第三十六話 軍備増強
「おはようホーク」
「おはよう。今日はそのチーズパンをくれないか」
レンのパン屋の店先に、ホークが昼食用のパンを買いに来た。城勤めになってから、ホークはここのパンを休日以外、毎日買っている。
「何個食べる?」
「三つちょうだい」
「そんなに食べれるの? 一つでも結構大きいわよ?」
「昼頃になると腹が減るから大丈夫だよ」
ホークの返事に、レンは嬉しそうな笑みを浮かべながらパンを袋に入れていた。
「はい、どうぞ。そんなにいっぱい食べてくれるんなら焼きがいがあるわ」
「うん。有難う。じゃあ行ってくるよ」
「気をつけてね」
ホークはレンのパン屋を後にして、城に向かった。
ホークは十八歳になっていた。
城に着くと、ラークが兵士達に朝の調練をつけていた。
「やってるね。父さん」
「ああ。調練を繰り返していたら、兵士達も良い動きをするようになってきたよ」
城の演習場にはざっと見て千人程の兵士がいた。それをほとんどラーク一人が統率して、調練をつけている。
「リゾレッタは今の所、平和だけど何が起こるか分からないからね。日頃の訓練は欠かせないね」
「そうだな。まあ、兵士の訓練は任せておいてくれ。お前はどちらかと言えば内政の人だからな」
「父さんは武の人だからね」
「そういうことだ。人間、向き不向きがあるからな」
「そうだね。じゃあ僕はカイトに会ってくるよ」
「ああ、またな」
ホークはカイトのいる執務室に向かった。
執務室に来ると、カイトはリゾレッタ・シクロス領内の収支表とにらめっこをしていた。ホークとアベルが共同で作ったものだ。リゾレッタにホーク達が帰還してから一年経過したので、アベルやシェラもリゾレッタに赴任して来ている。
「やけに難しい顔をしているな。収支自体は大幅な黒字になっているはずだが何を考えているんだ」
カイトはホークにそう言われて、ホークが登城して来たのに気付いたようだった。
「ああ、ホーク。いい所に来てくれた。お前と相談しようと思っていたんだ」
「それを見ているということは予算についてか?」
「そうだ。黒字の使い道について考えていたんだ」
「道や住宅地、商業地、工業地の整備や維持などの内政に使うのが主だが、まあそれをやっても大分余るな。どうしようと思っているんだ?」
「兵士を増やしたい」
「……人口との兼ね合いがあるからな。リゾレッタ・シクロス地域は人口も年々増えている。増やせないこともないが。増やしたい理由があるんだろう?ちょっと言ってみてくれ」
カイトはホークのいつもながらの鋭さに、少し苦笑を浮かべた。
「やはり、お前にはお見通しか。増兵の理由はグランドパレスだ」
カイトがそう言ったのに、少しホークは考えた。そして言葉が見つかるとカイトに返答した。
「警戒ということだろう。グランドパレスの」
「その通りだ」
そこまで聞いてホークはカイトと対面の席に着いた。
「分からんでもないが、オストガルドにエルフィンからグランドパレスが侵略戦争をやめるという宣言をしたことが伝えられたのは最近のことだろう? それでも増やすのか?」
「増やしたい。それに、お前はあの宣言を完全に信用できるか?」
「戦王クーガーには一緒に子供の頃に会っただろう? あの人は約束は曲げない人だと思う」
「クーガーだけならな……グランドパレスの領土は広い。いくらクーガーの影響力が強いとしても、グランドパレス全体をクーガーだけで治めているわけではないだろう。その宣言があっても、国境付近に宣言を不服とする指揮官がいるかも知れない」
「念を入れておくということか」
「その理由が大きいな」
ホークはテーブルの上の収支表を手に取って見始めた。
「どのくらい増やすつもりなんだ? 今の常駐している兵は四千だが……」
「六千にはしたい」
「増やすのは二千か……無理な人数ではないが、かなり増やすつもりだな」
「さっき話にも出たが、リゾレッタ・シクロス地域はグランドパレスとエルフィン、両方の国境に面している。まあ、エルフィンとの国境は特殊だがな。何かが起こる可能性は否定できないだろう」
ホークは収支表をテーブルに置いて、手をパチンと打った。
「よし! いいだろう! 二千人募兵してみよう。父さんとシェラに募兵をしてもらおう」
「俺も集めよう。三人で募兵すれば何とかなるだろう」
「少し人数は多いが集まるさ」
「で、ホーク、お前はどうするんだ?」
「僕は装備品の買い付けに行って来るよ。この地域の収入だけでも揃えられないことはないが、オストガルド本国まで行って資金援助をしてもらうことにする。装備品自体はオウル伯父さんの所で買うことにするよ」
「父上に援助を頼むのか。それもいい考えだな。頼んだよ」
「ああ、行ってくる。三、四日で戻るよ」




