第六十八話 一騎打ち
一方のグランドパレス軍はコルギスで休息を取っていた。兵を休ませるためでもあったが、他にも理由がある。
「ふうー……」
「御加減はいかがですか? クーガー様」
クーガーを側らでフェジーナが気づかっている。
「良いとは言えんがそうも言っておれんだろう」
「しかし無理をすればお体に障ります。ここで十分休んでから行軍しましょう」
「なに、わしも年を取ったのだ。休めばどうこうという問題でもなかろう」
「……」
「医者は何と言っておった?お前は大したことはないと言っておったが、そうではなかろう?自分の体のことは分かるものじゃ」
「……よくもって一年と医者は申しておりました」
フェジーナが沈んだ表情でそう言ったが、クーガーはそれを聞いて逆に生気を取り戻したように立ち上がった。
「ほう。まだわしは一年も、もつのか。それを聞いて体が言うことをきくようになった気がする」
「無理をなさればお命は縮まるとも言っておりました。今回の遠征はやめておかれた方が良かったのでは?」
「いや、よいのだフェジーナ。わしが果てればカルザスが跡を継ぐことになるだろうが、オストガルドをそのままにしておいてはカルザスの器量では危ういであろう」
「……」
「だが、この戦で大勝を収めることができれば、国力でまだ勝っておる我が国があればカルザスでも統治することはできるはずじゃ」
「陛下……」
「わしも人の親なのだろう。こうなると馬鹿息子でもカルザスのことが気になってな」
「分かりました。陛下がそこまでの心づもりでいらっしゃるのなら、私も全力を尽くします」
「そうか。頼むぞフェジーナ」
「はっ!」
「ウィンダムも頼む」
「最善を尽くします」
それまで黙ってクーガーの様子を見ていたウィンダムもそう答えた。
「よし! 明日には全軍コルギスを出るぞ! カルザスの軍にもそう伝えよ!」
「はっ! 心得ました!」
時が少し経ち、オストガルド・トリネアス連合軍と、グランドパレス軍はコルギスのやや南方の平野で対峙した。
「第一軍突撃!」
「第一軍突撃!」
双方の軍がともに、突撃を開始させたことで戦いは火蓋が切られた。連合軍の先陣はキルスとラグフェルトの部隊、グランドパレス軍の先陣はカルザスとウィンダムの部隊だった。
「パワー・レベル4!」
クーガーが掲げた手から、赤色の力強い光が発せられ、それがグランドパレス軍の先陣を包んだ。部隊の士気と攻撃力が上がった。
「ディフレクション・レベル4!」
「ディフレクション・レベル1!」
連合軍の先陣の後方にいたアベルと魔兵から青色の光が発せられ、それが連合軍の先陣を包んだ。部隊の防御力が増す。
「うおおおおっ!」
「たりゃあああっ!」
連合軍では、キルスとラグフェルト、グランドパレス軍ではカルザスとウィンダムがそれぞれ気合声を前線で出しぶつかりあった。
最初互角だったが、徐々に連合軍側が押してきた。その様子を見ていたクーガーの部隊が後方で動き出した。
「こちらが押し気味だが……」
「クーガーが来るとまずいですなあ」
クーガーが動き出したのを見て、連合軍の第二軍も動きだした。二軍はラークとウオルフの部隊だった。
「パワー・レベル3!」
「パワー・レベル1!」
第二軍の後ろにいたシェラと魔兵から赤色の力強い光が発し、それが第二軍を覆った。その光に覆われたラークとウオルフの部隊は士気と攻撃力が上がった。
「ディフレクション・レベル4!」
「ディフレクション・レベル1!」
また、クーガーの部隊の後方にいたフェジーナと魔兵から、青色の光が発せられた。その光はクーガーの部隊を包み、防御力を増させる。
「ひるむな! 押していけ!」
「ここが踏ん張り所だ! 皆!」
戦闘は広い平野を十分に使った混戦になった。互角の戦いだ。ただ、連合軍側にはまだ指揮官の余裕がある。
「第三軍突撃!」
三軍として残っていたカイトとサリアの部隊が突撃し、前線に加わった。その結果、若干、連合軍側が優勢になってきた。
「アイシングサーモ・レベル4!」
「アイシングサーモ・レベル1!」
魔道兵の内、軽装歩兵隊を突撃させていたサリアは魔兵と共に集中を開始していた。集中が終わり、サリアと魔兵の手から氷塊が発生し、それらが高速でグランドパレス軍に飛んで行く。
「ホットサーモ・レベル4!」
「ホットサーモ・レベル1!」
サリアが集中しているのを勘付いていたフェジーナは素早く自身と魔兵に集中させ、爆炎をサリア達が放った氷塊にぶつけた。氷塊はほぼ相殺された。
「軽装歩兵隊突撃! 陛下を援護しろ!」
フェジーナが自部隊の軽装歩兵隊を繰り出し、また戦況は五分になった。
「流石にフェジーナ君だな……。やっぱり切り札を切るしかないか」
最後方で戦況を見ていたホークはククに乗り、空に上がる。そして、グランドパレス軍全体が狙える高度にまで上がった所で集中を開始した。
「ホットサーモ・レベル4!」
ホークが両手に持ったワンドから爆炎が発生し、その爆炎が放射状に無数にグランドパレス軍へ高速で落下して行く。
「わあああっ!」
フェジーナも爆炎を相殺することができず、グランドパレス軍に大きな被害が出た。
「敵は軍師殿の魔法でひるんだぞ! どんどん押していけ!」
最前線にいる、キルスとラグフェルトの部隊を中心にひるんだグランドパレス軍に連合軍は攻撃を加えていく。連合軍側が優勢なのは明らかになった。
連合軍は切り込んで行き、クーガーがいる所の直前までせまった。
それを見ていたクーガーは突然大きな声で、連合軍側に呼びかけた。
「敵軍に告ぐ! このクーガーの命が欲しいか!」
突然のクーガーの大声に連合軍もグランドパレス軍も驚き、立ち止まった。
「わしはこれ以上の兵の犠牲を出すのは本意ではない! わしとの一騎打ちで決着をつけようではないか!」
近くで戦っていたウィンダムも暫く立ち止まっていたが、クーガーに駆け寄った。
「陛下、何も陛下自らが一騎打ちをなさることは……」
「よいのだ。どの道、敵にここまで切り込まれておる。戦としては負けだ。その負けがわしの一騎打ちで払えるのなら安いものだ」
クーガーにそう言われて、ウィンダムも下がるしかなかった。
「どうした! 我がという者はおらんのか!」
クーガーが大声でそう言うのに、連合軍はまだ立ち止まっていたが、キルスが進み出る。
「では私が……」
「待って下さい! キルスさん!」
一騎打ちを受けようとしたキルスを止めた声が後ろにあった。ホークだ。
「軍師殿! いや、しかしあなたは……」
「ここだけは、僕にやらせて下さい。お願いします」
ホークの真剣な目に押されて、キルスは下がった。
「直接、話すのは久しぶりですね。クーガー王」
「ふふふ。お前が子供の頃以来だな、ホーク」
「あなたとは戦ってばかりいましたが、今でもあなたの人間性は憎めないでいます。しかしクーガー王、あなたがいる限り我が国とグランドパレスは戦争を続けるでしょう。それに終止符を打つためにあなたを討ちます」
「元々お前は頭が良かったが、立派になったな。よかろう。相手になろう」
「昔から因縁がある僕が相手ならあなたも負けても納得がいくでしょう。勝負です」
そう言うとホークは集中を始めた。一気に決めるつもりのようだった。
「お前の魔法をくらったら、わしも一たまりもない。悪いがこれを使わせてもらおう」
クーガーはそう言うと小さな袋から、一つ色々な光を放つ小さな石のようなものを取り出した。
「陛下! それを使われては!」
「よいのだフェジーナ」
クーガーはそれを飲んだ。
「ホットサーモ・レベル4!」
ホークの両手に握られたワンドから巨大な爆炎が発生し、それが高速でクーガーに向かって飛んで行った。
爆炎はクーガーに直撃した。が…クーガーは無傷だった。
「どういうことだ?」
「ふふふ。ホークよ。わしがさっき用いたのは魔玉というものでな。それを飲むと、魔力と体力が飛躍的に上がり、ほとんどの魔法攻撃を受けつけなくなるのだ」
「そうですか……。勝ち目があるかなあ、それじゃ」
「お前に子供の頃話した、我が国に貢献してくれた者に与えるある物とは魔玉のことだ。もっとも、普段は守護石として使うのだがな」
クーガーは自身が持つ剣を構える。
「では今度はこちらから行くか」
クーガーは離れていたホークとの間合いを一気に詰めた。そのスピードは人のものとは思えなかった。
「はっ!」
気合声と共にクーガーはホークに剣を振りかざした。ホークは竜神のワンドでかろうじで受けたが、その力に吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
「おおおおっ!」
すぐにクーガーは間合いを詰め、二撃目を加えた。もの凄い刃風だったが、ホークは何とかかわした。
(どっちにしろこのままじゃまずい、でもあれを使えれば……)
ホークはそう考え竜神のワンドを見る。
「さあ! どうするどうする! ホークよ!」
クーガーはゆっくり剣を構え直した。その間にホークは間合いを取り、集中を始めた。
「ホットサーモ・レベル2!」
ホークは気力を振り絞って、魔法を使った。発せられた火炎はクーガーの目の前で炎の壁となり、少しの間、クーガーの前方の視界を遮った。
「無駄だ! 効かんぞ!」
クーガーは意に介さず、炎の壁をそのまま進んだ。クーガーが炎の壁を通ると、左横でホークが待ち構えていた。
「はあはあ……。待ってましたよ……」
ホークは竜神のワンドをクーガーに突き出し念じた。ワンドの先から神々しい光が発せられクーガーを包む。
「ぐっ! 何だこれは!」
イレイサーの魔法に包まれたクーガーは全ての力を失い、その場に倒れた。
ホークも膝をついている。




