第五十九話 ホークへの嫌疑
リゾレッタ地方での防衛戦から時が経ち、ホーク達は二十四歳になった。
ある日、オストガルド本国の玉間ではウオルフが国王と話していた。
「まさか……。ホークに限ってそういうことはないだろう」
「しかし父上、あいつは俺やバリルに喰ってかかることがたびたびあります。オストガルド王家に対する忠誠心は持っていないのかも知れません」
「グランドパレスのフェジーナに会ったことは事実なのだな?」
「はい。俺は怪しいとにらんでいます」
ウオルフがそう言うのに、オストガルド国王も何か考えながら玉間を歩き始めた。
「確かにホークはウオルフとバリルを嫌っているな。一つ本国に呼び寄せて真意を正してみるか」
リゾレッタ地方……
その日のホークは、リジャ神父とシージャと一緒にいた。先の戦で出た負傷兵を懸命に治療している二人をねぎらうためだ。
「リフォーム・レベル2!」
リジャ神父は並んでいる深手の負傷兵に魔法をかけ治療している。
「今回は深手の兵が多いのお。浅手ならすぐ治るんじゃが、深手は魔法をかけても中々治らんからな」
「すみません……。申し訳ないとしか言えません……」
詫びているホークの方を振り返らずに、負傷兵の治療をしながらシージャは言った。
「相変わらず優しいな、お前は。国を守るために傷ついたんだから、皆お前のことを恨んでない、あまり気にするな。カイト達にもそう言われたんじゃないのか?」
「確かにそう言ってくれたが、治療している負傷兵の姿を見ると申し訳なくなってくるよ。何回見ても……」
リジャ神父もホークらしいと思いながら、慰めるようにこう言う。
「ホークよ、ここの負傷兵達もお前の優しさを十分感じておるし、お前の作戦はなるべく犠牲を出さないようにしているのも理解しておる。難しいじゃろうが気に病まないことじゃ」
「そうだぞ。このくらいで済んでいるのはお前のおかげなんだ。なあ皆」
シージャの呼びかけに負傷兵達は一斉に同意した。
「有難う。リジャ先生、シージャ。それに皆」
ホークはそれから暫くそこにいて、リジャ神父達の手伝いをしていたが、途中で伝令の兵が入って来て、ホークに何かを知らせに来た。
「ホーク様、伝令です」
「どうしました?」
「オストガルド本国に出頭せよ、必ず一人で来るようにとのことです」
「本国にですか?」
「はい」
ホークには思い当たる節がない。
「分かりました。すぐに準備をして本国に向かいます」
「はっ! それでは私は下がります」
伝令に来た兵は下がって行った。
「何で今の時期に出頭しないといけないんだろうな?」
シージャがホークに訊いてきたが、ホークにも分からない。
「理由が思い当たらない。まあ、行ってみるよ」
翌日、出立の準備を済ませたホークはオストガルド本国に向かっている。一人で来るようにと言われていたので、供にはケルトもゾルカスもつけなかった。
道中は何事もなく無事に本国に着き、ホークはそのまま城に向かった。
「ホーク・アルバトロスただいま出頭しました」
城の玉間に通されたホークはまず挨拶をした。玉間には、オストガルド国王とウオルフがいる。
「遠路ご苦労だったな」
「いえ、で、何事でしょう?」
「思い当たることがないのか? お前?」
ウオルフがホークに訊いてきた。
「分かりません」
「じゃあ、これを言ったら何か思い出すか。俺にある兵士から報告があった。お前、グランドパレスのフェジーナと会ってたそうじゃないか? どうなんだ?」
それを聞いてホークも流石に驚いた。そういうことかと思った。
「確かに会ったことはあります」
「何! まことのことであったか!」
ホークがそう言ったのを受けて、国王も驚いた。
「素直に認めたな? じゃあ、フェジーナに内応を勧められたのも事実だな?」
ホークは嘘をついても仕方がないと思い、答えた。
「確かに勧められました」
「……」
国王は黙っていた。
「父上。これで明白でしょう。こいつは裏切り者です」
「勧められはしましたが、きっぱり断りました」
「本当かよ?」
「嘘は言いません」
黙っていた国王が口を開いた。
「ホークよ、私はお前を信じたい。しかし、フェジーナと会った事実がある以上、お前を信じることはできぬ」
「……」
今度はホークが黙った。沈黙するしかなかった。
「父上、内応の疑いがある者をこのままにしておくわけにはいかないでしょう。そこで俺に考えがあります」
ウオルフは言葉をそこで切り、ホークの方を向き直して言う。
「お前のいるリゾレッタ地方からはエルフィンが近いな?」
「はい。確かに森を隔てて隣接しています」
「そのエルフィンは、グランドパレスが宣言を破った後、各国にそのことを通達したが、自身は一切、戦争に参加していないな?」
「あの国は戦争を忌み嫌っております」
「それをお前が、戦争に加わらせてみろ。それが出来なければ、攻め取れ。それが出来たら、裏切りがないというのを信じてやる」
「ウオルフ……それはいささか無茶ではないか? それにエルフィンに攻め込めば我が国と敵対関係になるぞ?」
「どの道、エルフィンの協力がなければ、グランドパレスの侵攻を食い止めるのは徐々に苦しくなっていきます。このくらい強引なことをやってもよいと俺は思います。それに、エルフィンを攻めさせることになれば、心が揺れているホークを結果的に取り除くことになるでしょう」
「だが、エルフィンとことを起こしたら、こちらに攻めて来ることになるのではないか?」
「関係は険悪にはなるでしょうが、エルフィンは戦争を嫌う国、我が国を単独の力で積極的に攻めるようなことはないはずです」
「む……」
国王はウオルフに説き伏せられて黙った。
「さあ、どうする? 軍師さん?」
ホークは仕方がないといった表情で首を縦に振った。
「分かりました……。やってみましょう」




