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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第三章 視える女の重責】

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第三十話 言えねぇのかよ。俺には


なぜか、菅原が手を離さない。


俺もなぜか、その手を握っている。


コンビニを出て、少し歩く。


菅原が何かを思い出したように立ち止まる。


「あ、私、自転車だった」


そう言って手を離す菅原。その離れた手に、少し胸が痛む。


「自転車、取ってきます。少し待っててください」


そう言って走り出す菅原。


さっきまで繋いでいた方の手を見る。菅原の手、冷たかった。


菅原が自転車を押して戻ってくる。


「俺が押してく」


「いや、大丈夫です」


「いいから、貸せ」


菅原が渋々自転車を俺に渡す。


「なんでバイトしてんの?」


「なんでいるんですか?」


二人で同時に質問して、声が重なる。


「あ、どうぞどうぞ」


菅原がそう言って、お先にどうぞみたいなジェスチャーをする。


「なんでバイトしてんの?」


「こ、こ、答えられない……」


予想通りだ。予想通りだった。


「副業してるなら、言わねぇとマズいだろ」


「い、いや、年末調整の前には言わなきゃと思っていました……」


「そんなに金が足りてない?」


「しょ、奨学金が……」


「にしても、だろ」


「……」


「言えねぇのかよ。俺には」


頷く菅原。


「まぁ、別に聞きたくもねぇけど」


聞きたい。本当は聞きたかった。


でも、言いたくないことを無理やり聞き出す気にもなれなかった。


「紫門さんは、なんでいるんですか? ここに。お友達に、聞いた?」


「そうだよ。聞いた。あいつ口軽いからな。一応、なんつーか、あれだろ。副業やってるって聞いて、なんか、その、御影家的にどうなんだと思って、見にきただけ」


なんだよ。御影家的にって。


「すみませんでした……火傷までさせちゃって」


「してねぇって。めっちゃ分厚いパーカーだからな。反射で熱いって言っただけだし。つーか、マジでお前のせいじゃない。あのジジィが悪い」


「ごめんなさい」


「謝んなって。大丈夫だ。つーかさ、お前、いつ寝てんだよ。昼間働いて、夜働いて」


「マネージャー業務が終わってから少し寝て、あと、休日に寝溜めしています」


「はぁ……マジで身体壊すぞ」


「はい……」


「あのさ、明日? いや、もう今日か。今日から俺が運転するから。お前は寝てろ」


「だ、ダメです! 私の仕事なので」


「いや、危ねぇだろ。寝不足の人間が運転して。事故ったらどうすんだよ」


「そ、それは……」


「だろ。だから俺が運転する。お前は寝てろ」


「そ、そんなの、マネージャー失格です」


「うるせぇ。いいから。そうする。そう決めた。今決めた」


そう言って、自転車に跨る。


「ほら、後ろに乗れよ」


「えっ、捕まりますよ。お父様にバレたら、怒られますよ」


「いい。いいから、乗れ。疲れてんだろ」


「はい……」


「ちゃんと掴まってろよ。飛ばすぞ」


菅原が俺の腹に腕を回す。


俺も菅原も、もう何も話さなかった。


何も、話せなかった。


途中、少しだけ菅原が俺の背中に頬をつけたような感覚があった。


でも、すぐに離れる。


マンションの前に着く。


フラフラと降りる菅原。


「大丈夫か?」


「はい。大丈夫です。自転車、置いてきます」


「俺が押していく。場所を教えろ」


駐輪場に自転車を停める。


「ほら」


そう言って、手を差し出す。


「はい?」


意味がわからないという顔で俺を見る菅原。


「ふらついてて危ねぇから、手ぇ貸せっつってんだよ」


まだ意味がわかっていない菅原の手を取り、マンションに入る。エントランスで鍵を差し込み、中に入る。


エレベーターの中でも、俺は手を離さなかった。菅原の手はやっぱり、冷たかった。


部屋の前で、立ち止まる。手は握ったまま。


「あの、本当にごめんなさい。会社にはきちんと報告します。失った信頼を取り戻すために、明日、いや今日からまた、頑張ります」


どこまでも、どこまでも、こいつは菅原だ。


「そういうこと言ってんじゃねぇって」


菅原の手をほんの少し強く握る。


「信頼を失ったとかもない。でも、なんか辛いわ。俺。そんなに信用ねぇか? 俺さ、お前に認められるために、仕事、頑張ってきたと思ってた。いや、俺はなんもしてねぇけど。少しは認められたと思ってた。でも、お前がバイトしてる理由も教えてもらえない。わかってる。プライベートなことだってのは。でもさ、パートナーだろ。お前が祓って、俺が祓うフリをする。それでやってきた。やってきたつもりだった。でも、お前にとってはどうでもいいことだった。そうだよな。当たり前だ。仕事だし。悪い。変なこと言って。じゃあ、寝るわ。おやすみ」


「あっ……紫門さん」


俺は、菅原の手を離し、鍵を開けて中に入る。


菅原が何か言おうとしていたけど、聞きたくなくて無視した。


どうせ“それでもやっぱり教えられない”って言うに決まってる。わかる。聞かなくても、わかる。それが菅原だから。


店長から借りたTシャツを脱ぐ気にもなれず、そのままベッドに寝転がる。


もうどうでもいい。もうどうでもいいじゃん。なんで俺はこんなにマジになってんだよ。なんであんなこと、菅原に言った? 俺は何がしたい。


何も、何もわからない。もう、何もわからなかった。


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