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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第三章 視える女の重責】

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第二十六話 茶碗が二個


「昨日はまじで助かった。あと、勝手に泊まって悪かった」


助手席に乗り込んですぐ、菅原にそう言った。


「いえ、お気になさらず」


こちらをチラリとも見ず、運転席で書類を確認する菅原。


「あのさ、途中で駅ビルに寄ってほしい。ちょっと見たいものがあって」


「駅ビル?」


そう言って、地図を見る菅原。


「最初の依頼のあと、少し時間があるので、そこで行きましょう」


「おっけー。頼んだ」


依頼をこなしたあと、菅原がコインパーキングに車を停める。


「じゃあ、ちょっと待ってて」


「はい。私は報告書を書くので、車の中にいます。何かあったら連絡してください」


車を降りて、駅ビルに向かう。


着いたのは、ルームウェアを売っている店。昨日のお礼に、菅原にルームウェアを買って渡そうと思った。


目についたものを手に取る。こんなモコモコしたやつ、あいつは着るのか? 自分じゃ選ばないだろうし、貰ったものなら仕方なく着るか?


「彼女さんへのプレゼントですか?」


店員が話しかけてきた。


「いや、そういうわけでは。マネージャー? あー、仕事の? まぁ、お礼に」


「マネージャーさんにプレゼントですか? 仲良しなんですね」


仲良し……仲良しではない。むしろあいつは俺のことを嫌がっているような。いや、嫌がってたら部屋に入れないだろ。いや、でもあれはゴキ……あの黒いヤツのせいで、仕方なくか。いや、嫌がってたら朝飯を作らねぇだろ。俺のために。あー、美味かったな、味噌汁。また、食いてぇなぁ。


「お客様?」


「あー、とりあえず、シンプルなやつ? いや、可愛いやつ?」


「これとか、どうでしょう。シンプルですが、少し甘い感じ。サイズとか、おわかりですか?」


「サイズ……? あー、お姉さんとそんなに変わんないかな。身長はこんくらい?」


首元あたりに手をやる。抱きしめたら、多分このへんに頭があんのか?


あいつを抱きしめることなんか、ねぇけど。


「なるほど、なるほど。じゃあ、これですかね」


「じゃあ、それで」


「ラッピングはどうされますか?」


「ラッピング? あ、いや、いいです。紙袋だけ、お願いします」


プレゼントではない。お詫びの品だ。


車に戻ると、菅原がまたこちらも見ずに、「おかえりなさい」と言った。


「菅原、あのこれ」


そう言って、ルームウェアの入った紙袋を渡す。


「はい? なんですか?」


そう言って受け取り、中身を見る菅原。


「いや、お詫びの品……昨日のこととか。あと、朝飯とか」


いらないですとか言われたら、何て返せばいいんだ。“ありがたく貰っとけよ”とか言えばいいのか?


「……可愛い」


菅原が小さい声でそう呟いた。


可愛い……菅原も、可愛いとか思うんだ。


「ありがとうございます。大事に着ます」


大事に? 大事に……大事に……。


「いやぁ、あぁ、うん。大事にしろ」


何を言ってんだ俺は。


「なんで、茶碗とか箸が二個ある?」


な、何を聞いてんだ俺は!!!


「……何の話ですか?」


「いや、なんで一人暮らしなのに、なんで茶碗とか箸が二個あんのかなぁって」


「いや、新居のために買ったけど、古い方がまだ使えそうで、捨てるのがもったいなくて」


あぁ、やっぱり彼氏じゃねぇな。


「そうか」


「これ、サイズよくわかりましたね」


「は? あぁ、まぁな。女のサイズなんて朝飯前だ」


怪訝な顔で俺を見る菅原。


「女遊びも程々にしてください。新居に呼ぶ場合も、あまり騒がないようにしてくださいね。他の住民から苦情が入ったら、お父様に怒られますよ」


「呼ばねぇよ! つーか、最近遊んでねぇし」


いや、菅原が引っ越してきた日に遊んだけど。飯食っただけだし。つーか、付き合うか迫られて、断ったし!


「程々なら、大丈夫です」


なんだよ、それ。程々ならって。いや、なんで俺は腹が立ってんだよ。


「程々ってなんだよ。遊んでねぇって。まじで。部屋にも呼ばねぇよ。女は」


「そうですか」


そう言って、袋にルームウェアを入れて、手を伸ばし、後部座席に置く菅原。


「お前って、彼氏いたことあんの?」


なんか、腹が立って思わず聞いてしまった。しかも、“いたことあんの?”って変な聞き方をしてしまった。でも、“お前、彼氏いんの?”だと、俺がこいつを好きみたいだし。そんなわけないのに、そう思われるのは嫌だし。


「なんであなたにそんなこと教えないといけないんですか?」


困ったような、怒ったような顔で菅原がそう言った。


「いや、別に……ただ、聞いただけ」


「プライベートなことは、教えられません」


「プライベートってなんだよ。ただ、彼氏がいたことあんのか聞いただけだろ。よくある世間話だろ。“いた”か、“いない”かの、ただの二択だろ」


「だから、なんであなたにそんなことを教えないといけないんですか? 私に彼氏がいたら、なんだって言うんですか? いなかったら、“やっぱりな”とか言うんですか? 最初の頃、言ってましたもんね。愛想が悪いとか! そんなんじゃ、モテないとか!」


「いや、ちが、違くねぇけど。言ったけど。あの時は、いや……」


「紫門さんが、私のこと馬鹿にしてるのはわかってます。さっき、あれをくれたのだって、私の部屋着がボロボロだったから、同情して買ったんですよね。わかってます。だからって、そんなこと聞くのは、酷いと思います!」


「ば、馬鹿になんてしてない。してない。マジでしてない。部屋着は、違う」


違くない。そうだ。部屋着がダサくてヨレヨレだったから、新しいのをあげようと思った。でも、同情したわけじゃない。


顔を歪めて怒っていた菅原が、みるみるうちに項垂れていく。


「……菅原?」


「……すみません。取り乱しました。部屋着、せっかく買ってきてくれたのに、同情とか言って、すみません。本当に、ごめんなさい。ちゃんとします。ちゃんと。私は、あなたのマネージャーなので」


「いや、俺も変なこと聞いて悪かった。でも、俺はマジでお前のこと馬鹿になんてしてない。俺は何にもできねぇけど、菅原はそうじゃない。見えるし、祓える。マネージャーとして、ちゃんとやってる。俺は、俺の方が、ちゃんとしないとダメだと思う。俺さ、マジで女と遊んでない。いや、こないだ飯食ったけど……でも、曖昧な関係を切った。そういうの、もうやめようと思ってる――仕事のために」


仕事のためじゃなかった。多分。


「紫門さんも、頑張ってますね」


顔を上げて菅原を見る。


呆れたような、困ったみたいな、でも、笑ってるみたいな顔。


「俺、多分、頑張ってる……」


――お前のために。いや、仕事のために。


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