第四十四話 正攻法
トリネアスとグランドパレスの国境付近。
「ちっ! 兵数ではこっちが勝っているのにやるじゃねえか」
カルザスの軍は押されていた。
「ラグフェルトの黒騎士団は精兵です。甘く見ていますと、足元をすくわれます」
「うむ、少し見くびっていたか……。それはそうと、本国からの増援はどうなっている」
「もう二日ほど到着までかかります。増援は出して頂けましたが……」
「なんだ?」
「陛下の怒りは凄まじいものだったと聞いております……」
「まあ、ここで勝てば父上の怒りもいくらか減るだろう。俺は俺をこけにしたラグフェルトが許せなかった!」
「それは分かりますが……。もう過ぎたことを言っても仕方ないでしょうな……」
その時、前線から伝令の兵士が報告に来た。
「申し上げます! オストガルドからの救援の軍が、トリネアス側に到着した模様です!」
「そうか。どうするサルファイ?」
「ラグフェルトの軍だけでも苦戦しているのに、オストガルド軍まで出てこられると、今の我が軍ではどうにもなりません。いったん、退きましょう」
「くそっ! 忌々しいが退くしかないか……。おい!前線に戻ってそう伝えてくれ」
「はっ! かしこまりました」
伝令は前線に戻って行った。
その頃、戦闘が行われている最前線では……
「ふむ。カルザスの兵も中々やるな。ここまで善戦されるとは予想外だ」
国王ラグフェルト自身が、前線近くに陣を張り、兵の士気を高い状態で保っていた。黒騎士団を率いているだけあって、自身も黒塗りの甲冑を身に付けている。
「だがカルザスの軍だけなら、我が軍だけでも勝つことはできる。問題は増援が来た時だが……。やはり頼みの綱は、オストガルドの救援軍になるな」
陣に伝令が入って来た。
「申し上げます! オストガルドの救援が到着されました!」
それを聞いて、ラグフェルトは少し安堵した。
「そうか、ご苦労。それで、オストガルドの指揮官の方々はここにご案内できるか?」
「はい! あちらも国王と話したいとおっしゃっています」
「お連れしてくれ」
「かしこまりました」
暫くしてホーク達、オストガルド軍の指揮官がラグフェルトの陣営に入って来た。
「よく来てくださった。感謝します」
「いえ、礼には及びません。それにしても流石、黒騎士団ですな。相手は多勢ながらこちらが優勢です」
「今はそうだが、相手に増援がこられると、流石に持ちこたえられんよ。まず今の内にカルザスの軍を追い返さないと」
キルスとラグフェルトが話していたが、ここでホークが口を開いた。
「ええ。我々もそのつもりです。ここまで来たばかりですが、いつでも兵を動かせます。まず手早くカルザスを追い返しましょう」
「君はオストガルドの軍師か?若いがしっかりしているな」
「はい。彼はホークといいます。我が軍の作戦立案の責任者です」
「そうか。我が国にも彼のような聡明な若者がいればな……。それでは、ここはホーク君に作戦を頼むとしよう」
「分かりました。善処します」
カルザス軍とラグフェルト軍との激戦区では、ラグフェルトの黒騎士団が奮戦していた。
「強いな……。黒騎士一騎に、二、三人がかりで戦っているんだが、跳ね返されちまう……」
「こっちの兵力は二倍程度はあるのにな。増援が来るまでなんとか粘るしかないか」
カルザス側の兵はそんなことを話していた。まだ、撤退を伝える伝令はここまで来ていないようだった。
「おい! ラグフェルトの軍勢が一気に増えたぞ!」
「なに! 敵の増援の方が早かったか!」
最前線にオストガルド軍が進軍してきたのを見て、カルザスの軍は混乱した。そして、その混乱を突くように、
「アイシングサーモ・レベル4!」
「アイシングサーモ・レベル1!」
サリアと魔兵の魔法により、カルザス軍に向かって無数の氷塊が高速で飛んで来た。それにより、かなりの損害と士気の低下があった。
「剣士隊! 突撃!」
魔法でひるんでいる隙に、間髪を入れずキルスは剣士隊を突撃させた。ラグフェルトの黒騎士団と合流し、縦横無尽に攻撃を加えていた。
「ここはもう駄目だ! 退くぞ!」
そこにいたカルザス軍は多重攻撃により一溜りも無く撤退した。
「敵部隊は逃げたぞ! 敗残兵を捕虜として収容しろ! 捕虜に手荒な真似はするな!」
キルスは部下にそう指示した。
「追撃はどうします?」
「今、我々が追撃を行えば陣形が伸びきってしまい逆襲に遭う可能性がある。今日はここまでだ」
「はっ!」
初戦を大敗北したカルザスの陣では軍議が開かれていた。
「ええい! オストガルドの奴らめ!」
「今回の戦闘で、三分の一の兵を失ってしまいました。兵の士気も著しく落ちております」
カルザスは悔しがっていたが、サルファイは仕方がなさそうな顔をしていた。
「今の兵力では、もう攻めることはできんな……」
「この砦を中心に陣を敷き、増援が来るのを待つしかないでしょう」
「増援が到着するのはまだだったな?」
「後、一日半かかるはずです」
「前線から戻って来た兵によれば、あっちには魔道兵もいるようだしな……。どうにもならんか」
カルザスは敗戦の結果を呑み、気を取り直したようだった。切り替えが早いのはカルザスの長所と言える。
「増援が来るまで待機するぞ! 兵に順番に休息を取らせて、士気を保たせておけ!」
「はっ! かしこまりました」
「大勝利でしたな。有難うホーク君」
初戦で勝利したラグフェルトの陣営では、援軍として活躍してくれたホーク達、オストガルド軍の労をねぎらっていた。
「いや、僕は何もしていません。正攻法で押し返しただけです。それに、初戦は勝てましたが、問題は敵側に増援部隊が来てからです」
「余勢をかって、増援が来る前に叩けぬかな?」
「それは厳しいと思います。初戦の敗北で、敵も砦に陣を固めてくるでしょう。そこを攻めている間に敵側に増援が来たら、今度は我々が逆襲に遭います」
「なるほどな」
「今は我々も陣を固めて、作戦を練りましょう。斥候は出していますか?」
「うむ。その点はぬかりはない。そろそろ戻ってくる頃だ」
そう、ラグフェルトとホーク達が軍議を交わしている時に、斥候が帰って来た。
「偵察から帰還いたしました!」
「ご苦労だった。早速、報告を頼む」
「はっ! カルザスの軍は自軍の砦まで退き、そこを中心に陣を固めている模様です。こちらが、現在のカルザス軍の配置とこの近辺の図面になります」
「うむ。有難う下がって休んでくれ」
「はっ!」
斥候は下がって行った。その後、ラグフェルトはホークに話し掛けた。
「君の推測通りだな。カルザスは砦に全兵力を固めている」
「ええ。恐らく増援が来るまで動くことはないでしょう。その増援が来た後、この図面において戦場になる可能性が高い地点は……」
ホークは図面のある地点を指差した。その指に皆、注目した。そこは両側が山に囲まれていて、軍を通すのに幅が狭いため、やや困難な地点だった。
「ここになるでしょう。敵にとっても重要な防衛線になるはずです」
「そうだな……。後は敵の増援に誰が来るかだな」
ホークとラグフェルトの会話を黙って聞いていたカイトがここで口を開いた。
「……誰が来るかは、大方の予想がついている。一番厄介なのをよこしてくるだろう」




