第五十一話 動き出すクーガー
オストガルドなどの周辺諸国とグランドパレスの間も暫くの小康状態が保たれた。
そして、ホーク達は二十二歳になっていた。
「よーしよしよし、いい子だねえ」
ホークは赤ん坊を自宅の庭であやしていた。ホークの息子だ。側でレンが微笑みを浮かべて見ている。
「よしよしよーし。いい子いい子」
カイトとシアの夫妻も一緒に自分の息子をあやしていた。シアもレンと同じ時期に懐妊していて、レンと同じ時期に子供を産んでいた。こちらも男の子だ。
「子供っていいな。ホーク」
「ああ。でも育てるのは大変だよな。楽しいと言えば楽しいけど、そればかりじゃないしな」
「大変だな。でも、俺は母上からあまり愛情を受けて育ててもらえなかったからな。だから、シルスには愛情をなるべく注いで、育ててやりたいよ」
カイトがそう言ったのを聞いて、ホークは一瞬黙ってしまった。少し経ってカイトにこう言った。
「お前がそのつもりなら、シルス君もいい子に育つさ。僕もファルコンにはなるべく手をかけて育てよう」
「お前の子なら、賢く育つだろうな。将来が楽しみだよ」
「賢くなろうが賢くならなかろうが、それはどうでもいいさ。ただ、この子達が大きくなる頃までに、少しは平和な世の中にしてやりたいよな」
ホークの言葉にカイトはうなずいた。
「全くだ。俺たちが頑張らないとな」
カイトがそう言って程なく、メイシャが家から出てきた。
「おやつの用意が出来たから、皆入ってちょうだい」
「はーい! ホーク、家に帰ろう?」
「あなた、上がらせてもらいましょう?」
「じゃあ、帰るか」
「よし、上がらせてもらおう」
それぞれの妻が促すのに、ホークとカイトは答えて、ホークの家に入って行った。
「コルギスに侵攻しろと言うのだな? フェジーナ?」
一方、グランドパレスでは軍議が開かれていた。
「はい。トリネアスでの戦いから二年が経ち、兵達の戦意も戻ってきています。侵攻するなら今です」
「ふむ。コルギスはリゾレッタ地域との国境の近くになるな。それを踏まえて侵攻しろと言うのだな?」
「その通りです。我が国と、他国との戦いの図式はもう避けられないことです。そして、我が国に最も脅威になるのはオストガルドになると思われます。そのため、コルギスを攻略することで、オストガルドへの侵攻の足がかりにしたいと考えています」
「馬鹿息子が作ってしまった図式だがな……。まあ、カルザスにもよい薬になったようだ。トリネアスでの戦の責任を取らせる形で謹慎させたが、謹慎後、顔つきが変わってきた」
「反省なさったのでしょう。それに、その戦の責任は私にもあります。救援に行きましたが、いたずらに兵の犠牲を出してしまいました……」
「気にするな。お前が救援に向かわなければ、カルザスの命自体がなかっただろう」
「お気遣い有難う御座います」
「うむ。で、コルギスには幾らの兵で攻め込めばよいと思う?」
フェジーナは頭の中で計算を始め、考えがまとまってから答えた。
「三万でしょう。これ以上でもこれ以下でも適正な数ではなくなります」
「控えめな数だな。わしは五万くらいだと思っていたが」
「五万の軍を展開するには、コルギスは狭すぎます。丁度良く、動かせる兵数は三万だと思われます。」
「なるほどな。よし!それで編成を頼む」
「分かりました。守備はカルザス様にお願いしましょう。まだ、カルザス様は敗戦が尾を引いています。今回の戦には出陣して頂かない方が良いでしょう」
「あれはあれで反省しているからな」
「はい。それで編成ですが、陛下が二万、私が一万の兵を率いて攻め込むことになります。その心づもりでいて下さい」
「うむ。首尾よく頼む」
グランドパレスで、クーガー達が軍議を開いていた二週間後……
リゾレッタではホークとアベルを中心に商業区画の整理を行っていた。丁度その時、何かを知らせるため、ホーク達の所にリゾレッタの城から来た兵士がホーク達の前で片足をひざまずいた。
「ホーク様、アベル様、重要な情報が入りましたので申し上げます」
「ご苦労様です。まあ、まずひざまずくのは止めてください」
ホークはそう言って、目の前の兵士を立ち上がらせた。
「はっ! それでは失礼して……」
兵士は立ち上がった。
「何があったんです?」
ホークは兵士が立ち上がったのを見計らって、訊いた。
「はい。グランドパレス軍が、コルギスに侵攻している模様です。兵数はおおよそ三万と見なされます」
「そうですか……。動きましたか……」
ホークは暫く沈思していたが、報告してくれた兵士にこう言った。
「分かりました。至急、城に戻ってカイトと話をします。報告有難う」
「はっ! では私は先に城に戻ります」
兵士はそう言うと来た道を引き返し、リゾレッタの城に戻って行った。
「アベル。君も一緒に来てくれ」
「ああ、分かった。一大事だね」
ホーク達二人は城に戻り執務室に向かった。そこにはカイトとシェラ、それにラークが既にいる。
「急いで戻って来たよ」
「ああ、ホーク。グランドパレスがとうとう動き始めたな。本国にも伝令は飛ばしたよ」
「そうか、でも本国は今回は動けないだろうな。時間も余裕もない」
「なぜこの時に軍を動かしてきたんだろうな?」
「元々、強大な国だがグランドパレスの国力はさらに上がってきている。トリネアスでの戦いの傷が癒えたのを見計らって、軍を動かし始めたんだろう」
「こちらの傷も癒えてきた頃だし、ホークの推察通りなんだろうな。そして、今回はクーガー自らが軍を動かしているそうだ」
「とうとうクーガー自身がか……」
ラークが会話に加わってきた。
「ホーク、お前はコルギスに救援を出す気か?」
ホークはかぶりを振った。
「父さん、今回オストガルドから救援を出せるのはリゾレッタだけだよ。この兵力だけで救援に行くのは、全滅しに行くようなものさ。相手は大兵力を率いているクーガーだからね」
「ああ、そうだな。なに、分かっていたことだがちょっとお前の心づもりを訊いてみたんだ。まさか救援には行かんだろうとは思っていたが、それを聞いて安心したよ」
「うん。皆、今回は僕達はクーガーの軍を静観するしかない。クーガーもコルギスを攻めるのに、幾らかの犠牲を出すから、連戦でリゾレッタを攻めに来ることはないはずだ。警戒だけは怠らずに、各自の仕事をしておこう」
「うん。コルギスの人達には悪いが、今の状況じゃどうしようもできないからな……」
カイトは自国の力のなさを悔やむようにそう言った。その肩をホークは軽く叩いた。
「お前のせいじゃないさ。この状況なら、百人が百人静観するはずさ。気にするな」
そう言った、ホークも顔に出すまいとしていたが、悔しさは隠せない。




