第五十七話 第一王子の意地
一日目の戦闘後のオストガルド陣営では、軍議が開かれている。
「強いなクーガーは」
率直な感想をラークが言った。
「あちらの被害の方が今日は多かったはずだけど、まだ兵数ではあちらが有利だよ」
「だが、士気はこちらの方が今は高いだろう」
「今日はこちらの方が優勢なまま引き分けたからね。でも、クーガーの統制ならすぐ士気を回復できるはずだよ」
ホークはそこで、戦場の図面を広げた。
「敵は明日も攻めてくるだろう。こちらは兵数は少ないが、指揮官が多い。敵より、細かい所まで統制が行き届くはずだ」
「それに、そろそろトリネアスからの援軍が到着するだろうからな」
カイトが図面を見ながらそう言った。
「ああ。そろそろ来てもらわないと厳しいな。それまで粘ろう」
そう言った後、ホークは図面を指差した。平野の部分を指している。
「今回は夜襲などを計画する余裕がない。そこは敵も同じだろう。それに伏兵も使えないから、最初から総力戦になる。平野で切った張ったの戦いになるだろう」
一応、そこまで黙ってホークの作戦を聞いていたウオルフが口を挟んだ。
「総力戦になったら、分が悪いんじゃねえか? 何とかなるのかい? 軍師さん?」
「それはウオルフ王子、あなた次第です」
「ほう。どういうことだ?」
「あなたの部隊の兵数はどの位ですか?」
「八千だ」
「八千の兵を遊ばせていたら勝てないということです」
「何だと! この野郎!」
ウオルフは声を荒げて、ホークに近寄って来た、カイトやキルスが割って取り成そうとしたが、ホークは冷静だった。
「ここで負けたら国の一大事です。王子も遊びに来たわけではないんでしょう?」
「当たり前だ! 侮辱する気か!」
「そうではありません。作戦に参加する意志があるかどうかを伺っているのです。王子の八千の手勢が鍵になりますから」
ホークにそう言われて、ウオルフはやや冷静になった。
「気に入らんが、勝てるのならお前の指示に従おう……」
「有難う御座います。王子には今回は先陣になって頂きます。白兵戦に強い兵で、こちらに温存されているのは王子の部隊しかありません」
キルス、ラーク、カイトの部隊はやや疲弊している。
「分かったが……。俺の部隊だけではどうにもならんだろう?」
「はい。なので、こちらもまた温存しておいたアベルの部隊をつけます。第二軍には残りの全軍に入ってもらいます」
「お前も部隊を温存してなかったか?」
ウオルフがそう訊くのに、ホークはうなずいて答えた。
「僕は、こいつと一緒にやることがあります。あまり気が進みませんが……」
そう言って、ホークはククの方を指差した。
「キュルルッ?」
ククは怪訝な表情をしていた。
「どうする気だ?」
「説明します」
ホークは詳しい説明を始めた。
翌朝、双方とも進軍を開始した。オストガルド軍は打ち合わせ通り、ウオルフとアベルが先陣である。
「きちっと戦ってやるが、なんとかなるのか本当に?」
ウオルフはまだそんなことを言っていた。
「あなた次第だとホークも言っていたでしょう? そんなことを言っていたら、兵の士気に影響しますよ?」
「うるさい! ちょっと言ってみただけだ!」
アベルにたしなめられて、ウオルフは煙たがる。
グランドパレス軍はクーガーが先陣だった。兵数は勝っているが、指揮官の疲労が濃かった。特にフェジーナは昨日の戦闘で魔法を使いすぎていた。
「大丈夫かフェジーナ……」
「大丈夫ですが、昨日のようには魔法を使えないと思います……。思ったより魔力が回復していません」
「フェジーナ様の魔法があまりあてにできないとなると厳しくなりますなあ」
「ウィンダム。その分お前の統率力に頼ることになる。頼むぞ」
「はっ! お任せを!」
そうして両軍とも進軍をつづけ、対峙する距離になった。
「敵兵は多いですね。しかし、昨日の疲れが残っているはずです。特に指揮官には」
「軍師さんの言う通り粘ってやろうじゃねえか。こうなったら」
アベルとウオルフは腹をくくったようだった。
「敵の先陣は案外少ないな」
「温存していた兵でしょう。二軍に昨日の兵を控えさせてあるはずです」
「総力で押して行きましょう」
クーガー達も臨戦態勢だ。
「突撃!」
「突撃せよ!」
ウオルフとクーガーの部隊が双方ともに突撃を開始し、戦闘は火蓋を切った。
「パワー・レベル4!」
クーガーの手から発した赤色の光が突撃中の部隊を覆い、士気と戦闘力が増した。
「ディフレクション・レベル3!」
「ディフレクション・レベル1!」
アベルと魔兵の手から青色の光が発し、突撃中のウオルフの部隊を覆った。それにより、防御能力が向上
した。
「ほう。フェジーナと同じ補助魔法を使えるか。それなら大体五分五分だな。だが、兵数では勝っている、皆! どんどん押せ!」
「おう!」
士気がさらに上がったクーガーの兵はウオルフの部隊に攻撃を加えた。ウオルフもよく防戦していたが、流石に押されてきた。
「強い! おいアベルと言ったな! このままじゃ粘れねえぞ! 何とかしろ!」
「やってみます!」
アベルは集中を始めた。
「ライトニング・レベル4!」
「ライトニング・レベル1!」
強烈な電撃がクーガーの部隊に広がり、被害が出た。それと共に、敵はひるんだようだった。
「中々やるな! 前線の兵を入れ替えろ! ウィンダム頼む!」
「はっ!」
ウィンダムは自分の手勢を連れて、被害が出た前線へ向かう。そして素早く兵を入れ替え、自身も戦闘に加わり奮戦した。
「一時ひるんだのはひるんだが、また盛り返して来たぞ!」
「ええ! そろそろ頃合です! 退きながら戦いましょう!」
ウオルフとアベルは乱戦の中、後退を始めた。




