第三十三話 故郷リゾレッタへの帰還
卒業後、暫くホーク達には休暇があり、その後、辞令が出た。
ホークは兵学校を卒業したケルトとゾルカスを直属の部下に持つことになり、故郷のリゾレッタへ赴任することになった。
カイトがリゾレッタの新しい領主になるからだ。ホーク自身はカイトの直属の側近になる。
丁度、神官学校を卒業したシージャもリゾレッタに戻る日が調整できたようなので、ホーク達は五人で一緒に帰ることにしていた。
そして帰還の当日……
「……ホークさん。……お弁当」
エレナは声を詰まらせながらホークに弁当を渡していた。既に涙が落ちていた。
(どうしたもんかなあ)
ホークはそう考えながら弁当を受け取った。そして、その弁当を荷物入れの中に入れた。
「リゾレッタに戻るけど全然会えなくなるわけじゃないよ。年にニ、三回は国王に謁見する用事があるからね」
「……でも。……今までは毎日ここにいたでしょう? ……凄く寂しいです」
エレナはその後は涙があふれてしょうがない様子だった。ホークはその様子を黙って見守っていた。
暫くしてエレナは少し泣き止んだ。
「そうそう、これを渡そうと思っていたんだ」
エレナの涙が少しおさまったのを見てホークは一冊の本を取り出した。
「これをあげよう。世話になったからね」
それは絵本だった。(お月様とお日様)という題名だった。
「……絵本?」
「エレナは難しい本は分からないと言ってただろう? だから何かいい本がないかなと思って探していたんだ。これは優しい文字と文章で書かれているよ。絵本だからね」
エレナはパラパラと絵本をめくってみた。
「本当だ……。絵も優しい絵が描いてある……」
「話も面白いんだ。何回読んでも飽きないと思うよ。まあなんというか……寂しくなったらそれを読んだらいいんじゃないかな」
「はい……そうします」
エレナがそう言ったのを聞いてホークはゆっくりうなずいた。
「それと……一つお願いがあるんだ」
「何でしょう。私にできることならなんでもします」
「大したことじゃないんだけど、笑って送り出してくれないか?」
エレナはそう言われて、ずっと泣いていた自分に気付いたのだろう。我に帰り、涙を拭いて精一杯の笑顔を作った。
「お気をつけて、お帰りください。また来て下さいね」
ホークも笑顔で小風亭を後にした。
エレナは絵本を抱きしめていた。
「五人で一緒に帰れるようになるとは思わなかったな」
リゾレッタへの帰路、ホーク達は雑談を交わしながら歩いていた。
「お前の兄さん連中や女王の影響もあって、やっかい払いみたいな感じもあったけどな」
カイトが話し掛けてきたのに、ホークは何の気なしにそう答えた。
「すまんな……。確かに俺のせいもある」
「いや、責めてるわけじゃないんだ、リゾレッタに戻れて良かったと僕は思っているから」
カイトにホークがそうフォローしていると、ケルトやゾルカスも会話に加わってきた。
「俺たちも帰れて良かったと思っているよ。やっぱり、リゾレッタが好きだからな」
「俺も俺も」
「はははっ。有難う皆」
一連の会話をシージャは笑みを浮かべながら聞いている。
「領主様が高齢だったからな……。それも幸運といえばそうだったろうな」
ホークがカイトにそう言った。
「領主は元々オストガルドの出身で隠居して本国に帰りたがっていたらしいからな」
「それにシクロス地方も今回の辞令で任されている。これは大きいぞ」
「お前のホームグラウンドだよな、ホーク」
ここで初めてシージャが口を開いた。
「そうなるな。仕事に気合が入るな、これからは。それに、一年後にはシェラとアベルもこっちに来てくれるからな」
気合が入ったホークを珍しい目で皆見ていた。
「お前は俺の幼馴染の参謀として、特別にリゾレッタに帰れたからな。本当なら魔法使いは一年間は国王直属の士官として働かないといけなかったんだがな」
「ああ、運がいいんだ。今回はすべての面において。よし! やるぞ!」
「珍しいよなお前がそんなに気合を入れているのは。僕も釣られて気合が入るよ」
シージャにそうまとめられて一同は笑った。
帰還の道中は賊の介入もなく、楽しいものだった。
「帰ったよ。父さん、母さん」
「ただいま帰りました。おじさん、おばさん」
ホークとカイトはリゾレッタに到着するとホークの実家にまず戻った。事前に帰還の手紙を出していたので、ラークもメイシャも首を長くして待っていたようだった。
「おかえり。二人ともよく帰ってきたな」
「おかえりなさい。オストガルドから歩いたんだから疲れたろう、まあ座ってお茶でも飲みなさい」
二人に暖かく迎えられ、ホークとカイトはテーブルの席に座った。程なく、メイシャは紅茶を出してくれた。レンのパン屋で買ったパンもお茶請けに出た。
「土産話も色々聞きたいが……まず、二人ともよく士官学校を卒業したな。立派だぞ」
「そうよ。あんな難しい学校を卒業するだけでも立派よ。よく頑張ったわね」
「卒業するまでは頑張ると言ったからね。僕も無事に出れてほっとしているよ」
「俺が無理やりホークに頼んだんですよね……オストガルドに来てくれるように。ホークが来てくれなかったら、俺は頑張れなかったでしょう。おじさん、おばさん有難う御座いました。それと申し訳ありませんでした。ホークを借りて」
カイトがそう頭を下げるのにホークはかぶりを振った。
「いやいや、そんなにかしこまることはないよカイト君。ホークも成長するいい機会を貰えたんだし、実際に成長して帰ってきたんだからな。こんなに嬉しいことはないよ」
「そう言って頂けると有難いです」
「それと、ホークは次席を取ったんだってな。我が子ながら頭がいいのは知っていたが……これには驚いた。凄いな。無事に卒業してくれればいいと思っていただけだったんだが」
「僕もこんなにいい成績が残せるとは思っていなかったよ。でも一人賢い同級生がいてね。どうしても敵わなかったなあ」
そうだろうと、ラークはうなずいていた。メイシャは一人息子が戻ってきたのが嬉しいのだろう。ずっと微笑みを浮かべて会話を聞いている。
「世の中は広いからな。秀才は沢山いる。そういう同世代に囲まれて勉強したことが、いい経験になっただろう」
「そうだね。僕もそう思うよ」
「ところで……二人共ここに住んで働くのか?」
ラークはそう二人に尋ねた。このことは手紙には書いていなかった。
「いえ、俺は元の領主の城に住みながら仕事をすることになります。暫くはここで厄介になりますが」
「ふむ、そうか。それは残念だな。また四人で一緒に暮らせるかと思ったが。ホークはここから通うんだよな?」
「ああそうだよ。実家から領主の城に通うのが基本になるね」
「良かった。まだお前は十七だから手元に置いておかないと心配だからねえ」
メイシャはホッとした様子だった。
「母さんはずっと心配していたからな。まあ俺も同じことを考えていたが。何はともあれ、二人ともリゾレッタに赴任が決まって戻ってきてくれたんだ。本当に嬉しいよ、立派になって戻ってきてくれて」
ラークにそう言われて、ホーク達は照れ臭そうだった。
「それと、今言うんだがホークからの手紙を読んだ後、オストガルド国王宛に手紙を出してな」
「そうなの? どんな手紙?」
「リゾレッタで再仕官する旨の内容で出した」
「えっ!」
ホークとカイトはこれには驚いた。
「昔はオストガルド本国で仕えていたんだが、わけがあってリゾレッタに戻って来たというのは小さい時に話をしたこともあったっけな」
「うん覚えているよ。それで農家を始めたって言ってたよね」
「ああそうだ。このまま生涯、百姓をやるつもりだったが、お前達が帰ってきたことで考え方が変わったんだ。息子が頑張っているのに、まだ元気な親が隠居しているわけにもいかんだろうと思ってな」
「それじゃあ……国王から許可が降りたら……」
「カイト君を主君として仕えなおすつもりだ」
ラークは力強くそう言った。それを聞いて、カイトは嬉しさで震えていた。
「ラークさんが仕えてくれれば千人力です! こんな嬉しいことはない! 有難う御座います!」
「老骨だが宜しく頼むよ」
ラークの思わぬ申し出にホークもカイトも武者震いが止まらなかった。それを見たラークは二人の成長した姿に満足そうにうなずいた。
その後は、オストガルドでの土産話などで盛り上がり、一夜をあっという間に明かした。




