第六十一話 十年目の再会
「本当について来るのか? お前ら?」
「当たり前だろう? 俺たちはお前の直属の部下なんだ。天国だろうが地獄だろうがついて行くさ」
「そうだ。ケルトの言う通りだ」
ホークは千の兵を連れて、エルフィンへの森を行軍していた。その兵の中にはケルトとゾルカスもいる。ホークはあえて二人を編成から外していたが、ケルトとゾルカスはついて行くと言って頑としてきかなかった。
「仕方がない……。好きにしろ」
「そうさせてもらうぞお」
ゾルカスはのっしのっしと歩きながら返事をした。
行軍を続けていると、ホーク達は懐かしい場所に出た。
「ここは……。ベルガとかいう魔物に襲われた後に、ファナと別れた所だな」
「そうだな。あの時のホークは厳しかったな。ファナを諭していたよな」
そこは昔、ファナが涙を落とした所を中心として、色々な花が咲いている花畑になっていた。
「綺麗な花だな……」
ホークはそうつぶやいた、それ以上は何も言わなかった。
「……」
ケルトとゾルカスも黙っていたが皆、それぞれが何を考えているかは分かっている。
(ファナと戦うことになるのか……)
この一点だった。
「よし、行こう」
ホークはそう言うと花畑を後にし、行軍を再び始めた。
暫くは順調に行軍できたが、森が深くなるにつれ、進軍速度が鈍ってきた。
「これはどうにもならないな。飛ばしていた斥候は大丈夫だろうか?」
ホークはそう言った後、森の深さに足を取られながら行軍を続けた。そうする内に斥候が帰って来た。
「申し上げます!」
「ご苦労様です。どうでしたか?」
「既に我が軍の動きは察知されているようで、この先のやや開けた地域にエルフィン軍が展開しております!」
「そうですか……知らない間にあちら側の斥候に見られていたんですね。敵の数は分かりますか?」
「はい! 一万強はいると思われます!」
「分かりました。有難うございます」
斥候は一礼して下がった。
「どうするケルト、ゾルカス?引き返すなら今しかないぞ?」
「ホークが引き返さないなら俺たちも行くさ」
「そうだ、そうだ」
「仕方がないな。じゃあ敵を拝んでみるぞ」
ホークは森を抜ける一歩手前まで進軍させ、そこから敵をうかがった。敵はドワーフとエルフの混成部隊だ。ドワーフが重い武器を持ち前列で待機しており、エルフは後列にいた。
(どうせ負けるんだが戦ったという形だけは作って負けないとな)
ホークは敵の陣容を見てそう思った。
「僕と魔兵で魔法をまず使ってみる。ケルトやゾルカスの出番はその後だ」
「魔法は切り札じゃないのか?」
「……恐らく、敵の中にはファナがいるはずだ。そうするとはっきり言って手も足も出ない。ファナがいなければ戦の形にはなるだろう。それを確認するために魔法を使うんだ」
「ファナがいるといないとでそんなに違うのか?」
「うん。ベルガと戦った時、ファナが不思議な魔法を使ったのを覚えているか?」
ケルトとゾルカスはホークにそう問いかけられてきょとんとした。
「覚えていないって顔だな。その魔法を使えるファナがいたら、僕にはお手上げということだ」
そう言うとホークは魔兵に集中の命令を出し、自身も魔法を唱えるための集中を始めた。
「ホットサーモ・レベル4!」
「ホットサーモ・レベル1!」
ホークが持つ二つのワンドからの爆炎と、魔兵が発した炎が合わさり、高速でエルフィン軍へ飛んで行った。
「マジックウオール・レベル4!」
エルフィン軍を率いて来た、女王アリサが爆炎が近付いて来るのを見て素早く魔法を唱え、自軍の前に輝く壁を作り出した。その壁に向かって飛んで行った爆炎は壁に当たるとともに、消え去った。
「……なるほどな。ファナの魔法じゃなかったけど、どっちにしろどうにもならないな」
「どうにもなろうがなるまいが、ホークは退く気がないんだろ? じゃあ、お前を守りながら戦うまでさ」
ケルトはそう言うとエルフィン軍に突撃して行った。ゾルカスも後に続き、他の兵士達も皆それに従う。
「ケルト! ゾルカス! 待て! 仕方がない……」
ホークは駄目で元々で、もう一度集中を始めた。
「ホットサーモ・レベル4!」
「ホットサーモ・レベル1!」
爆炎が再びエルフィン軍に高速で飛んで行く。しかし……
「イレイサー・レベル4!」
ファナが魔法を素早く唱えた。すると神々しい光がファナの体から発せられ、それが爆炎をすべて消し去った。その光はホークにも向かって来る。
「くっ……」
光をまともに受けたホークはその場に倒れた。魔力をすべて失い、力を無くしたようだった。
「ホーク! 大丈夫か!」
戦っていたケルトとゾルカスが戻って来た。
「大丈夫じゃないな……」
「総大将のお前がそれじゃあどうしようもないなあ」
ゾルカスはそう言うとホークを担いで退却しようとした。
「降ろしてくれゾルカス……。僕はいいから、お前達は他の兵士をまとめて退却してくれ……」
「そういうわけにもいかないだろう。大将を見捨てて逃げれるか?」
「頼むから言うことを聞いてくれ……。敵は恐らく僕を捕らえれば後の兵士には用はないはずだ……。一兵でも多く、リゾレッタに帰したいんだ……」
ケルトとゾルカスは顔を見合わせていたが、ホークの指示に従うことにした。ゾルカスはホークを降ろし、木に楽な姿勢ですがらせるように座らせている。
「死ぬんじゃないぞおホーク」
「有難う……ゾルカス……」
「全軍退却!」
ゾルカスのよく通る大声で、リゾレッタ軍は退却を始めた。退却を始めるとエルフィン軍の攻撃は緩やかになった。
(やはり兵を全滅させる目的はないようだな。良かった……)
ホークは木陰で休みながらそう思い、安心している。
リゾレッタ軍が退却し始めてしばらくして、エルフィン軍のあるドワーフがホークを発見した。
「あんたは人間だな? オストガルドの兵だな?」
「そうです……。この軍の総司令官です……」
「何! あんたがそうか……。悪いが女王様の所まで来てもらうぞ」
ドワーフは他の兵を呼びホークを拘束して、女王アリサの所まで連行した。
「あなたが、総司令官ですね?」
アリサがそうホークに訊いてきた表情は穏やかだったが、厳しさもあった。
「そうです……」
「あの魔法をまともに受けたのなら質問に答える力も今はないでしょう。なので一つだけ訊きます。名前を教えて下さい」
「ホークです……」
「やはりあなたがそうでしたか……。ファナ、ここに来て下さい」
アリサがファナを呼ぶとすぐにファナは現れた。
「拘束を解いて下さい」
ファナがそう言うとドワーフ達はホークを自由にした。
「ファナ……」
そう言うとホークは意識を失った。そのホークをファナは優しく抱き支えている。
「やっと会えたね……ホーク」
十年目の再会だった。




