第六十三話 ファナからの求婚
「ホークは本が好きねえ。子供の頃と変わってないわね」
ファナの部屋に戻るとホークは読書を始めた。女王アリサに頼んで、城の書庫から興味を持った本を借してもらったようだ。
「確かに本が好きなのは変わってないな。それに思った通り、ここの書庫には興味深い本があったしね」
「何を読んでるの?」
ファナはホークが読んでいる本の表紙を見た。(エルフの生態)と書かれていた。
「人間とエルフの違いについて詳しく知りたくてね。魔力が強くて非力なのは分かっているけど、ここに来て腑に落ちない点があったからこの本で調べているんだ」
「どんな所が腑に落ちないの?」
「調べ終わったら答えるよ。まず調べてみる」
それからホークは黙ってその本を読み進めた。
(何かつまんないな)
ファナはそう思っていたが、中庭を見たりして暫く待っていた。
「なるほどな……。そういうことか」
ホークは本を読み終わり、テーブルにそれを置く。
「調べ終わった? ホーク?」
「ああ。腑に落ちたよ」
「何が疑問だったの?」
「じゃあ言うよ。ここに来て思ったんだけど、エルフって女ばっかりだろ? レナールさんは珍しく男だけど、それがなんでなんだろうなと思って調べてたんだ」
「あっ! そっか。それが疑問だったのね」
「それでこの本を読んで解答を探していたんだ。どうも出産時に女が生まれる確率が異常に高いようだね。おおよそ九割はある」
「ええ。そうなのよ。それに、エルフって懐妊期間が長いの。三年くらいかな?男のエルフが少ないのもあって、エルフは中々増えないの」
「それで寿命が長いのにあまりいないんだな。エルフって」
「ドワーフさん達と仲がいいから一緒に生活しているけど、ドワーフはドワーフ同士で結婚して増えるからね」
「なるほどなあ。エルフはエルフでそういう問題があるんだな」
ホークは関心を持ったようだ。
「でね、結婚っていう言葉が出てきたから言うんだけど……」
「なんだい?」
ホークはファナが何を言いたいか分かっていたが、あえて訊いてみた。
「私をお嫁さんにして欲しいの」
そうファナから告白されてホークは暫く黙っていた。その後、口を開いた。
「僕はもう結婚していて、息子もいるんだ」
ホークがそう言ったのを聞いてファナは驚いた様子もなくこう返す。
「レンお姉ちゃん?」
「ああ、そうだよ。四年前に結婚した」
「そうだと思った」
「うん。だからファナと結婚するのは……」
ファナはホークの言葉をさえぎってこう言った。
「レンお姉ちゃんが正室で、私が側室になればいいんじゃない?」
ホークは困った顔になる。
「ファナ……僕を好いてくれているのは嬉しいけど、僕はそんな器用なことはできないよ。嫁さんを二人も持つなんて……」
「慣れればなんとかなるんじゃない?」
「……軽く言うなあ。それにファナと僕とは種族が違うだろ? ファナはエルフだから、長生きすれば千年くらい生きるんだろう? 年を取るのもゆっくりだし、僕は人間だから長生きしても精々百年だよ?」
「私がそうなったら介護してあげるわよ。この間みたいにね?」
「いや……。そういうことじゃなくて、僕がいなくなった後の九百年どうするんだよ? 忘れてくれるんならそれでいいけど」
ホークがそう言ったのにファナは声を大きくして言った。少し怒っているようだ。
「忘れられるわけないじゃない! この十年間だって、ホークのことずっと考えてたんだから! そんなこと言わないでよ!」
「ごめん……。変なこといっちゃったね」
ホークはそうあやまった。
「百年しか一緒にいられなくて、その後、私は九百年生きないといけないとしてもいいの。それでもホークがいいのよ」
そう言うとファナはホークに近寄って、その手を両手で握る。
「十年間待ってたのよ。気持ち分かってくれる?」
ホークは複雑な表情で黙っていた。
「レンお姉ちゃんや子供、メイシャおばさんやラークおじさんが気になるの?」
「それだけじゃないけど……。それが大きいな」
「だったら、エルフィンに皆、呼び寄せて一緒に暮らしましょう? 密使を送れば何とかなると思うわ」
ファナがそう言ったのにホークは驚き、真剣な表情でこう言った。
「オストガルドを完全に捨てろと言うのか?」
「だって、あなたはその国に死にに行けって言われたのと一緒でしょう?」
「そうだけど……。それでも僕はオストガルドを完全には捨てられない」
ファナはため息をついている。
「本当に真面目で律儀ね。ホークらしいわ。じゃあ、その話は置いておいて、ホークは私のこと嫌い?」
「話が飛ぶなあ。好きだけど……」
「ならいいじゃない。私もう待ちたくないの。ずっとあなたが好きだったんだから……」
ファナはホークの肩をそっと抱いた。
「分かったよ……。ファナ……」
ホークもファナを優しく包む。
「レンお姉ちゃんが正室で私が側室。いいんじゃない? それで……」




