第五十八話 士官でも百姓でも……
「敵は後退を始めたようだぞフェジーナ」
「……二軍と合流するつもりでしょう。厄介ですが、あまり速く追って行くと陣が伸びてしまいます。そこに気をつけて追撃しましょう」
「そうだな。皆の者! 慎重に前進しながら追撃せよ!」
グランドパレス軍は後続と距離を置かずに慎重に追撃を開始した。
ウオルフとアベルの部隊は徐々に後退した。そして、苦戦しながらも第二軍と合流した。
「兄上! よく戦ってくれました!」
カイトがウオルフにそう呼びかけた。
「……お前のために戦っているわけじゃない。国を滅ぼしたくないからだ」
「ええ。それで結構です」
ウオルフとアベルに入れ替わる形で、キルス、カイトを始めとした第二軍が前線に踊り出た。
「パワー・レベル3!」
「パワー・レベル1!」
シェラと魔兵から発した赤色の光が第二軍を覆い包む。その光を受け、戦闘力が増した。
「やりますね敵も。こうなれば……」
フェジーナは集中を始めた。この魔法に全てを賭けるつもりだった。
「ホットサーモ・レベル4!」
「ホットサーモ・レベル1!」
爆炎が高速でオストガルドの第二軍に飛んで行った。
「うおおおっ!」
ラークはその爆炎向かって、魔剣を振りかざし相殺した。だが、幾らかの炎が味方の部隊に落ち、被害が出た。
「フェジーナ!」
「……私の魔力は今現在ほとんど空です。今の魔法で敵も士気が低下したはずです。後の総力戦はお任せします……」
そう言うとフェジーナは膝をついた。肩で息をしており、疲労の色が濃かった。
「よくやってくれた。後はわしらで何とかしよう。全軍突撃!」
クーガーの命令で、グランドパレス軍は一斉に突撃を開始した。
「ふむ。流石にまずいのう」
「なに、まだ息子は切り札を持っています。粘りましょう」
キルスとラークは敵と剣を交えながら会話をしていた。
「やはりやらないと勝てないか……。仕方がない」
その頃、ホークは後方でククと一緒にいた。何かをためらっていたようだが、決心したようだった。
「よし! いくぞクク!」
「キュルルルオ!」
ホークはククの背中に乗り、空に舞上がった。
「このくらいの高さだな……。やるしかないか……」
そうつぶやくとホークは集中を始める。
「ホットサーモ・レベル4!」
両手に持ったワンドから爆炎が放射状に広がり、グランドパレス軍に降りかかった。
「なっ! うあああっ!」
上空から広範囲に広がった爆炎をまともに受け、大きな被害が出た。
「敵はこんな奥の手を用意していたか……」
「ホーク君がやったのでしょう。恐ろしい男です……」
グランドパレス軍の士気は一気に落ちた。
そして、丁度その前後トリネアスのラグフェルトの黒騎士団が援軍として現れた。
「なんとか間に合ったか……。黒騎士団! 全軍突撃せよ!」
黒騎士団の突撃を横から受けたグランドパレス軍は総崩れになった。
「もう勝機はないな……」
「無念です……」
「今は退くことを考えましょう。また私がしんがりをやります」
「すまんな。ウィンダム。ウィンダムの部隊以外撤退を開始せよ!」
クーガーの命令でグランドパレス軍は撤退を始めた。しんがりとしてウィンダムが残っている。
「敵は撤退を始めたぞ! 追撃するんじゃ!」
「主要部隊が撤退するまで防げ!」
キルスを始めとした、オストガルド・トリネアス連合軍は追撃を開始したが、ここでもやはりウィンダムが奮戦し、粘った。その結果、辛くもグランドパレス軍の退却を許した。
「逃がしたか……。クーガーを討っておこうと思ったんじゃが……」
キルスは残念そうにそう言った。
「防衛は成功したので、戦は勝ちです。それに敵はこの辺りの守備兵もかなりの人数を集めて退却させました。そのため国境を押し上げることができました」
同じく前線にいたアベルがキルスにそう言った。十分だということを言いたかったのだろう。
戦は終わった。
「何とか勝てたね。皆、お疲れ様」
戦闘から戻って来た皆をホークはねぎらっている。
「今回の戦は厳しかったな。戦術のタイミング次第では紙一重だったぞ」
ラークがほっとした表情でそう言った。傷は負っていないがかなり疲れているようだった。
「負傷兵もかなり出たしね……申し訳ない……。負傷兵だけじゃなく今回は犠牲を出してしまった……」
ホークはうつむいていた。
「国を守るための戦いなんだから仕方ないさ。犠牲になった兵士も納得しているよ。そんな顔するな」
カイトがホークの肩を叩いた。
「その通りです、軍師殿の作戦がなければ犠牲はこれだけでは済みませんでしたぞ。そう気に病まれることはありません」
「そうですね……」
ホークは気を取り直した。
「それでは、ここで散開しましょう。お疲れ様でした。ラグフェルト様も救援有難う御座いました」
「いやいや。かなり遅れてすまなかった」
「よーし! 各自撤収!」
カイトが大きな声でそう言ったのを受けて、それぞれの部隊が撤収を始めた。
(……勝つには勝ったが面白くねえな)
ウオルフは複雑な心境のようだ。そこへ、一人の兵士が近寄って来た。
「ウオルフ様。ちょっとお耳に入れたいことが……」
リゾレッタに潜ませていた、ウオルフの間諜である。戦場について来ていたようだった。
「おお! お前か! 久しぶりだな!」
「しっ! 声が大きすぎます。実はホーク様のことですが……」
「何、ホークのことで何かあったのか」
「はい。詳しくお話します……」
間諜はフェジーナとホークが会っていたことをウオルフに話した。
数日経ち、ホーク達はリゾレッタに帰って来た。
「今回も無事に帰れたね」
「ああ。母さんとレンちゃんの所に帰ろう」
ホークはラークと一緒に家路を急いだ。
(ホーク…大丈夫かしら……)
レンは洗濯物を取り込みながら、ホークの身を案じていた。
「ママー。ママー」
ファルコンがすそを引っ張りながら、レンを呼んだ。
「なあに? ファルコン?」
「パーパ。ジージ」
「えっ!」
驚いて、レンはファルコンが指差した方を振り返った。確かにそこにはホークとラークがいた。
「ただいま」
「ただいま。変わりなかったかいレンちゃん?」
無事に帰って来た二人を見て、レンは涙がこぼれそうになったがグッとこらえた。
「お帰りなさい。良かった……怪我はなかった?」
「ああ。父さんも僕も五体満足だよ。毎回心配かけるね」
「士官様の嫁だから諦めているけどね。本当に辞めてお百姓さんやったら?お義父さんと一緒に」
ラークはレンが本気でそう言うのに苦笑していた。
「どうするホーク? 百姓になるか?」
「ちょっとまだ無理だね。とりあえず……」
そう言いながら、ホークはファルコンを抱き上げた。
「こいつが安心して暮らせるくらい平和になったら、それもいいかなって思うよ」
澄み渡った空に、ぽつぽつと雲が浮かんでいる。




