第五十六話 油断無きフェジーナ
「敵さんが来ましたね」
「そうじゃな。あとは敵の出方を待つわけじゃが」
グランドパレス側の森に潜んでいる、キルスとシェラは敵が現れたのを見てそう話している。天気は晴れていた。
「おっ。動き出したようですよキルスさん」
「じゃがゆっくりじゃの」
「こちらを警戒しているんでしょう」
「既に伏兵に勘付いているかも知れんな。それならそれで軍師殿の策があるが……」
キルスとシェラは話しながらタイミングを狙っていた。
「大分近付いて来ましたね。そろそろですかね?」
「そろそろじゃな。ではシェラ君、頼んだ」
「任せて下さい!」
シェラと率いて来た魔兵は集中を始めた。
「ダミー・レベル4!」
「ダミー・レベル1!」
紫色の光と共に千体程の虚像が現れた。
「後は、敵がどう動くかじゃな……」
一方、グランドパレス軍は……
「フェジーナ様! 前方に敵兵が現れました!」
「数は? それと、現れた場所は?」
「千程です! 森の近くに現れました!」
フェジーナは少し考えたが、決断した。
「マーキングをかけるぞ! 広範囲にだ!」
フェジーナと魔兵達は集中を始めた。
「マーキングレッド・レベル4!」
「マーキングレッド・レベル1!」
赤色の光が発せられ、広範囲にマーキングがかかった、その範囲は虚像がいる所だけでなく、森も包んだ。虚像は生体ではないのでマーキングはかからない。
「やっぱりマーキングをかけてきましたね」
「やはり軍師殿が認めるだけあるのう。フェジーナか……。皆! 森から出るぞ!」
キルスとシェラの部隊はマーキングがかかったまま、後退し始めた。
「フェジーナ様! 森から敵が後退を始めました!」
「やはり伏兵を敷いていたか……。後続の陛下とウィンダムの部隊から距離を置かないようにしつつ前進せよ!」
フェジーナの部隊はマーキングがかかったキルスとシェラの部隊を目標にしつつ、再び慎重に前進を始めた。
進軍は慎重だったが、やがてフェジーナはキルスとシェラの部隊に追いついた。
「ディフレクション・レベル3!」
「ディフレクション・レベル1!」
フェジーナと魔兵は補助魔法を自部隊にかけ防御力を増した。
「軽装歩兵隊! 敵部隊を包囲しつつ攻撃に移れ!」
フェジーナの指令で魔道兵の内の軽装歩兵隊はキルスとシェラの部隊を押し包むような動きをしながら、攻撃に移った。
「今だ! 皆! 突撃するぞ!」
オストガルド軍から見て、手前側の森に潜んでいたラークの部隊がここで一斉にフェジーナの部隊へ突撃を開始した。
「フェジーナ様! 伏兵です!」
「くっ! もう一つ潜んでいたか……。皆! 陛下の部隊が来るまで持ちこたえろ!」
フェジーナはキルスとラーク、それにシェラの部隊を相手に奮戦した。しかし、ラークに虚を突かれたこともあり、流石に劣勢になってきた。
「フェジーナ! 大丈夫か!」
なんとか持ちこたえていると、クーガーの部隊が追いついて来た。
「陛下! 今は劣勢ですが、陛下の部隊が加われば盛り返せます!」
「よし! 任せておけ!」
クーガーの兵は二万、その内一万五千を自陣から動かして来た。
「パワー・レベル4!」
クーガーの手から赤色の光が発せられ、その光が自部隊を覆う。その力強い光を受けた兵士達は士気と攻撃力が上がった。
「兵数はこちらの方が多い! 恐れず突撃せよ!」
「おう!」
クーガーの檄でさらに士気を向上させたグランドパレス軍は勢いを盛り返した。
「ちょっとまずいのお」
「クーガーの兵は強いっすね」
シェラはそう言いながら、集中を開始していた。
「パワー・レベル3!」
「パワー・レベル1!」
赤色の光がオストガルド軍を覆い、士気と戦闘力を向上させた。しかし、やや寡勢なこともあり、苦戦は続いている。
キルス達が何とか粘っていると、第二軍として後に続いていたカイトとサリアの部隊が戦闘に加わってきた。
「爺! 珍しくしんどそうじゃないか!」
「なあに、見た目はそう見えますがそうしんどくもありませんな」
キルスは飄々としていた。
「やせ我慢はするなよ! 突撃するぞ!」
カイトは自部隊の騎馬隊三千を突撃させる。その突撃で、混戦になった。
「フェジーナ! 中々手ごわいぞ!」
「賭けに出ます! これが決まれば勝負はつくはずです!」
フェジーナは再び集中を始めた。しかし、かなり疲れが出ているようだった。
「ホットサーモ・レベル4!」
「ホットサーモ・レベル1!」
爆炎がオストガルド軍に向かって高速で飛んで行った。
「ふん!」
その爆炎が生じたのとほぼ同時に、ラークが魔剣を振りかざした。その魔力を帯びた衝撃波により、魔法により生じた爆炎の内、かなりの量が相殺された。ただ、全ては相殺されず、オストガルド軍に被害は出た。
「アイシングサーモ・レベル4!」
「アイシングサーモ・レベル1!」
被害が出て、自軍がひるんだすぐ後、サリアと魔兵が魔法を唱えた。氷塊がグランドパレス軍に高速で飛んで行く!
「わああっ!」
氷塊は直撃し、かなりの被害が出た。
「フェジーナ!」
「はあはあ……申し訳ありません……。私も弾切れです……」
「そうか……。ここからは総力戦になるな」
「兵数ではこちらがまだ勝っていますが、戦意は先ほどの魔法を受けて低下しています。陣に退却しながら戦った方が得策かと」
「うむ。それが賢明だな。今日はここまでか……」
さっきまで混戦の中、戦っていたウィンダムがこう進言した。
「私がしんがりになりましょう。陛下とフェジーナ様は陣にお急ぎ下さい」
「分かった。すまんが頼むぞウィンダム!」
「はっ!」
ウィンダムは前線へ戻って行った。
戦意が上がっていたオストガルド軍はその後も攻撃を続けたが、ウィンダムの奮戦もあり、戦闘の第一日目は引き分けた。




