第六十二話 敗将の処遇
ホークは気付くと見慣れない部屋のベッドの上にいた。
「良かった……。おはようホーク」
「気付かれたようですね。では私はこれで」
どうやらファナと侍女の二人で看護をしてくれていたようだ。ホークが気付いたのを見て、侍女は部屋を出て行った。
「ファナ? ここは?」
「私の部屋よ」
「僕は捕まったはずだろう? なんでファナの部屋にいるんだ?」
「お母様にお願いしたの。私の部屋であなたの看護をしたいって」
「それはちょっとまずいんじゃないのかなあ」
そう言うとホークは体を起こそうとしたが、力が入らない。
「無理したら駄目よ。イレイサーを直撃させたんだから」
「うん……。全然体が言うことを聞かない。ファナもファナのお母さんも凄いな。手も足も出なかったよ」
「もうそのことはいいからゆっくり休んでね……」
ファナはそう言うとホークに布団をかけ直し、ホークは言われるままにまた眠りに就いた。
ファナは優しくホークを見守っている。その姿は幸せそうだった。
数日経った。
ホークは普通に歩けるようになるまで回復した。
「ホーク! こっちに来て!」
ファナは中庭の方からホークを呼んだ。ファナの部屋からは中庭に直接出入り出来るようになっている。
「ちょっと待っててよ」
ホークは座ってファナの部屋にあった本を読んでいたが、中庭に出た。
「部屋の中から見るのと違うでしょ?」
「うん。綺麗ないい中庭だね」
「でしょ? 私、ここで日向ぼっこするのが大好きなんだ~」
中庭にはさんさんと太陽の光が降り注いでいる。柔らかい暖かさだった。
暫く、二人は日向ぼっこをしていたが、ホークは表情に影があり、ファナはそれに気付いた。
「どうしたの? ホーク?」
「いや……。僕は敗軍の将だろ?だから捕らえられたからには何かの処罰を受けなければならないはずなのに、ファナと一緒にいるのが変な感じがしてね……」
それを聞いて、ファナは笑って答えた。
「ホークは昔と真面目さが変わってないわね。ホークらしいわ。大分回復してきたみたいだし、お母様から呼び出されるでしょうけど、処罰のことは気にすることないわよ」
「でも……。それじゃなんか変じゃないか? それに、ファナの部屋にいつまでも僕がいるのは良くないよ」
「それって、私のこと意識してくれてるの?」
「そりゃそうだよ。僕は二十四で、ファナは十八だろ?」
「ふふっ。何か嬉しいな~」
「いや……。嬉しいなじゃなくて……」
「いいから日向ぼっこしましょ」
「……」
ホークはそれ以上は何も言わず、日差しが弱くなるまでその日はファナと一緒に中庭で日向ぼっこをしていた。
翌日、女王アリサに呼ばれた。
「私も一緒に行くわね。心配しなくても大丈夫よ、ホーク」
ファナも一緒について来た。
玉間に通されると、アリサと側近の他に、レナールがいる。
(ホークさんか……。懐かしいな)
(懐かしい……。レナールさんか)
お互いそう思ったが、言葉には出さず、会釈をしただけだった。
「体調が回復してきたようですね、なによりです」
アリサがそう話し掛けてきた。優しい表情と口調だった。
「有難いことですが、僕はエルフィンを攻めに来た責任者です。その僕になぜこのような手厚い看護をしてくれたのかとそればかり考えていました」
「そのことです。私もあなたに訊こうと思っていました。ホークさん。あなたはなぜ千程度の寡兵でエルフィンを攻めようと思ったのですか? あなたは戦の駆け引きに長じていると聞いています。私達に勝てないのは目に見えていたはずです」
ホークはそう訊かれて、ため息をついて答えた。
「僕にはグランドパレスのフェジーナに会ったことにより、裏切りの嫌疑がかけられています。その嫌疑を晴らすためには、貴国エルフィンにグランドパレスとの戦争に参加して頂くように交渉するか、もしくは貴国を攻め取るかという、二つに一つの命令を実行せよとオストガルドの第一王子ウオルフから言われておりました」
「それは……。どちらも無茶な命令ですね」
「はい。もし、貴国に戦争への参加を申し込んだとしても断られることは目に見えています。ましてや、貴国を本気で攻め取ることは暴挙です。ですから、寡兵で形だけ攻め、リゾレッタの指揮官達が僕に協力していないことをウオルフにアピールしておいて、僕だけエルフィンに捕らえられるか、戦場で討たれるかして犠牲になろうと考えました」
「なるほど……。ファナがよくあなたのことを話していましたが、その通り周りを思いやる気持ちが強い人ですね。しかし一つ戦場で気になったことがあります」
「何でしょうか?」
「あなたは二回、戦場で火炎魔法を使いましたね? 戦う意志が薄かったのなら魔法を使う必要はなかったのでは?」
そう訊かれて、ホークは少し笑って答えた。
「その通りです。ですが、貴軍に成長したファナがいるはずと思い、その力を試したかったので魔法を使ってしまいました。その結果が今の状態です」
「力ではホークに敵いっこないけど、魔力なら私には勝てないと思うよホーク?」
ファナがやや得意そうにそう言う。
「その通りだよ。ファナ」
ホークは素直にファナの言ったことを認めた。
その後、アリサが暫く黙って考えていたようだったので、玉間に沈黙が続いた。沈黙を破って、話し出したのはアリサだった。
「よく分かりました。そういう経緯があるのなら敵軍の将のあなたを処罰しないことにします」
「よいのですか? 有難う御座います」
「ただし……これからは、我が国の士官として働いて頂きます。それが処罰の代わりです」
「……オストガルドには戻れないと考えた方がいいのですか?」
「それは難しいと思っていて下さい」
「……そうですか。分かりました。これからお世話になります」
「宜しくお願いします。期待していますよホーク」
ホークは深く一礼する。
「まだあなたの体調は完全ではないでしょう。回復するまではファナに看護してもらって下さい」
ホークはちょっと困った顔になった。
「種族が違うとはいえ、年頃の男が姫君の部屋にいるのはまずいのでは?」
「ふふふっ。そこは察してあげて下さい。ファナはあなたが好きなんです」
「お母様! 言わないで下さい!」
ファナは顔を赤らめたが、ホークは複雑な顔をしていた。




