第四十九話 意外すぎる客
半月程経った。
ホークは内政の計画を執務室で立てていた。内政全書も勿論活用している。
「リゾレッタもシクロスも大分、発展してきたがまだまだ豊かに住みやすくできるな」
ホークが独り言を言いつつ計画を練っている所に、城の番兵が何かを報告するために入って来た。
「失礼します。ホーク様にお会いしたいという方がお見えになられております」
ホークは仕事の手を止めた。
「僕に? カイトにじゃなくてかい?」
カイトは今日は巡察に出ていた。
「はい。ホーク様にです」
「それが誰だか分かるかい?」
「いえ。会えば分かるとだけおっしゃっています」
ホークは首をかしげた。
「どうも見当がつかないな。とにかく行ってみよう」
そう言うとホークは来客が待っている城門まで行ってみることにした。
城門まで来てみると確かに客が来ていた。護衛を二人ほど連れている。いくらか身分がある客のようだった。
その客は帽子を深くかぶっていたため、ホークにも一目見ただけでは誰だか分からなかった。
「あなたが僕に面会を求めている方ですね? 失礼ですがどなたですか? 顔を見せて頂きたいのですが」
ホークがそう言うと、客は深くかぶっていた帽子を脱いだ。
「あっ!君は……」
「直接会うのは久しぶりだね、ホーク君」
客はフェジーナだった。ホークは思わずその名前を言いそうになったが、言葉を飲んだ。言えば城が混乱する。
「懐かしいなあ。とも言ってられないよな。何か用があって来たんだろう?」
「ああ。だがここでは流石に話ができないな。人がいない所に行けないか?」
「そうだな。城の客間に来てもらおう。あそこなら大丈夫なはずだ」
ホークは城にフェジーナと護衛を通した。
(城に通したな……。何者なのだろう?)
近くにいて会話を聞いていた、城兵の一人がいぶかしんでさりげなくホーク達の後をつけていった。
リゾレッタの城の客間はそこから中庭が眺められるようになっている。フェジーナが連れて来た護衛には客間の扉の前で待ってもらうようにした。
「ここならゆっくり話せるはずだよ。子供の頃に実家に泊まりに来て以来だね、フェジーナ君」
「ふふっ、そうだな。君はあの頃から変わってないな。やはり明るい」
「性格はそう変わるもんでもないね。で、どうしてリゾレッタまで来たんだい?」
「君に用があってね」
「僕に?」
そう自分を指差して訊くホークに、フェジーナはうなずき返した。
「単刀直入に言おう。君を引き抜きに来た」
ホークはそう言われてかなり驚いたが、笑ってこう返した。
「フェジーナ君は冗談を言わないタイプだと思ったけど、言う時は言うんだな。いやーびっくりしたよ」
「冗談じゃない。本気だ。冗談をわざわざ言いに私が危険をかえりみずここまで来ると思うかい?」
フェジーナの表情は真剣だった。それを見てホークも真面目な表情に戻った。
「そうか。君はたまに思い切ったことをするんだなあ。やはり、グランドパレス一の軍師らしいな」
「君の戦場での作戦の大胆さには敵わない。実際、前の戦いでは私達の軍は散々にやられた。その大胆さを持った君に来て欲しいんだ」
ホークは黙って聞いていたが、緊張を解くため、少し伸びをした。
「そうは言うが、僕がグランドパレスにつく公算があって来たのかい?いくら説得されても困るだけなんだがなあ」
そう言ったホークの様子を見て、フェジーナも緊張を解き、少し笑った。
「子供の頃に会った頃から思っていたが、君はやっぱり面白い男だな。その君にどうしても来て欲しいから、大した公算も無しに私は来てしまった」
「クーガー王は君がここに来ることを知っているのかい?」
「もちろん。陛下も君が来てくれることを強く望んでいる」
ホークは腕組みをして少し考えた。
「僕のことを買ってくれるのは有難いが、僕は生まれも育ちもオストガルドだ。それに、仕えているオストガルドの王子のカイトとは幼馴染で親友だ。裏切ってグランドパレスに行くわけにもいかないな」
強くは言わなかったが、理由を言ってきっぱり断った返事だった。
「そのことは全部知っているよ。知っていて、敢えて来たんだからね。それでも、君の国と私の国が戦争中にもかかわらずに私がここまで来たことを汲んで欲しいんだ」
「それは分からないでもないが……。案外君もしつこいなあ」
「君を口説くためだ。しつこくもなる」
ホークはどう断ったものか困った顔になった。
「君と私の国と言ったけど、グランドパレスと交戦中なのは、オストガルドだけじゃなくてすべての国だろう? そのグランドパレスに来いというのかい?」
「痛い所を突くな。確かにその通りだが、君ならグランドパレスがすべての国を敵に回していても余力があることは分かるだろう。あくまで今のグランドパレスだが」
「浄石をかなりの数、譲ってもらえたからか? エルフィンから?」
「その通りだ。流石だな。浄石のおかげで、我が国の国力はかなり上がった。我が国が包囲網を敷かれているとしても、そう簡単にはどの国も攻めて来ないだろう。ただ唯一、脅威なのは……」
フェジーナはそこで言葉をいったん切った。その後、こう続けた。
「君がいるオストガルドだ」
ホークは黙って聞いていた。
「買かぶりすぎだよ。僕はそんな大した人間じゃない。この前の戦いで、君に勝てたのも運が良かったのが大きいよ」
「運だけで、あんなに完勝できるかな。君の能力による所が大きいよ。どう考えても」
「どっちにしろ、カイトを裏切るつもりはないよ。それに僕にはもう嫁さんがいるしね」
「そうか……。まあ、私も簡単に説得できると思って来たわけではないが、残念だが引き揚げるか。交戦状態じゃなければ、夫婦でグランドパレスに旅行にでも来てくれと言えたんだけどね」
「僕もこんな状況じゃなかったら、もっともてなしていたよ。それこそ昔のように実家に泊まってもらっていたさ」
それを聞いてフェジーナは笑った。
「懐かしいなあ、あの頃が。あの日のことはよく覚えているよ。陛下が珍しく饒舌で上機嫌だったからね」
「魅力的な王だよな、君の主君は。だが、僕の主君のカイトにも良い所はいっぱいある。カイトを見限って、あなたの所には行けないと伝えておいてくれ」
「ああ。陛下は非常に残念がるだろうが、言っておこう。状況が変わったら、また口説きに来るかも知れないよ」
「恐らくその時も無駄足を踏ませることになるだろうな」
「ははっ。きっぱり言うな。じゃあ、また会おう。できれば戦場以外で会いたいが、そうもいかないだろうな」
そう言うとフェジーナは護衛を連れて客間を出て帰って行った。
「……彼がいる限り、グランドパレスの優位は変わらないだろう。だが、オストガルドを捨てることはできない」
ホークは一人そう言って、フェジーナを見送った。
「……これは凄い話を聞いたな。ウオルフ王子に報告するべきだな」
中庭で隠れて盗み聞きをしていた兵士がそう言った。さっきの城門の近くにいた兵士で、ウオルフが紛れ込ませた間諜である。




