第五十二話 フェジーナの真価
コルギス周辺。
グランドパレスとコルギスの国境付近に開けた農村地帯があり、その地域はグローブルと呼ばれていた。そこを中心にクーガー達は軍を展開している。
「さて、フェジーナ。陣を敷いて二日程経った、兵達の移動の疲れもなくなってきている。そろそろ動いてもいい頃ではないか?」
クーガーとフェジーナは陣営で軍議を開いていた。クーガーに問われてフェジーナは暫く沈思し、そして考えがまとまった。
「そうですね、よいでしょう。そろそろ動きましょう。では戦場の見取り図を開きます」
フェジーナは持っていた、派遣しておいた斥候が作った見取り図を卓上に開いた。
「ほう。砦が案外多いな」
「コルギスは小国です。自国から攻めることは考えてはいないはずです。そのため砦を増やし、守備を固めてきたのでしょう」
「単純に考えれば、砦を一つずつ落としながら、城まで攻めて行くことになるな?」
「そうなりますね。ただ、正攻法で行ってはこちらも犠牲が多くなります。いくらか考えて攻めましょう」
フェジーナはそう言うと、図面上の三つの砦の内、コルギスの城から数えて二番目に近い距離にある砦を指差した。グランドパレス側から見たら手前から二番目の砦になる。
「まずここを攻めます」
フェジーナがそう言うのに、クーガーは少し驚いた。
「攻めるのは手前の砦ではないのか?」
「そこも攻めますが、少し私に考えがあります」
そう言うとフェジーナはクーガーに作戦を伝えた。
「クーガーが攻めてくるのか……。コルギスも終わりだな……」
「そうだな……。相手がクーガーじゃな……」
クーガー達が軍議を開いた日の夜……
攻められるのを待っているコルギス側の兵達は、大半が意気消沈していた。
「死にたくねえなあ……」
「全くだ……」
「お前達は仮にもコルギスの兵士だろう?情けないことを言うな!」
その声を聞いて、弱音を吐いていた兵士達はギクっとした。
「ウィンダム様……申し訳ありませんでした!」
「クーガーは宣言を犯したのだ。いくら強大な兵力を持っているといっても、我々はそれに臆して屈するわけにもいかぬだろう? コルギスの兵としての誇りだけは強く持つのだ」
「はっ! 以後気をつけます!」
「うむ。頼むぞ」
ウィンダムはそう言ってその場を去った。彼はコルギスを支えている名将として近隣にも知られている。
(兵達が動揺するのも無理はあるまい……。相手はクーガーだからな……)
ウィンダムも怖気づいた兵士を叱咤したが、内心そう思っていた。
ウィンダムは砦内の自分の寝室に入り、少し休もうとした。丁度床に就こうとした時に番兵が慌しく入って来た。
「申し上げます! 敵兵がこちらに向かっております!」
「何だと! 夜襲か! グランドパレス側の第一砦はどうした!」
「敵は第一砦は無視しているようです! 真っ先にこちらに向かっております!」
「この夜中になぜそれが分かる?」
ウィンダムはそれが腑に落ちなかった。
「敵は自軍にマーキングの魔法をかけているようです。こちらから動きがはっきり分かります」
「自軍にマーキングを?」
ウィンダムは番兵を連れて、寝室を飛び出て様子を見に行った。
「……確かにマーキングをかけた部隊がこちらに向かって来ているな……」
「はい! おおよそ三千強と思われます!」
「第一砦の兵はどうしている?」
「討って出ております!」
(陽動かも知れんが……かと言って無視できる兵数でもない)
ウィンダムはそう考え決断した。
「我々も討って出るぞ!」
「はっ!」
ウィンダムがいる第二砦の門が開きコルギスの兵が雪崩れのように自軍をマーキングしたグランドパレスの軍に向かって行った。コルギス軍はおおよそ五千の兵で、挟み撃ちをする形になった。
「よし! こちらが優勢だ! 勝てるぞ!」
ウィンダムがそう自軍を鼓舞したその時、
「ディフレクション・レベル3!」
「ディフレクション・レベル1!」
戦場の近くの森に伏兵を敷いていたフェジーナがマーキングがかかっている自軍の部隊に補助魔法をかけた。青色の光がその部隊を覆い、兵の堅固さが増した。
「しまった! 伏兵か!」
囮のグランドパレス軍を囲んでいたコルギス軍は虚を突かれただけでなく、背後もとられた形になった。
「軽装歩兵隊! 突撃!」
フェジーナは自軍の部隊をコルギス軍に向かって突撃させた。背後から攻められたコルギス軍はかなりの被害を出した。
「ウィンダム様! こちらが挟み撃ちになったようです!」
「陣形を立て直し、なんとか防ぐんだ!」
ウィンダムはそう命令し、自身も奮戦した。
「……敵も中々やるな。だがこれで」
フェジーナはそう言うと集中を始めた。
「アイシングサーモ・レベル4!」
「アイシングサーモ・レベル1!」
フェジーナの手から大きな氷塊が生じ、魔兵達の手から生じた無数の氷塊と合わさって、高速でコルギス軍に向かって飛んで行った。
「わああっ!」
コルギス軍は被害と共に大混乱になり、その間に後詰で来ていたクーガーも戦闘に加わっている。
「陛下。お疲れ様です」
「うむ。ここでの戦況は大体決まったな」
クーガーはフェジーナにそう言って、自軍に命令を出した。
「全軍、コルギス軍に向かって突撃せよ!」
クーガーの部隊が突撃した時点で、ここでの戦闘は終わった。グランドパレス軍に大きな被害がなく、砦を二つ落とすことができた。
「捕虜は丁重に扱うように。決して暴力は振るうな」
クーガーとフェジーナは捕虜兵を取り込み、戦闘を終了させた。ウィンダムも捕虜となった。
二つの砦を占拠して二日経った。
クーガーとフェジーナはまた軍議を開いている。
「あと、一つ落とせば砦は全部落としたことになるな」
「ええ。この砦を落とせば、コルギスは落ちたも同然でしょう」
「ここまで、我が軍にはほとんど犠牲は出ていない。正攻法で落としてもよいのではないか?」
「いえ。念には念を入れておきましょう。窮鼠猫をかむということもあります」
「ということは策があるということだな?」
「大した策ではありませんが、御座います。今回は火を使います」
フェジーナは作戦をクーガーに説明した。




