表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!  作者: 葵 すみれ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/41

36.大神官の横暴

 シルヴィアは拷問部屋を抜け出し、地上へと続く階段を上っていた。

 後ろから大男が静かについてくる気配を感じたが、シルヴィアは振り返らなかった。

 地上へと続く階段を上りきると、そこには神官や従者たちが行き交っていた。

 彼らの多くはシルヴィアの姿を見ると、恭しく頭を下げて道を開けてくれる。しかし、中には驚いた顔をして駆け出していく者もいた。

 シルヴィアは気にせず歩き続ける。


 向かうのは中庭だ。

 天空神スカイラーを祀る神殿では、空が見える場所に礼拝所が設けられている。

 この神殿の中庭は身分の高い者しか立ち入ることを許されず、王族や貴族達が空を見上げながら祈りを捧げるための場所だ。

 シルヴィアが中庭に近づいていくと、揉めているような声が響いてきた。


「聖女さまを異端審問にかけようとするなど、正気とは思えませんわ!」


「そのとおりです! いくら大神官さまと言えども、そのような横暴は許されません!」


 声のする方へ向かうと、そこには大神官と向き合うように、神官たちが集まっている。

 神官たちの先頭に立っているのは、王女ベアトリクスだ。


「何やら誤解があるようですね。聖女さまは、残念ながら洗脳され、穢れを受けてしまいました。それを祓うための儀式を行うのですよ」


 大神官は穏やかな口調で説明するが、ベアトリクスは納得できないようだ。

 なおも食い下がろうとする彼女を遮るように、大神官が口を開く。


「私は神の声を聞くことができます。聖女さまが悪魔に憑かれていることは明白です」


 その言葉に、ベアトリクスは驚愕の表情を浮かべた。


「……それは、本当ですか? 本当に神の声なのですか?」


 ベアトリクスが疑わし気な視線を向けると、大神官は不機嫌さを隠そうともせずに彼女を睨み返した。


「神を疑うなど、畏れ多いことですぞ。王女殿下も背徳者だったとは、失望しました」


 大神官の物言いに、ベアトリクスは反論しようとする。

 しかし、そこに二人の王子たちが駆けつけてきて、ベアトリクスは口をつぐむ。


「ベアトリクス、いい加減にしろ!」


「そうですよ、大神官さまに謝罪してください!」


 第一王子ディルクと第二王子ナイジェルは、慌ててベアトリクスを宥めようとする。

 だが、ベアトリクスは黙ったままだ。どうやら相当怒っているらしい。


「僕たちは実際に、あの女が頭のおかしなことを散々言っているのを聞いたんだ!」


「ええ、あれは洗脳されているとしか思えません!」


 ディルクとナイジェルが口々に訴える。


「ふむ……ディルク殿下とナイジェル殿下は、正しい目をお持ちのようですな。さすがは次期国王候補、素晴らしい洞察力をお持ちだ」


 大神官は感心したように頷き、ベアトリクスに視線を向ける。


「しかし、王女殿下は神を疑うなど……。どうやら、あなたも穢れを受けてしまったようだ」


 哀れむように言うと、大神官はベアトリクスと共に集まった神官たちを見回す。


「そなたたちも嘆かわしいことだ。革新派などと自称し、王女殿下をたぶらかしおって」


 大神官の言葉に、ベアトリクスは唇を嚙みしめた。


「そのような言いがかり……!」


 反論しようとするベアトリクスを手で遮ると、大神官は続ける。


「言い訳など無用ですぞ。あなたにも浄化が必要のようだ」


 そう言うと大神官は手を挙げ、何か合図を送ったようだった。

 周囲から神官たちが現れ、ベアトリクスを拘束してしまう。


「何をするのです!? 離しなさい!」


 抵抗するベアトリクスだったが、屈強な男性たちに押さえつけられては、どうすることもできなかった。

 そんな様子を見て、ディルクとナイジェルが焦り始める。


「大神官さま! いくら何でもやりすぎです!」


「そうです! ベアトリクスは王女ですよ!?」


 二人の抗議にも大神官は耳を貸そうとしない。それどころか、微笑みさえ浮かべてみせている。


「ご安心ください、殿下方。数日もすれば王女殿下の穢れは祓われ、敬虔な信徒として生まれ変わるでしょう。聖女さまも儀式を受けているところです。すぐに……」


 大神官の言葉は、途中で途切れた。シルヴィアが中庭に姿を現したのだ。

 シルヴィアは落ち着いた足取りで大神官の前まで進み出ると、静かに一礼した。


「ごきげんよう、大神官さま」


「……そんな……どうして……」


 大神官は信じられないといった様子で、シルヴィアの姿を見つめている。


「あのような拷問器具で穢れを祓えるなど、わたくしは存じませんでしたわ。神殿の教えは随分と歪んでいるようですこと」


 シルヴィアは冷たい口調で言い放つ。

 その言葉を聞いた大神官の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。


「う、嘘だ……。私は神の声に従って……」


 うわ言のように呟く大神官に、シルヴィアはさらに追い打ちをかけるように続けた。


「神の声が聞こえるのであれば、どうしてわたくしを拷問にかけようとしたのですか?」


「そ、それは……」


 口ごもる大神官に構わず、さらに続ける。


「最初は、指を潰されそうになりましたわ。でも、器具のほうが壊れましたのよ」


「そ、そんな……」


 シルヴィアの言葉に大神官は言葉を失った。

 だが、気にすることなくシルヴィアは続ける。


「次は火かき棒を振り下ろされましたわ。でも、わたくしには当たらずに折れてしまいましたの」


 大神官の顔が青ざめる。彼はもはや、立っているのもやっとだった。


「それから鞭で打たれそうになりましたわ。でも、やっぱり当たりませんでしたの」


 シルヴィアは淡々と語る。大神官はその場に崩れ落ち、呆然と地面を見つめていた。

 そんな大神官を見下ろしながら、シルヴィアはさらに続ける。


「結局、どれもわたくしには傷一つつけられませんでしたわ。そして、最後には拷問しようとした方が、倒れてきた器具の下敷きになってしまいましたの」


 シルヴィアの言葉を聞く大神官の表情は、恐怖に歪んでいく。


「嘘……だ……。そんなはずはない……! ど、どうせ、あいつが怖気づいただけだろう!? そうだ! そうに違いない!」


 大神官は必死の形相で叫んだ。


「いいえ! 私はこの目で見ました! 聖女さまのおっしゃったことは、全て本当です! 聖女さまは神の加護により、守られていらっしゃるのです!」


 そこに、シルヴィアの後ろからついてきた大男が声を張り上げる。

 大神官は驚愕に目を見開き、大男を見つめる。そしてわなわなと唇を震わせながら、シルヴィアに目を向けた。


「あ……ああ……そんな……」


 大神官の目には恐怖の色が浮かんでいた。しかし、それはすぐに憎悪へと変わる。


「違う! お前こそが魔女、悪魔なのだ!」


 そう叫ぶなり、大神官は祭壇に向かって駆け出す。そして、そこに祀られた神像に向かって手を伸ばした。


「神よ! 我が祈りを聞き届けたまえ!」


 大神官の手が神像に触れ、眩い光を放つ。

 その途端、神像が激しく揺れたかと思うと、粉々に砕け散ってしまった。

 そして、その中から大きな赤い石が現れる。禍々しい光を放つ、宝石のようなものだ。


「まさか……あれは……!」


 シルヴィアは驚きに目を見開く。

 それは間違いなく、人の魂を核にして作られるという、呪石だった。

 以前シルヴィアが見たものよりも、遥かに大きい。


 呪石は周囲の魔力や生命力を吸い取り、自分のものにできるという。それも、大きさによって力が強くなるらしい。

 それならば、あの呪石はどれほどの力を持っているのだろうか。

 シルヴィアは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆9/27発売◆
『無能と蔑まれた令嬢は婚約破棄され、辺境の聖女と呼ばれる~傲慢な婚約者を捨て、護衛騎士と幸せになります~』
無能令嬢は辺境の聖女と呼ばれる1
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ