第四十七話 軍師のプロポーズ
「国を守れただけでなく戦を大戦果で終えることができました。感謝します」
ラグフェルトはホークに丁重に礼を述べている。
「作戦がたまたま当たっただけです。僕は何もしていませんよ」
ホークはいつものように謙遜していた。
「いや。君の戦略眼の鋭さは偶然では済まされない。できれば、この国で働いて欲しいのだが、そういうわけにもいくまい。ともかく助かりました。これからも宜しく頼みます」
「はははっ。ホークはうちの大切な軍師ですから、トリネアスで働くのは無理ですよ。こちらもグランドパレスに侵攻された時には救援を宜しく頼みます」
「ああ。約束しよう」
ラグフェルトはカイトも気にいったようで、申し出を承諾した。その後は和やかな雰囲気で祝宴が開かれたが、バリルだけは非常に不機嫌そうだった。
「おい! 軍師さんよ~! ちょっと面を貸せ!」
バリルは乱暴にホークを呼び、ホークは素直にバリルの所に行った。心配になったカイトとキルスもついて来ている。
「何でしょうか?」
「何でしょうか? じゃねえよ! 俺の部隊にマーキングをかけたのはどういうことだ!」
「戦場にいたんでしょう? あれがすべてです」
「なめた口をききやがるな~!」
バリルはホークに掴みかかりそうな勢いである。カイトとキルスはそれを止めようとしたが、制してホークはバリルにこう言った。
「バリル様は、マーキングをかけられるまで、まともに部隊を動かそうとしなかったでしょう? だから僕もああいう手を打ったのです。きっちり軍を動かして頂けていたのなら、僕は何もしませんでした」
「くっ……!」
バリルは何も言わず、祝宴場を後にした。
「すまんなホーク……。いつも……」
「お前があやまることじゃないよ。気にするな。それより祝宴を楽しもう」
「ああ、そうだな」
ホークとバリルのやり取りに祝宴場に緊張が走ったが、ホークが戻ってきて、その緊張も解けた。
祝宴は夜遅くまで続いた。
ホーク達は祝宴が終わった翌日にリゾレッタへの帰路についている。オストガルド本国の軍と収容した捕虜を分けて連れて帰ったので、リゾレッタに着くまで十日程かかった。
「無事に帰ったかホーク!」
「お帰り。良かった、無事で」
軍を解くため城に戻ると、リゾレッタを守っていたラークとアベルが迎えてくれた。二人とも流石に心配していたようである。
「有難う。心配かけたね」
「母さんはもっと心配しているぞ。早く帰ってあげなさい」
「分かった」
ホークは軍を解いた後、そのまま自宅に帰った。
自宅に戻ると既に昼下がりも大分過ぎた時間になっていた。
「ただいま母さん」
「ホーク! 良かった……無事にちゃんと帰って来たんだね……」
メイシャは晩御飯の用意をしていたようだったが、それをいったん止めてホークを迎えた。
「心配かけるけど、戦も仕事だからね。これからも心配をかけると思うよ」
「……しょうがないこととは思っているけど、息子のお前が戦場に出ていると思うと気が気じゃないよ。どんな戦いの時でも無茶はしないでおくれよ」
「うーん。難しいけど約束するよ」
「そうしてちょうだい。レンちゃんにも知らせに行くのかい?」
「明日知らせに行くよ。ちょっとレンに会う時に考えていることがあってね」
「なんだいそれは?」
「まあ、会ってからだよ。疲れたからちょっと休ませてもらうよ」
「ええ。そうしなさい。晩御飯ができたら起こしてあげるからね」
ホークは自室で少し休んだ。晩になり、ラークが帰って来ると三人水入らずで、晩御飯を食べ、談笑し、楽しく時を過ごした後に床に着いた。
ぐっすり眠った翌日、ホークはレンのパン屋に向かっている。
「いらっしゃいませ~。……ホーク!」
「おはようレン」
「無事に帰って来たのね……。良かった……」
「ああ、お守りのおかげだよ。それとな……」
ホークはそこで言葉を切ったが、心で何かを決めたようで、言葉を続けた。
「白馬の王子じゃなくて、徒歩の軍師だけどなどっちかと言えば」
「え……。それって……」
ホークはうなずいた。
「嫁になってくれないか?」
レンはそれを聞いて涙が出た。嬉し涙だ。
「……はい!」
返事と一緒にレンはホークに駆け寄り、ホークはその肩を優しく抱いてあげた。
二人を祝福するような、リゾレッタの快晴の朝空である。




