第五十三話 戦王クーガーとは……
軍議が終わった翌日、グランドパレス軍は敵側が守備している、コルギスの城の手前、第三砦の手前まで進軍していた。
今回も夜襲になる。
(フェジーナなら上手くやるだろうが、暫く待つか……)
クーガーは軍を待機させていた。
暫くして、砦の後方の森から火の手があがった。
「よし! 次はマーキングを自らにかけるぞ!」
火を放ったのはフェジーナの部隊だった。
「マーキングレッド・レベル4!」
「マーキングレッド・レベル1!」
ほぼ同時にフェジーナは自軍にマーキングをかけた。
「後ろの森が燃えているぞ! このままでは砦に燃え移るぞ!」
「なんだ? いきなり敵が現れたぞ!」
砦の中は、火計と突然姿を現したフェジーナの伏兵のため大混乱になった。
「仕上げだ! 砦を焼くぞ!」
フェジーナはそう魔兵に命令すると集中を始めた。
「ホットサーモ・レベル4!」
「ホットサーモ・レベル1!」
フェジーナと魔兵が集中を終え、言葉を発すると爆炎が高速で砦に向かって飛んで行った。
「砦に火の手が!」
「もう持たない! 討って出るぞ!」
砦の中の兵は混乱しながら砦から出てきた。
「フェジーナの作戦通りだ! 突撃するぞ! フェジーナの部隊と挟み撃ちにするのだ!」
クーガーは待機させていた自部隊を突撃させた。
大混乱となったコルギスの兵にはもう防ぐ手段がない。ほとんどの兵が戦意を喪失し、捕虜となった。
「作戦通りだったな。フェジーナ」
「なに。この程度は作戦の内には入りません」
「はははっ。言うではないか。で、最後に残ったコルギス城だがどう攻める?」
「まず全軍で囲みましょう。囲みはしますが攻めはしません」
「どういうことだ?」
クーガーはいぶかしがった。
「暫く兵糧攻めにしましょう。恐らく戦意を喪失してくるはずです。その後、次の手を打ちます」
「では、そのように軍を動かすか」
第三砦を落とし、砦をすべて占拠したクーガーのグランドパレス軍は翌日、コルギスの城下町を通り、コルギス城を取り囲むように陣を敷いた。
コルギス軍は城下町を通るグランドパレス軍を迎撃する余裕も意気もなく、コルギス城に篭城している。
「これでよいのだな? フェジーナ?」
「はい。陣は完璧です。あとは時が経つのを待つだけです」
クーガーとフェジーナが自陣でそういう会話をしていた頃、コルギス城内では……
「国王! コルギス城はグランドパレス軍に完全に取り囲まれております!」
側近が、コルギス国王にそう報告した。国王は、ほとんど諦めの表情でこう答えた。
「砦もすべて落とされ、ウィンダムも捕らえられたようじゃの……。城の糧食はともかく、ここに篭城している兵士は何人おる?」
「およそ、千人です!」
「千か……。クーガーの軍は三万で囲んでおるな。攻めて来ない様子を見ると、こちらの疲弊と戦意喪失を狙っておるのじゃろう」
そう言うとコルギス国王は玉間の覗き窓から様子を見た、そこからは意気消沈した城内にいる自軍の兵士と、やや遠方に陣取っているグランドパレスの大軍が見えた。
「そして、その狙いは当たっておる。我が軍にはもう戦う力はほとんど残っておらん。士気が下がりきっておる」
「何を言われます国王! 私達側近だけでも最後まで戦います!」
側近はコルギス国王にそう言ったが、国王はかぶりを振った。
「お前達数名のみが戦って、幾らかの敵兵を倒したところで何になる?勇敢なお前達の命を散らすだけじゃ。それよりはわしは……」
いったんコルギス国王は言葉を切り、また側近の方を向き直した。
「お前達の命を保障するための降伏を選びたい」
「国王……申し訳ありません……。私達が至らないばかりに……」
側近達は悔し涙を流し始めた。
「泣くでない。至らないのはわしじゃ。この小国ひとつ守れぬのじゃからな」
そうコルギス国王は側近達に言い慰め、言葉を続けた。
「降伏の使者を出そう。白旗を揚げよ」
「はっ! かしこまりました!」
その頃グランドパレス軍側では……
「陛下! フェジーナ様! 敵は白旗を揚げているようです!」
グランドパレス軍の視認係の兵がコルギス城の変化を発見した。
「フェジーナ、こちらが手を打つ前にことが済んだようだぞ?」
「そのようですな。これはコルギス国王の英断でしょう。暫く待てば、降伏申し込みの使者が来るはずです。待ちましょう」
「うむ」
クーガーとフェジーナは陣営で暫く待った。すると、予想通り降伏申し込みの使者が来たことが番兵の報告で分かった。
「丁重にお通しせよ」
「はっ!」
番兵はそう指示され、コルギス城からの使者をクーガー達の前に通す。
「よく参られた。降伏なさるのだな?」
「はい。我が国王は無条件で降伏する所存で御座います」
「分かった。ご英断感謝する」
コルギス城の城門が開き、クーガー率いるグランドパレス軍が城を占拠した。
コルギスはグランドパレスの制圧下になった。
占拠後、捕虜などの戦後処理が始まった。
「コルギス王、貴殿から領地は奪う形になるが、コルギス内での貴殿の安全な生活と十分な俸禄は絶対に補償しよう」
クーガー自らコルギスの主要人物の処遇を決めているようだった。
「わしのことはどうでもよい。兵士達はどうなる?」
クーガーの前で両脇をクーガーの側近の親衛隊に固められているコルギス国王はそう尋ねた。
「この戦で捕らえたこの国の捕虜兵はすべて、今まで通りの待遇で働いてもらう。負傷した兵も手厚く治療し、治療が完全に終わったら同様に働いてもらうつもりだ」
「そうか……。ウィンダムはどうするつもりじゃ?」
「彼はコルギスの忠臣でもあり、名将だ。今後は我が国のために働いてもらいたい」
クーガーがそう言うとウィンダムが、親衛隊に連れられてクーガーの前に出てきた。
「改めて言おう、我が国のために働いてくれぬか? ウィンダム?」
「コルギス王と兵士達を今言った待遇で扱うというのは本当だろうな?」
ウィンダムは問いただした。
「もちろんだ。わしはそうした所で嘘をつくのが大嫌いでな」
「その割には宣言を破ったな」
「黙らぬか! 陛下を侮辱するか!」
親衛隊がクーガーに悪態をついたウィンダムを黙らせようとしたのを、クーガーは手で制した。
「よいのだ。宣言を破ったのは事実だからな。それは申し訳ないと思っている。だが、やったことは元には戻らぬ。全ての国を敵に回した我が国を守るにはもう鬼となり戦い続けるしかないのだ」
「グランドパレスが潰れるか、あんたが世界を征服するのが先か……か。分かった!あんたはあんたで主義があるんだろう。この命をあんたに預けよう」
「そうしてくれるか。有難い」
「分からんな……」
クーガーとウィンダムの会話を聞いていたコルギス国王はそう言い、さらに言葉を続けた。
「クーガー王、お主は噂や自分が言うほど鬼ではない。それがなぜ、戦王と呼ばれているのだ?」
「戦のわしと、平生のわしとでは人が違うのだろう。それだけの話だ」




