第四十八話 治癒のプロフェッショナル
トリネアスでの戦い以降、暫く小康状態が続き、大きな戦らしい戦は無かった。
ホーク達は二十一歳になっている。
レンと結婚したホークは、夫婦一緒にホークの実家に住んでいた。
「……」
「キュルルッ」
ホークは今日は一人で黙って土いじりをしていた。ホークの趣味でもある。また、ラークは牛舎で牛の世話をしていた。翼竜のククは二人の様子をじっと見ているようだ。
「ホーク! 昼御飯よ!」
「ああ! そろそろ戻るよ!」
レンがホークを呼びに来た、レンはラークも呼びに牛舎に向かう。
ホークとラークが戻ると昼御飯がテーブルの上に並べられていた。コーンスープの香りが香ばしい。
「美味そうだな」
「レンちゃんが腕によりをかけて作ってくれたから、おいしいわよー」
「はははっ。じゃあ頂こうか」
ホーク一家は四人で食卓を囲んだ。和やかな談笑をしつつ、食事は進む。
「今は少し平和よね。ずっと、ホークやお義父さん、お義母さんとこうしていられたらいいのにと思うけど、またいつか戦争が始まるのよね……」
食事の後片付けをしながら、レンがふとそう言った。
「レンちゃんの言う通りだな。俺やホークは戦が起こったら、また戦場に行かないといけない」
「ほんと。私も気が気でないよ。戦場に行ってる時のあんた達のことを考えると」
メイシャも後片付けをしながら、話に加わった。
「僕も土いじりしながら思ってたよ」
「どんなこと?」
「ここで、百姓をしていても多分レンを嫁にもらってたから、士官にならなくても別に良かったかなあって」
それを聞いて、ホーク以外の三人は声を出して笑った。
「何か面白いこと言ったかな?」
「言ったさ。まあそう言ってやるな。それじゃカイト君が悪者になる」
「あいつを悪者にしたら悪いな。まあ、こうなる運命だったんだろうね」
ホークはそう言うと食後のお茶を一杯飲んだ。
「そのカイトの様子を見がてら、城に行ってくるよ」
「気をつけてね。ホーク」
レンは幸せそうな笑みで、ホークを送り出した。
カイトはいつもの通りに執務室にいる。
「ようホーク。嫁さんとは上手くやってるか?」
「赤ん坊の頃から知っているんだから、上手くやるもやらないもないよ」
「ははっ。まあ、そうだな」
そうカイトは言って、一つ伸びをした。
「今日はここで何を考えてたんだ?」
「負傷兵のことさ。去年のトリネアスの戦いで結構な人数が怪我をしたからな。深手を負った兵もいる。捕虜兵を含めてな」
「リジャ先生や、シージャに診てもらっているけど、まだ完治しない兵もいるよな。確かに」
「今日も城の調練場で、負傷兵を診てもらっているよ」
「そうか。じゃあ、ちょっと行ってみる」
ホークは執務室を後にした。
調練場はリジャ神父とシージャに診てもらおうとしている負傷兵でごったがえしている。戦闘で受けた傷が深手で、完全には癒えていない兵士が大勢おり、リジャ神父とシージャはその兵士達に処置をしていた。
「いつも有難う御座います。リジャ先生、シージャ」
治療を施している二人にホークはまず礼を言った。リジャ神父は手を止めずに答えた。
「なに、礼を言われるほどのことはない。これもわしらの勤めじゃからな」
シージャも回復魔法リフォームを負傷兵にかけながら返事をした。
「まあ、礼を言われることでもないんだが、戦で傷ついた兵士を治療するのはあまりいい感じはしないな。」
「……すまない。僕の責任だ」
「お前のせいじゃないよ。お前がいなければ、ここはもっと悲惨な状態になっていたはずだ」
「そうじゃ。ホークの作戦があったから、犠牲が最小限で済んでおるんじゃ。避けては通れん戦じゃったしな」
シージャとリジャ神父はテキパキと負傷兵を話している間も治療している。
「でも、負傷兵は僕を恨んでいるんじゃないか? 恨まれても仕方がないと思っているけど……」
ホークの問いにシージャが答えた。
「それこそ考えすぎだ。連れて帰った捕虜兵すらもそんなことは考えてないぞ。むしろ、お前の手厚い待遇に感謝しているくらいだ」
「そうか。なら良かった」
「お前を心の底から恨む兵などここにはどこにもおらん。あまりいらぬ気を回さんことじゃ」
リジャ神父がそうホークを諭した。
「有難う御座います先生。所で、ここの負傷兵達のことですが」
「なんじゃ」
「あとどれ位で全員の傷が癒えますか?」
「そうじゃな。もう四月もすれば、よほどの深手を負った兵でもなければ、傷は癒えてくるじゃろう」
「その回復した自国の兵と捕虜兵などを合わせて七千五百か……」
リジャ神父とシージャはホークがそう言ったのを聞いてなるほどと思った。
「ホーク。お前はグランドパレスが、いずれ、ここに攻めて来ると考えているな? だから防備の兵数を気にしているんだろう?」
「ああ。僕がクーガーやフェジーナなら絶対に次はここを攻めると思う」
「そうじゃな。このリゾレッタを落とせば、オストガルドはもう落ちたようなものじゃからな」
リジャ神父はうなずいてそう言った。その後、負傷兵の深手だが治りかけの傷に、
「リフォーム・レベル4!」
と回復魔法をかけた。優しい光が負傷兵の傷の回復を促進させた。
「でも、グランドパレス側もトリネアスでの戦いで戦意が落ちているはずです。当分ここを攻めに来ることはないと思います」
「そうだろう。大国だが、あちらの方の損害はこちらと比較にならないくらい大きいはずだ。連れて帰った捕虜兵の数を見れば分かる」
「損害は大きいだろうけど、やはりグランドパレスだ。立ち直るのも早いだろう。シージャ、リジャ先生、きついだろうけど負傷兵の治療を頼みます」
「そうかしこまることもない。まあ、まかせておきなさい」
リジャ神父は優しく笑いながらそう言った。ホークにはその言葉が頼もしく聞こえている。




