第三十九話 不穏なカルザス
その頃、グランドパレスでは……。
(浄石はまとまった数が手に入るようになった。後はこれを一番有効に活用するために、領土の何処に蒔くかだが……)
フェジーナは城の自室でそういったことを考えていた。
「入るぞフェジーナ」
部屋をノックする音が聞こえた後、フェジーナへの誰かの確認の声が聞こえた。
「どうぞ」
フェジーナの許可を聞いて、声の主はドアを開けた。
「最近、お前は部屋にこもって考えることが多いな。どうした?」
声の主はクーガーだった。
「これは陛下、ご心配頂き有難う御座います」
「うむ。その通りだ。お前は一人で抱え込む癖があるから心配でな」
「はははっ。まあ私の性分ですからね。最近は浄石を何処で使うかを考えることで頭が一杯です」
「そういう時は皆で考えるものだ。確かに我が国にはお前以上に切れる者はおらぬが、一人で抱え込んでも中々良い案は浮かばないと思うぞ」
「その通りかも知れません。では部屋を出てみますか」
「そうしろ。今日は比較的暖かい。以前浄石を蒔いた農地で話をしよう。モリスとカルザスも呼んでおこう」
「気分転換にもなりますね。有難う御座います」
モリスとカルザスを呼んだクーガーとフェジーナは、幾人かの護衛兵を連れて、その農地に向かった。
「いつ見てもこの農地だけは素晴らしいですなあ。ここだけグランドパレスではないように見えます」
モリスは豊かな作物を実らせている農地を見て、正直な感想を言った。
「全くだな。ここの作物だけでも、かなりの人数の民を賄える。全域にこのような農地を広げるのが理想だが、エルフィンから分けてもらえる浄石には限りがあるからな」
クーガーがそう言った後に、フェジーナが言葉を続けた。
「百も二百も所有していませんからね。現在我々が所持している浄石の数は十二個です」
「まとめて使おうと思って、敢えて取って置いたのでしたな。何処に蒔くかが難しかったのもありますが……」
モリスはそう言うと、農地の土を一掴み掴んだ。
「エルフィンの女王アリサ様から聞いたのですが、浄石の効果は永久ではないということでした。おおよそ七年程で効果は半減するということです」
「以前、そういう話をモリスは教えてくれたな。ただ、捉え方を替えれば七年はもつということだろう」
「そういうことになりますな」
「七年我が国のみで作物を蓄えることなど考えることは今までできませんでしたからね。それだけでも全く違います」
「うむ。そうだな。で、その十二個の浄石を何処に蒔くかだが……」
「首都の周りの農地にザーッと蒔けばいいんじゃないんですか?」
周りをウロウロしていたカルザスが口を出した。
「カルザス……。またお前は……」
「いえ陛下。カルザス様のおっしゃることも一理あります」
フェジーナはそう口を挟み、クーガーのカルザスへの怒りを取り成した。
「そうだろ? たまには意見が合うじゃないかフェジーナ」
「ただ、すべての浄石を首都周辺に蒔くわけではありません。精々三個です、蒔いておくのは」
「ふむ。その理由を言ってくれ」
「はい。まず首都周辺に浄石を幾らか蒔き、豊かな農地から作物を取ることができれば、首都に近い分、国の貯蔵庫への輸送の手間が省け、輸送コストも抑えられます。また、各地で何かあった時に送る支援物資も結果として、送り易くなるでしょう」
「うむ。確かにそうだな」
クーガーはフェジーナが述べた理由に納得した。フェジーナはその後にまだ言葉を続けた。
「もう一つ理由があります。万が一の話ですが、我が国が侵攻を受けた場合のことです。我が国の首都は奥地にあります。もし侵攻を受けて、他国の軍が首都周辺まで進軍して来た時、首都に食糧を作れる農地が無ければ兵を集めても長くはもたないでしょう」
「確かにな。いくら我が国が大国とはいえ、首都の守備を全くおろそかにするわけにもいかぬからな。よし。十二個の浄石の内、三個は首都周辺に蒔くとしよう」
「へへへっ。たまには俺の意見も役に立つでしょう? 父上?」
カルザスは得意そうだったが、
「図に乗るでない! たまたま、フェジーナのヒントになっただけだ」
と、クーガーにたしなめられた。
「そして、残りの九つの浄石ですが、これらは、国境付近に蒔くことにしましょう」
「国境の防備を固めるためか?」
「はい。我が国と国境を接している主な国は、エルフィン、オストガルド、それにトリネアスです。この三ヶ国と国境を接する地域に三つずつ浄石を蒔くべきだと考えます」
そう説明しながら、フェジーナは何時の間にか拾っていた小枝の棒切れで簡単なグランドパレスと周辺国を含めた図を書いていた。
「我々は侵略戦争を放棄する宣言を既にしている。こちらからことを起こさない限りは我が国が攻めこまれることもないと思うが、フェジーナらしい念入りさだな」
「我が国に統率のほころびがあり、最悪、すべての国を敵に回すようになった時のことを考えました。私も考えたくはないんですが……」
「いや、それでいいのでは? 宣言があるとは言え、警戒を怠ることはできないでしょう。実際、オストガルドのリゾレッタでは増兵の動きがありました」
と、モリスがフェジーナを支援するようにクーガーに進言した。
「うむ。オストガルドの動きは特に侮れぬな。後の九つの浄石はフェジーナの意見を採用して蒔くとしよう」
「浄石の使用の方策がまとまりましたな」
「ええ。後は方策どおり、我が国を富ますだけです」
「そうだな。早速城に戻って行動に移るか」
「はい!」
クーガーがそうまとめたのに、フェジーナ達は力強く返事をし、城に戻った。
「…………」
ただ、カルザスは何か考えているようだった。




