第六十七話 勝算はあるか
ホークが帰って来てから暫くは何事もなく時が過ぎた。
ホーク達は二十五歳になった。
「ホーク先生」
「はいはい。でも先生じゃないよ。ホークさんでいいんだよ」
「ここの問題を教えて下さい」
「これはね、まず掛け算を先にしてやるんだ」
ホークはリゾレッタ教会で後輩にあたる子供達に勉強を教えている。最近では珍しいことだった。
「今日は、わしとシージャの他にホークもおるからの。皆、分からないことがあったらいっぱい質問して帰りなさい」
「はい!」
リジャ神父がそう言うと子供達から元気のいい返事が返ってきた。
ホークは昼休みの時間になるまでリジャ神父とシージャを手伝った。
「助かったよホーク」
「いや、シージャやリジャ先生にはいつも負傷兵を診てもらっているからね。僕に出来ることといったら授業の手伝いくらいしかないし……」
「何言ってるんだ。勉強を教えられる人なんかリゾレッタにそうはいないぞ。出来るんなら、毎日手伝って欲しいくらいだよ」
「そうだな……。士官になってなかったら、百姓をしながらここで毎日手伝いをしていたかも知れないな」
「平和にすることが出来たら、そうするのもいいんじゃないのか?」
シージャがそう言ったのに、ホークは笑って答える。
「それもいいな。考えとくよ」
ホークは教会で昼食を馳走になり、城に戻って行った。
城に戻る途中、ホークを呼びに来た兵と出会った。
「ホーク様! 探しておりました。至急城にお戻り下さい」
「ええ、城に戻っている途中です。何かありましたか?」
「グランドパレス軍が動き始めたようです」
「そうですか……。分かりました。急ぎます」
ホークは走って、城に急いだ。
城に戻り、執務室に向かうと既にカイトを中心とした指揮官が勢ぞろいしている。
「戻ったよ」
ホークはカイトに帰城の挨拶をした。
「戻って来たな。伝令から聞いたか?」
「ああ、本国にも伝令は?」
「もう出している」
「それならよかった」
ホークはそう言うと席に着いた。
「今度は大兵力だ。六万が来るらしい」
「あっちは六万を出したとしても、本国にそれと同程度の兵力を残す余裕があるからな。戦場で動かせる限界の兵を考えて、六万を編成して来たんだろうが、戦争を続けていたらこちらがしんどくなってくる」
「国力の差か」
「ああ、オストガルドの国力も以前と比べかなり上がって来たが、グランドパレスには浄石の効果がある。中々厳しいよ」
「でも、戦わないわけにはいかないだろう?」
会話を聞いていたアベルが口を開いた。
「その通りだ。だから、今回の戦いで僕は決着をつけたいと思っている」
皆、驚いた。
「お前がそう言うからには、何か公算があるんだろうが、どうするつもりだ」
ラークが訊いてきた。
「クーガーを討つつもりさ」
「できるのか?」
「オストガルドの兵力を結集すれば可能性はあるよ」
「どうやって?」
「まあ、それは全軍が集まってからだよ。何とか勝てるようにはするさ」
そう言うとホークは立ち上がった。
「アベル、シェラ。兵の編成を手伝ってくれるかい」
「分かりました、軍師殿」
「どこまでもついて行くぜ、軍師殿」
「その言い方はやめろよ」
その後、日数が経ち、オストガルド軍は大半がオストガルドのリゾレッタ地方とグランドパレスの国境付近に集まった。今回は既にトリネアスの援軍も来ている。
「ご苦労様です。キルスさん」
「なに、国のためなら何回でも来ます。それにしても軍師殿、大変な目にあいましたな」
「裏切りの嫌疑のことですか? まあ、無事に戻ってこれたのでもう気にはしておりません。嫌疑も晴れましたし」
「ウオルフ王子はともかく、国王も少しどうかなされていたのでしょう。軍師殿が裏切るはずなどないのは分かっているでしょうに……」
「いいんです。フェジーナ君と会ったのは事実ですから」
「そのフェジーナと、クーガーの軍を相手にするんでしょう? 今回も何とかなるの?」
サリアが会話に入ってくる。
「何とかなると言うか、何とかなるようにしますよ。ところで、オストガルドから幾らの兵を連れて来ましたか?」
「四万よ。本国でも少しずつ兵士の数を増やしてきたけど、それでもこの数はほぼすべてね」
「リゾレッタの兵がほぼ一万、トリネアスからの援軍がやはりほぼ一万……。合わせて六万か、兵数では互角、何とかなりそうだな」
「何とかなるというのは勝てるということ?」
「そうですが、今回は大勝を狙っています」
「というと?」
「クーガーを討ちます」
キルスとサリアは驚いた。
「討てる公算があるのですか?」
「戦いが長引けば無理でしょう。短期決戦で、敵陣深くまで入りこむことができれば討てる可能性も出てくるはずです」
「最初から総力戦でいくつもりなの?」
「そうです。兵数が互角なら有能な指揮官が多い我が軍に勝機はあります。兵の端々まで統率が行き届くからです」
「反対に敵はクーガーとフェジーナでもっているようなものですからな。特にクーガーの統率力は絶対です。そのクーガーを討つことが出来ればグランドパレス軍は瓦解するでしょうな」
「はい。僕はクーガーを討ち、グランドパレスと無条件講和を結びたいと思っています。クーガーさえ討てば、敵の戦意は無くなるはずです」
「そう上手くいけばいいがな。軍師さん」
援軍として来ていたウオルフが話しに入ってきた。
「これはウオルフ王子、お疲れ様です」
「一応、嫌疑が晴れてよかったな。首がつながった気分はどうだ?」
「またリゾレッタに戻れて有難いことです」
「ふん! そうか。何にしろ俺はお前を信用していないからな」
「ウオルフ王子!」
キルスがウオルフを咎めようとしたのを、ホークは制した。
「もうここは戦場と同じです。ここに限っては、僕を信用して頂きます。ウオルフ王子のご意志に反してもです」
「……まあいい。俺もオストガルドを失いたくはないからな。ここではお前に従おう。絶対勝てるようにしろよ!」
「分かりました。ご協力感謝します」
その時、派遣していた斥候が戻って来た。
「グランドパレス軍がコルギス付近まで進軍して来たようです!」
「報告有難う御座います」
「はっ!」
斥候は下がって行く。
「僕達も動きましょう。もう少し北で戦うことになるはずです」
「よし、分かった」
カイトはそう言うと軍に移動の命令を下した。
「キュルルルッ」
「よしよし、クク、お前にも今回は働いてもらうからな」




