第三十四話 フェジーナの進言
「…………」
グランドパレスの平原でフェジーナは思案にふけっていた。
グランドパレスには平原自体は多いが、前述したように気候が厳しく土地も貧しい。
しかし、フェジーナが見ている平原のある区域は作物の成長で賑わっていた。その区域自体は平原全体を覆わないまでもかなり広い。
フェジーナはそれを見て考えていた。
(浄石の力とはこれほどか……これをまとまった個数、手に入れることができれば、人口問題などの諸問題も解決でき、民をより豊かに暮らさせることができるのだが……)
そう思案を巡らせていると、側で様子を見ていたモリスが話し掛けてきた。
「数ヶ月前に、浄石を蒔きましたがここまでの効果が出るとは驚きましたな」
「ええ。蒔いた当初から土が違っていましたが、素晴らしい効果です」
「そうですな……。まとまった数が欲しい所ですが、エルフィン側も中々簡単には譲ってはくれないでしょう」
「私もそこを考えていました。浄石に見合う代償があればエルフィン側に渡し、浄石を輸入するのですが。あいにく適当なものが思いつかない……」
「うむ。そうですな。困りましたな」
二人はその後、暫く浄石を蒔いた平原を見ていた。いくらか時が経った後、モリスが口を開いた。
「フェジーナ殿、冷えてきたでしょう。作物の成長を眺めるのも面白いものですが、そろそろ城に戻りましょう」
モリスがそう言うのに、フェジーナは笑って返事をした。
「はははっ。グランドパレスでは珍しい光景なのでつい見に来てしまうのです。つきあわせてすみませんでした。城に戻りましょう」
フェジーナ達はグランドパレスの城に戻った。城内に入ると、クーガーと、クーガーの一人息子カルザスが出迎えた。
「巡察ご苦労だった、二人共」
まず、クーガーが労をねぎらい、そう出迎えた。
「いえ、苦労というほどでも御座いません。農地の生き生きとしている作物を見るのは楽しみの一つです」
「うむ……そうだな。あのような農地が国中に広がれば我が国の民はいくらでも豊かに暮らせる」
「はい、浄石の効果は素晴らしいものがあります。ただ一つだけでは、流石に効果を発揮する範囲は限られますね」
「そこが問題だな。どうしたものかな……」
クーガーとフェジーナが話している側らでカルザスは座りながら居眠りをしていた。
「カルザス! 起きぬか!」
クーガーの声に驚いて、カルザスは起きた。
「いやいや、昨日が遅かったので申し訳ない、居眠りをしていたようです」
息子のいつもの様子にクーガーは呆れているようだった。
「また遅くまで城下で遊んでおったのだろう! しょうがないやつだ。今の話を聞いておったのか? フェジーナと大事な話をしておったのだぞ!」
「巡察ご苦労と言われていた所までは覚えています。後はちょっと……」
カルザスの返答にクーガーは怒る気も失せたようだった。フェジーナとモリスはいつものやりとりをよくあることとして、見守っていた。
(カルザス様は決して凡愚ではないのだが、少し遊びが過ぎる所がある。やはりクーガー様と比べると王の資質としては劣る所があるか……)
フェジーナはそんなことを考えていた。クーガーとカルザスのこういった様子を見ると、どうしてもそういうことをフェジーナは考えてしまうようだった。
「まあよい。ちゃんと起きて聞いておれ。エルフィンともっと友好を深めることができればまとまった数の浄石を譲ってくれるかも知れぬが、いくら友好を深めたとしても只ではくれまい」
「ええ。元々他国の干渉を極端に嫌う国です。その中でも嫌われている我が国と親書の交換をしただけでも信じられない成果ですから。モリス殿に感謝しないといけません」
フェジーナがそう言うのに、モリスは手を振って謙遜した。
「いやいや、運が良かっただけです。私はエルフィンに入った時点で、不安でひやひやしていました。何をしたというわけでもございません」
「いや、モリスでなければこのような外交の成果はあげられなかっただろう。改めて礼を言う」
「恐れ多いことです。有難うございます」
「それにしても、悩みますね。絶対必要なものだけに悩みます」
居眠りから起きていた、カルザスは今まで黙っていたが、話をそこまで聞いて口を開いた。
「戦争でエルフィンを侵略して、浄石を奪ってしまえばいいんじゃないんですか? 侵略戦争なら我々は得意でしょう?」
「黙らぬかカルザス! 軽はずみなことを申すな!」
息子の言動に怒ったクーガーはカルザスを大喝した。しかし、フェジーナはカルザスの意見を聞いてなるほどと思った。
「いえクーガー様、カルザス様のご意見で逆転の発想を思いつきました」
「何だフェジーナ? 逆転の発想というと、お前までエルフィンを侵略せよと言うのか?」
クーガーはまだ言葉に怒りを乗せていた。
「その逆です。今後我が国は一切侵略戦争を行わないことを条件に、エルフィン側と外交を進めるのです」
フェジーナの案に、皆、身を乗り出して聞き始めた。
「どう進めるのか詳しく話してみてくれ」
クーガーがそう言ったのに、フェジーナはうなずいて答えた。
「エルフィンは戦争を嫌う国です。侵略戦争ばかり繰り返している我が国は勿論、最も嫌っている国の一つです」
「そう好きで、侵略しているわけでもないのだが、そうエルフィン側には映るだろうな」
「そこでです。エルフィン側にクーガー王が親書をお書きになり、今後は決して侵略戦争を行わない旨を宣言するのです。そうすれば、エルフィン側は今以上に我が国と友好を深めてくれることは間違いありません」
「なるほど」
「そして、その条件を我が国が提示してから、浄石の輸入のことをエルフィン側に伝えればあるいは、上手く浄石が手に入るかも知れません」
そこまで聞いて、クーガーはパンと手を打った。
「流石フェジーナだな。名案だ。それしかあるまい。浄石が手に入れば、侵略戦争を行う意味もほとんどなくなるからな。よし! 決めたぞ! モリス!」
「はっ!」
「度々すまぬが、もう一度エルフィンに行ってくれぬか?」
「我が国のためです、必要とあれば何回でも行きます。では早速、身支度をして参ります」
「うむ。頼む」
モリスはクーガーに会釈をし、エルフィンへ出発する身支度を整えに下がっていった。
「…………」
カルザスは面白くない顔をしていた。




