドイッチを差し出す菅原。端っこだ。端っこじゃねぇか。何で端っこなんだよ!


「端っこじゃねぇか!」


思わず叫ぶ。ダメだ。やっぱり今日はダメだ。


「えっ……端っこが一番好きなのに……好きだから残しておいたやつ、あげたのに……」


「えっ」


「紫門くん、君にとってはただの端っこかもしれない。でも、ひかりくんにとっては、宝物なんだよ」


何か、大事なことを言われたような気がした。


ものすごく大事なこと。


でもそれが何なのかわからない。


いや、なんの意味もないのかもしれない。


菅原がくれた端っこを受け取り、一口齧った。


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