第三十五話 優しいファナ
エルフィン城の庭でファナは草や花と遊んでいた。様々な小鳥も一緒にいる。大分長い時間そこにいるようだった。
ファナが無邪気に遊んでいると、城門の方から誰かが近付いてくるのが見えた。ファナには見覚えがあった。
「あっ! あの時のおじさんだ!」
ファナはその誰かに走って近付いた。モリスだった。
「やあファナちゃん久しぶりだね」
「うん、また来てくれたんだね」
「女王様に用事があってね……あの時は浄石をくれて有難う。感謝しても感謝しきれないよ」
「そんなに、役に立ったの?」
ファナはあどけない顔できょとんとしている。
「役に立ったなんてもんじゃないよ。大助かりだよ」
「それならあげて良かったな~。お母さんに用があるのね。ちょっと待ってて」
ファナは城の中へ走って行った。
(やはり、明るい凄くいい子だな。あの姫君ならほとんどの家臣と民は慕うだろう)
モリスはそう考えながら暫く待っていると、またファナが走って戻って来た。
「いいみたいだよ。来て下さいだって」
「有難う。たびたび」
モリスはファナに案内されて城の中に入って行った。
案内されたのは客間だった。前回は玉間に通されたがモリスの人柄を信頼してくれたのだろう。女王アリサはお茶をいれてモリスを待っていた。
「お久しぶりですねモリスさん。ようこそいらっしゃいました」
「お久しぶりです。お茶までいれてもらい恐縮です」
「いえいえ。何もありませんがどうぞ座ってくつろいでください」
「……はい。では失礼します」
モリスはアリサと向き合う席に座った。窓から中庭が見えるようになっていたので見てみると、ほぼ自然に生えている花や草のコントラストが素晴らしかった。
「エルフィンに来るのは二回目ですが、美しい街という印象を来る度に受けます。また、この城も言うまでもなく美しい。この中庭一つにしてもそうです」
モリスの正直な感想に、アリサは笑みをもらした。
「ふふっ。誉めて頂いて有難う御座います。私もここから中庭をよく見ますが確かに飽きませんね。何回見ても」
アリサはそう言うと、自身がいれた紅茶に手を伸ばし、少し飲んだ。ファナはじーっと中庭の方を見ていた。
「ところで、ご用向きを伺うのがまだでしたね。どのようなご用件でしょうか?」
アリサにそう間を突かれて、モリスは少しうろたえたが、気をすぐに取り直して返答した。
「はい。まずこちらの親書をお渡しするように言付けられております。どうかご一読下さい」
モリスはアリサにクーガーからの親書を差し出した。
「ご丁寧にどうも。今読んだ方がよいのですね?」
「はい。お願いします」
アリサは親書を開き内容を読んだ。読み進めるにつれ、表情が驚きに変わってきたようだった。
「これは……本当にそうお考えなのですか?」
「はい、我が君、クーガーのご意志です」
「侵略戦争を今後一切しないと明言するとありますが……失礼ですが、にわかには信じられません。もし、本当にこれがクーガー殿のご意志ならこんな喜ばしいことはないのですが……」
「アリサ様がそうお疑いになるのも無理はありません。我が国は侵略戦争ばかり繰り返していますからな。ですが、その親書に書いてあることは、間違い無く我が君の本心です」
モリスは強くそう言った。アリサは親書を読み返しながら聞いていた。
「我々も、好きで侵略戦争を繰り返しているわけではないのです。そこを酌んで、我が君と我々の意志を信じて頂きたいのです」
モリスがそこまで言ったのを聞いて、アリサは親書を置き、モリスの方を向きなおしてこう言った。
「分かりました。あなたの誠実さと、クーガー殿の誠意を信じましょう。ただ、こちらもその宣言が破られたときの条件を提示します。……条件というよりペナルティと言った方がよいかも知れませんが」
モリスはアリサの厳しい視線にたじろぎ少し考えたが、体勢を立て直し答えた。
「承ります。どうぞご提示下さい」
アリサはゆっくりうなずき、条件を語り始めた。
「もし、あなた方がこの親書に書いてある宣言を破り、侵略戦争を行った場合、あなた方との今後一切の国交を断ちます。これがまず一点」
「うなずける条件です。他は?」
「二点目ですが、この宣言をエルフィンからすべての国の指導者に通知することができる権利を頂きたいと思います。どのような状況下でもです」
(この条件を呑んだら、もし手違いがあれば、すべての国を敵に回すことになるか……しかし……)
モリスはそう考えたが腹を括った。
「分かりました。その条件も承りましょう」
「本当ですね?」
「二言はありません」
アリサは微笑を浮かべた。
「分かりました。その言葉を信じましょう。以上のことは、また親書にしてしたためておきます。後ほどお渡しするので、お持ち帰り下さい」
「はい。その親書は我が君クーガーに必ず渡しておきます」
モリスがそう言った後、少し間があった。その間にファナがアリサに懐きにきた。アリサはファナの頭を優しく撫でた。
「モリス殿、そのようなことをここで宣言されるということは、我が国に何か求めることがおありなのではないですか? あるのならおっしゃってみて下さい」
モリスは心を見透かされたような気がしてギクッとしたが、気を取り直して返答した。
「はい。それでは正直に申します。我々はこの宣言でエルフィンとの友好を深めることと……」
「ことと?」
「浄石の定期的な輸入をエルフィンに求めます」
それを聞いたアリサは少し考えていた。少し間を置いて、返答した。
「やはり浄石ですか……。あなた方の国は作物が非常に育ちにくい地域でしたね。分かりました。その要求を呑みましょう」
アリサの返事にモリスは喜びをあらわにした。
「有難う御座います! ご英断、感謝いたします!」
「あなたとクーガー殿を信じて浄石を託すことにしましょう。ファナ」
「なあに? お母さん?」
「浄石を五つ持ってきてくれない?」
「うん。いいよ」
アリサにそう返事をすると、ファナはとことこと歩いて、浄石を取りに行った。
暫くしてファナが戻って来た。小さな袋を持っていた。
「この中に浄石が入っているよ。おじちゃんにあげるね」
「有難うファナちゃん。有難う」
モリスは袋の中の浄石を一つ取り出した。神々しい、神秘的な光を放っていた。




