第四十一話 竜神のワンド
ホーク達は海賊船に乗り込み、シクロス近海に出た。
「これが海賊船か。僕は船に乗るの自体、初めてだよ」
アベルが珍しがって、甲板を歩いていた。
「アベルは山育ちだって言ってたよな? そう言えば。船が珍しいだろう?」
「うん。珍しいし、楽しいよ。わくわくしてくる」
カイトとアベルが喋っている所にザップが割り込んできた。
「ダベってる場合じゃないぜ二人共。竜神の洞窟の中はモンスターが出るからな。気を引き締めておけよ」
「あのコウモリに似たモンスターだよな。分かった。なあに、ガキの頃とは違うさ」
カイト達が甲板で話をしている頃、ホークは操舵室で、リーダー格の海賊と話をしていた。
「話をつけるにしてもどうするつもりだ? ホーク? 確かにその護符があれば親竜と話はできるが……」
「誠心誠意伝えれば、何とかなるとは思います。問題は翼竜の餌でしょうから」
「それはそうだが、その餌をどうにかする解決方があるのか?」
その問いにホークはうなずいた。
「餌場となるある程度広い生け簀を作ってあげればいいんです。そこに取った魚を幾らか放してやって、翼竜が食べれるようにしてやれば、網を破られる被害は無くなるはずです」
「なるほどな。生け簀を作るから、そこで子供の翼竜に食べさせるようにしてくれと頼むわけか。流石だな」
「多分、親竜も話を聞いてくれると思います」
「そうだな。じゃあ、竜神の洞窟に行くか。面舵一杯!」
「面舵一杯!」
海賊船は竜神の洞窟の近くまで順調に進んだ。洞窟の入り口までもう少しという所で、
「あっ! 翼竜だ!」
カイトが海上を飛ぶ翼竜を見つけた。その大きさは、人間の大人の三倍程はあった。
「大きくなったなあ。あれが、あの時の子竜か」
「キュルルルオー!」
子竜は一鳴き、不思議な声で鳴いた後、洞窟の中に入って行った。
「後に続いて入ってみるとするか」
ホーク達は、竜神の洞窟に入った。
洞窟の中は薄暗かったが、あらかじめ用意していた燭台の光で周囲は見えた。
「久しぶりに入るけど、壁面が光ってて綺麗だよな、やっぱり」
洞窟の内壁には、以前入った時と同じようにヒカリゴケが生えていた。それは、ほのかな光を放っていた。
海賊船は燭台の明かりを頼りに先に進んだ。
「そろそろモンスターが出てくる頃だぞ! 気をつけろよ皆!」
ザップの呼びかけで、甲板上にいる海賊達やホーク達は武器を抜き身構えた。
それから海賊船が少し進むと、洞窟の天井付近にコウモリのようなモンスターが、かなりの数でぶら下がっているのが見えた。
「出てきたな。アベル! 手はずどおりにやってくれ!」
「分かった!」
アベルはそう言うと甲板の後方に下がった、手にはホークから借りたワンドを持っている。
「シャアアアッ!」
コウモリ型のモンスターは群れで飛びかかってきた。
「ライトニング・レベル3!」
あらかじめ、後方で集中していたアベルがそう言葉を放つと、ワンドからモンスターの群れに向かって放射状に電撃が走った。
「ギャ!」
電撃を受けたモンスター達は感電し、次から次へと落ちていった。
「一網打尽ってやつだな……。すげえな。やっぱり魔法使いって奴は……」
ザップやリーダー格の海賊も含め、海賊達はアベルの魔法に呆気に取られている。
「さあ、モンスターは片付いたし、先に進もう」
ホークは海賊達にそう言って、先を急がせた。
海賊船は先に進み、親竜がいる、一際開けた空洞の地点に来た。
「キュルルルッ」
そこには、さっき中に入って行った翼竜がいた。空洞の中のとまるのに丁度いい岩で羽休めをしているようである。
「来るのはきたが……」
「うん。後は親竜と話をしないとね」
そうホークは言うと海賊船を少しだけ奥に進ませた。その後、暫く待つと海面下からゴゴゴという音がして、うねりと共に親竜が現れた。
「見るのは二回目だけど、迫力があるなあ」
「僕は初めてだよ……。これが竜神……」
ホークとアベルは親竜が登場したのを見て思い思いの感想を言った。
(お前達は……。おお、あの時の子供達か……。大きくなったな)
親竜が護符を通して、心の中に話し掛けてきた。
「お久しぶりです。懐かしいですね、お互い」
(そうだな。で、今回ここに来たのは、どういうわけだ? 言わずとも大体、予想はつくが)
「お察しの通りです。あなたの子供の翼竜のことで来ました」
(やはりそうか……。子供のことではお前達に迷惑をかけている。すまない)
「ええ。まあ仕方がない面もあるとは思っています。あなた方も食べないと生きていけないはずですから。で、一つ疑問に思ったことがあるんですが」
(なんだ?)
「翼竜は餌の魚を求めに漁場を少し荒らしていますが、あなたはそういったことはしないでしょう? なぜですか?」
(そのことか。我々は年を取ると食べるものが変わってくるのだ。私も若い頃のように、魚や肉を食べないこともないが、普段は海中の微生物を食べている)
それを聞いて、ホークはそうなのかと深くうなずいた。
「なるほど。餌自体が違っていたんですね。よく分かりました。ただ、このままだと僕達も困るので」
(すまない……。確かお前には困った時にここに来いというようなことを言ったと思うが、逆に困らせてしまったようだな。本当にすまない)
「いや、なに。解決策を持って来たので大丈夫です」
(それは、どういったものだ? 我々にできることならしよう)
「それでは言います。簡単なことです。こちらで翼竜の餌場を用意するんです。ある場所に生け簀を作って、そこに常時、餌となる魚を入れておくようにします。あなたには子供の翼竜にそこで餌を取るように諭して欲しいのです」
(…………)
親竜はホークからの提案を聞いて、考えているようだった。
(有難い申し出だがやめておこう)
「なぜです?」
(子供のことを考えたのだ。それに申し出を無駄にするわけではない。我が子も成長した。そろそろ、子離れ、親離れの時が来たのかも知れぬと思ってな)
「?」
ホークにも親竜の言っていることが掴めなかった。
(お前には、護符のことでも世話になった。だから、餌場を作ってくれる代案というわけでもないのだが、良ければ子供をお前に預けようと思う)
「えっ? あなたの子供の翼竜を僕にですか?」
(そうだ。親の手元から離すのは心配だが、お前は信頼できそうだ。それにこの子はかなり成長した。人を乗せることもできるはずだ。お前の役に立つこともあろう)
「どうする? カイト? アベル?」
ホークは二人に意見を求めた。
「お前がよければ承諾してもいいんじゃないか? 翼竜が仲間になるのは心強い気がするぞ」
「君があの翼竜に乗って、縦横無尽に駆け巡る姿を見てみたい気がします。僕も賛成です」
カイトもアベルも親竜の言うことに賛同だった。それを聞いて、ホークも決心した。
「分かりました。僕でよければ、翼竜を預かりましょう」
(有難う。では、我が子にその話をするから、少し待っていてくれ)
親竜はそう言うと、翼竜の方を向き、心と心で会話し始めた。程なくして話がつき、翼竜は海賊船の甲板上のホークの前に降り立った。
「キュルルル」
翼竜は一鳴きして、ホークに頭を差し出した。ホークはその頭を優しく撫でてやった。
(お前を主人と認めたようだ。我が子を宜しく頼む)
「分かりました。暫くの間、お預かりします」
(うむ。後、迷惑をかけた詫びというわけでもないんだが、私が去った後、奥の岩場を調べてみるといい。ちょっとした物が見つかるはずだ)
「分かりました。そうします」
(うむ。それではさらばだ。たまに、我が子の顔を見せにここに来てくれ)
親竜はそう言うと、またゴゴゴという海面のうねりと共に、海中へ去って行った。
「言われた通り、奥の岩場に進んでみよう」
ホーク達は海賊船を進め、岩場を調べた。そこには、竜のレリーフが施された、立派なワンドが立てかけてある。
「親竜の俺たちへの気遣いだろうな。竜神のワンドか……」
カイトが手に取って見た。そしてそれをホークに手渡した。
「有難く受け取っておこう」
「キュルルッ」
「君もこれから宜しく頼むよ」
翼竜は何とも言えない、愛嬌のある丸い目をしている。




