第四十六話 予想の上を
キルスとシェラの部隊は問題の地形の地点まで、後少しの所まで来ていた。剣士隊が先頭で、その少し後ろにシェラの魔道兵隊が来ている。
「キルスさん! あの地点の手前で一旦止まって下さい。俺が魔法をまず使います」
「分かりました。頼みますぞ」
シェラと魔兵は集中を始めた。
「ダミー・レベル4!」
「ダミー・レベル1!」
シェラと魔兵の手から発せられた紫色の光が問題の地点を通り、その少し前方で、千体程の兵士の動く虚像を作った。
カルザス軍も地形を挟んだ地点まで来ていたが、その無数の虚像を見たカルザス軍は驚いた。
「カルザス様! 敵です!」
「何だと! さっきまで気配すら無かっただろう?」
「あらかじめ、伏兵を用意していたのかも知れません。千人程です」
「それならたかが知れているな。攻撃を加えるぞ!」
カルザス軍は虚像を目指して進軍し始めた。
「カルザス様の軍が動いているようだが?」
やや後方に軍を配置していたフェジーナはカルザスの行動をいぶかしがった。
「敵が突然現れたようです!」
「敵が? こちらも斥候を出していたが、伏兵がいる様子は何処にも無かったぞ?」
「ええ。ですが、突然千程の兵が現れたと……」
「おかしい……。仕方がない我々も後に続くぞ!」
フェジーナもカルザスの後を追って、軍を動かし始めた。
「確かに千程いるな……。一気に押しつぶすぞ!」
カルザスはダミーの魔法で作られた虚像に向かって攻撃を開始した。だが、当然ながら手ごたえはない。
「何だこれは? まやかしか?」
虚像に気を取られ、カルザス軍は混乱している。その混乱している隙を突いて、キルスの剣士隊が突撃を開始した。
「敵は混乱しているぞ! 剣士隊突撃!」
不意を突かれたカルザス軍は陣形を立て直す暇もなかった。
「カルザス様! 今度は間違いなく敵です!」
「くそっ! 今の状態では支えきれん、軍が分断している。退くぞ!」
「パワー・レベル2!」
「パワー・レベル1!」
シェラと魔兵が補助魔法の詠唱を終え、赤色の力強い光がキルスの剣士隊を覆った。剣士隊はそれに力を得た状態で攻撃を続けた。
「強すぎます! 持ちこたえられません!」
「ええいっ! 何とか退くんだ!」
「ディフレクション・レベル3!」
「ディフレクション・レベル1!」
カルザス軍が進退窮まっている時、フェジーナの軍から青色の光が発っし、それがカルザスの軍を覆った。兵士達の堅固さがその光により増した。
「何とか持ちこたえてここまで退いて下さい! そうしないと一気に勝負がつけられてしまいます! 早く!」
フェジーナから檄を飛ばされ、カルザス軍は必死で退き始めた。
「ふむ。手ごたえが少しはあり始めたか。だが、問題の地点は突破した。剣士隊! 攻撃を加えつつ、後続が通る道を確保せよ!」
キルスはそれ以降、カルザス軍を深く追おうとせず、軍道を確保しながら少しずつ前進した。そのキルスの剣士隊に続き、カイト、ホーク、サリアの第二軍も、問題の地点を越えることができた。
「ここまでは上手くいったな」
カイトはホークに言った、今の勝勢に力がみなぎっている。
「ここからが重要だよ。今度は僕の魔法の出番だ」
「頼んだぞ!」
ホークは集中し始めた。手にはそれぞれ、クーガーからもらったワンドと、竜神のワンドをそれぞれ持っている。
「ホットサーモ・レベル4!」
「ホットサーモ・レベル1!」
爆炎がホークが持っているワンドから高速でカルザスとフェジーナの軍に向かって飛んで行った。魔兵達からの無数の火炎弾とそれは合流した。
「アイシングサーモ・レベル4!」
フェジーナは素早く集中し、魔法で大きな氷塊を爆炎に向かって飛ばした。それにより、爆炎はかなり相殺されたが、いくらかはカルザス・フェジーナ軍に降りかかり、被害が出ている。
「流石フェジーナ君だな。詠唱速度が速い。しかし……」
ホークはサリアの方を向いて、こう伝えた。
「サリアさん! アイシングサーモをお願いします!」
「分かったわ!」
サリアはそう返事をすると集中を始めた。
「アイシングサーモ・レベル4!」
「アイシングサーモ・レベル1!」
サリアの手から大きな氷塊が発生し、魔兵が発した無数の氷塊と共に、高速でカルザス・フェジーナ軍に飛んで行った。氷塊は直撃し、かなりの被害と士気の低下が敵にあった。
「フェジーナ様!」
「流石ホーク君だな……。カルザス様の軍は取り込んでいる! 何とか態勢を立て直して反撃するぞ!」
フェジーナはそう鼓舞し、士気の低下を食い止めようとした。同時に陣形を立て直させている。
その間にオストガルド・トリネアス連合軍は第三軍のラグフェルトとバリルの部隊まで問題の地点を越えることができた。
「ここまでくれば総力戦だな」
カイトはそうホークに言ったが、ホークにはもう一つ策があった。
「総力戦をやる前にバリル様に動いてもらうよ」
「兄上にか? 動いてもらうにも、動いてくれないだろう?」
「なあに動くさ。シェラ!」
「何だ?」
「バリル様の部隊にマーキングをかけてくれ」
「マーキングって……。バリル様は一応味方だろう?」
「かけたら理由が分かってくるさ」
「そうか。じゃあ軍師殿の言う通りやってみるか!」
シェラと魔兵はバリルの部隊を向いて集中し始めた。
「マーキングブルー・レベル3!」
「マーキングブルー・レベル1!」
青色の光がバリルの部隊に飛んで行き、バリルも含め、部隊は青色に光始めた。
「何だ? 何をしやがった?」
「今度は陣形を変えるぞ! バリル様の部隊を先頭に持ってくるようにするんだ!」
ホークの指令で、先頭の方にいた部隊は左右に散開しながら、少し後退した。そうするとマーキングで光っているバリルの部隊がむき出しになった。
「よし! 後はゾルカス! 大声でバリル様の居場所を敵にまで分かるように伝えてくれ!」
「分かったぞ!」
ゾルカスは大きく息を吸って、あらん限りの大声で、
「オストガルドの第二王子! バリル様はここにいるぞ~!」
と言った。
「バリルだと? あの青く光っている部隊がそうだな? そんな重要人物がこの戦に来ていたとはな。あの青い部隊に集中攻撃をかけるぞ!」
態勢をいくらか立て直すことが出来たカルザスの軍はバリルの部隊に向かって突撃し始めた。
「ちっ! あの野郎! そういうことか! 仕方がない、皆の者! しっかり防げ!」
バリルは部隊を徐々に前進させつつ防備に適した陣形に変えていった。
「またカルザス様が引っかかったか……。伝令を跳ばしてカルザス様に罠だと伝えてくれ。もう既に陣形が伸びてしまっているが……」
(ここまでだなこの戦は……。ホーク君一人にやられたようなものだな……)
フェジーナは口には出さなかったがそう思っていた。
「私の軍も動かすぞ! カルザス様が罠と気付いて退くまで、陣の伸長をなるべく避ける!」
フェジーナの苦肉の策だった。
「かかったぞ! 皆! 押し包め!」
ホークの指令で、左右の部隊は向かって来たカルザスの軍を押し包むように前進しながら攻撃を加えた。後は総力戦になり、陣形でも兵数でも勝るオストガルド・トリネアス連合軍が勝勢だった。
「これは持ちこたえれん! 退くぞ!」
カルザスは状況を見て罠に落ちたことに気付いたが、時は既に遅く、フェジーナからの伝令も無駄になってしまっている。軍を退いている最中にフェジーナと合流した。
「カルザス様!」
「すまんフェジーナ……」
「謝罪は後でいくらでも聞きます。私がしんがりになります。サーフェルの城までまず退きましょう」
「分かった……。頼むぞ」
カルザスの軍は本格的な撤退を始め、フェジーナの軍がそれを守った。キルスの剣士隊、ラグフェルトの黒騎士団などが奮戦したが、フェジーナも奮戦し、退却を許した。
「あの若いの、中々やりますな。フェジーナか……」
「ええ。僕のライバルです」
戦いはオストガルド・トリネアス連合軍の勝利に近い引き分けに終わった。




